恋人と吸血鬼を呼んでみた
「今日はわざわざ集まってもらってすまない。だけど、どうしても力が借りたくてさ。実は俺の友人が三角関係に発展しそうなんだけども……どうしたら良いんだろうか」
レイヴンが人魚のシケちゃんからラブレターが届き、男三人、衝撃を受けて数日後。
こういった議題に対して真摯に受けとめ、さらに良い意見を出してくれそうな俺の知り合い二人に協力を求めた。
問題の渦中にいるレイヴンはいないけどな。
宿部屋に三人、椅子に座って話し合いを始める。
「はっはっは、そういうことならば任せたまえ。実った恋のアフターフォローも相談は受け付けているからね。後悔の無い選択をするよう、アドバイスを贈ろうじゃないか」
「……どなたでしょうか」
俺とユウガがかなりお世話になった恋のキューピッドこと、カイウス。
ほとんどぶれない、抜群の安定感をほこる聖……女様で俺の恋人セシリア。
デュークはちょっと動揺していて、チャラいあの頃に戻り気味なので今回は不参加。
この布陣なら、良い感じにレイヴンがどうすべきかを導いてくれそうな気がする。
まあ、その前にセシリアとカイウスは自己紹介が先かな。
「セシリア、カイウスだ。ブライリングって町で恋のキューピッドをやっている」
「恋の、キューピッド……ですか?」
「迷える者の背中を優しく、時に激しく押しているだけさ。私は恋に苦しむ彼らにほんの少しだけ、勇気を与えられたら良いなと考え、相談を受けている」
「は、はぁ、有名な方なんですね。私はセシリア・アクアレインと申します。その……おそらくヨウキさんがお世話になったかと」
恋のキューピッドと知り合いってことは……みたいな感じでセシリアは悟ったらしい。
片想い時代に相談までしていたんですねとか、思っているのかな。
俺の顔を見て少しだけ優しく微笑んだっていうのはそういう意味だととらえて良いんだろう。
……今度、そういう話もしてみようか。
「彼も恋に悩む一人の男だった……が。今は友人のことを心配できるほど、余裕があると。ふっ、君の想いが報われたようだからね。あの勇者の彼も……ね」
ユウガもカイウスの尽力でミカナと仲直りするきっかけを作ってくれたんだっけ。
「あいつは今、そこそこ暴走してるけどな。極端なんだよ。配慮無しで空を担いで飛び回ってるんだぞ、ミカナのことも考え……」
言い切ろうとしたら、偶然セシリアと目があった。
その目にはヨウキさんが勇者様のことを言えますかと語っている。
……配慮は必要だよな、うん、必要だわ。
「あの、カイウスさん、聞きたいことがあるんですが」
「何かな、青き髪の僧侶。安心したまえ、私は女性からの相談も受け付けているからね。遠慮なく、聞きたいことを聞くと良い」
「壁に立て掛けてある棺桶は一体、何が入っているんでしょうか。時々、音がするんですけど」
セシリアの疑問に俺からは何も答えられない。
愛しい恋人と片時も離れたくないカイウスは、棺桶に彼女を入れて外出する吸血鬼。
理由は理解しているけど、色々とやり過ぎているところは理解できない。
自己紹介から怪しさがあったのに、セシリアの表情が、疑う目がやばいぞ。
「その中には私の大切な人がいる。一度守れなかった大切な人、最近、ようやく私のことを許してくれてね。こうして外出する時は一緒に出掛けるようにしているんだ」
「……」
やんわりとした言葉を選ぶことなく、自ら恋人拘束監禁疑惑を言い放ちやがった。
セシリアの表情が死んでいる、そして、今、矛先は俺に向いた。
知っているなら何故止めないのですかと言いたいのだろうな。
言葉にしなくても伝わる……これが心が通じあっているということか。
「ヨウキさん、ご友人というのはある程度察しています。レイヴンさんには申し訳ありませんが、まずはこの方の非人道的な行為を正さなければなりませんので、少し時間を貰いますね」
セシリアが俺とユウガにしか見せたことのないであろう、聖女の微笑みを発動している。
顔を合わせてまだ、五分も経っていないのに。
カイウスはどこか余裕そうに笑みを浮かべているだけで……やばい、この二人ミスマッチだった。
「ふっ、君は彼の真の姿を知っているのかな?」
俺が魔族だってことかな、カイウスには俺がセシリアに正体ばれてるって言ってないんだけども。
「ヨウキさんのこと……理解していますよ。理解した上で私とヨウキさんは交際をしていますから。そんな、ヨウキさんの正体を知っているカイウスさんは何者でしょうか。恋のキューピッドではないですよね、他にも顔がありそうですが」
セシリアがそんな風にすっぱりと言い切ってくれるなんて嬉しい……って、このピリピリした空気はなんだよ。
セシリアに詳しく説明しなかった俺が悪いのか。
これ以上変な誤解が生まれては、いつまで経っても本題に入れないので、カイウスについて説明した。
カイウスは吸血鬼、恋人は二百年近く眠っていた、恋のキューピッドは本当、現在はユウガの友人のサポートにもついている等。
全てを話し終えるとセシリアも多少、思うことはあるみたいだが害意がないと納得してはくれた。
「……そうですか。ですが、棺桶に押し込むという行為に目をつむるというのは」
「確かに私も棺桶に彼女を押し込めていては、コミュニケーションが取りづらいと悩んだ。彼女を守るためとはいえ、拘束したままで意見も聞けないのは如何なものかと」
額を押さえて私は悩んだアピールをしだしたが、口ぶりからすると解決案を見つけたように聞こえる。
セシリアもカイウスの境遇には同情しているところもあるだろうし、印象が回復すれば……。
「棺桶に穴を空けてマルとバツが書かれた札を彼女の意思で出せるように改造をした。これで今何処にいるのか、お腹は減っていないか、揺れが激しくないかと伝達することができるようになったのさ」
「あああああぁ……」
俺は頭を押さえて崩れ落ちた。
セシリアの表情は見なくてもわかる、何を思っているのかも想像がつく。
想いが通じ合っているからな……うん。
「……ふざけているのでしょうか」
「セシリア、落ち着いてくれ。カイウスはマジなんだ、彼女のことを想いすぎていて少しだけずれているだけで」
「限度……というものがあります」
セシリアが止まらない、どうしようか。
二重、三重に頭を悩ませる結果になっているんだけど、全くレイヴンの話に行けないぞ。
「……彼女は日光に弱い」
「それは先程聞きました。安全のために棺桶に入れていると。声も出せないようにしているとも聞きましたね」
「彼女の存在を知られては困る。本当はむやみやたらに外に出すこと事態が間違っているのかもしれない。ただ、私は彼女と離れたくないし、こうして遠出をする時は一緒に過ごしたい。食べ物、景色、出会う人々……共有したいんだ、それだけ二百年という時は長かったんだ。自分勝手なのは分かっているつもりだが……」
カイウスの想いは彼女に届いたらしく、控えめな早さで棺桶からマルの書かれた札が出てきた。
彼女さんが容認済み、これならセシリアも……。
「お互いに納得しているのなら、第三者がこれ以上干渉するのはいけませんね」
「ま、世の中には色々な付き合いをしているカップルが多いってことだな」
綺麗にまとめたし、これでやっと本題に入れそうだ。
「ああ、あと、日光によって浄化された空気は彼女には毒だという理由もあるな。彼女の美しい声がかすれてしまうと考えただけで、私は胸が張り裂けそうなくらいに……」
結構な早さで棺桶からバツと書かれた札が出てきた、おい、カイウス、嘘がばれてるって。
結局、セシリアは聖女になった。
レイヴンのために開いた会議なのに……進まねぇ。
 




