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友人への手紙を読んでみた

「……大丈夫」



「遠慮するな……いや、そうだな。ハピネスの仕事を奪うのは忍びない。……昼休みはもう取ったのか?」



「……まだ」



「……なら、今から昼食にしないか……ハピネスの都合が合えばで良いんだが」



「……うん、大丈夫」



「……じゃあ、行こうか」



そうして、さりげなくハピネスが持っていた荷物を奪うレイヴン。



「……油断」



悔しそうな言葉を出しているくせに、どこか嬉しそうな表情でハピネスはレイヴンの隣を歩く……俺は帰って良いだろうか。

つーか、何、問題ないだろ、普通にリア充じゃね。



二人の姿はとても温かいものを感じる。

何よりもハピネスの笑顔がな……長い付き合いな俺でも、あんな感じに笑っているのは見たことない。



あれが好きな相手にしか見せない女の子の顔というやつか。

……レイヴン、お前の心配は杞憂だよ、絶対。

想いが重いとか思っていたら、一緒にいてあんな顔はしないって。



「……一体どうしたんだ立ち止まって。早く行くぞ、ヨウキ。ハピネスは昼休憩扱いだ、時間が掛かり過ぎては不味い」



「俺も行くのか……」



お邪魔虫以外の何者でもないだろう。

レイヴン、俺じゃなくて隣にいるハピネスの顔を見ろよ。

確実に不機嫌な顔になってるって……。



「……来る、なら、来る!」



「なんで、そんなノリなんだよ」



結局、二人に着いていってしまったんだ、俺は。

二人は並んで歩いて、俺は少し後ろを歩く。



レイヴンが良いレストランを知っているとかで、向かったんだが。

そこに着くまでの会話に俺は全く入らなかった。

例えば、二人で手を繋ぎ歩く親子を見てだ。



「……親子」



「ああ、そうだな」



二人が見ていたのは子を連れた家族だった。

父親、母親が息子を挟んで手を繋いで歩いている姿。

どこにでもいそうな、一般的な家族像だろう。



俺の場合、見ていたら微笑ましいなあ、といった具合。

二人は何を思ったか知らない、ただ、並んで歩いていた二人の距離が何故か近くなっていた。



また、広場に吟遊詩人がいた。

各地を旅して歌っているんだろう、広場にはそこそこの人だかりがある。

……よく見たらスタイルの良い女性詩人、群がっているのは男が多い。



男たちが浮かれていた原因の一端は彼女にあるかもな。



「……綺麗」



「……そうだな」



あっさりと肯定したレイヴンに対し、少しだけ頬を脹らませるハピネス。

嫉妬かな……思っていたら、レイヴンが両手でハピネスの頬を潰す。



「……安心しろ。俺の一番はハピネスだ」



そんな台詞を言って、ハピネスの目線に合わせるように屈み、頭をポンと撫でやがった。

思わず他人のふりをする……だって、俺がいたら確実にお邪魔虫。



ハピネスはそっけないふりを頑張ってしていた、ふりだ、ふり。

本当はうれしいくせに必死にこらえている姿を見て、なんか優しい気持ちになった。



また、レストランに着いたら着いたで大変だ。

テーブルに座っているだけでも地獄……二人は隣同士。

対して俺は一人、向かいの席。



「……割り勘」



「……いや、俺が出そう」



「……駄目」



「……いいから、な?」



「……了承」



「……」



二人がそんな感じでイチャイチャしている中、俺はちびちびと注文したアイスクリームを食べていた。

つーか、さっさと注文しろよ、ハピネスの休みがなくなるだろうと言いたかったが……あーんはしないんだよな。



そして、やっとセシリアの屋敷に着く。

レイヴンは代わりに持っていた荷物をハピネスに手渡している。



「……それじゃあ、またな。仕事、頑張れよ」



「……感謝」



「……ああ」



別れを惜しんでいる時も俺は無表情で棒立ち。

今生の別れでもあるまいし、手を絡めて見つめ合わなくても。



「……レイヴン、また。隊長も」



一応、俺にも挨拶をしてくれたので、手を軽く振る。

荷物を抱えたハピネスは重い足取りで屋敷に入っていった。



「……どうだった」



レイヴンは冷や汗たらり、機械のような動きで首を動かし俺に尋ねてくる。

声も裏返っていて、只でさえ高い声がさらに高音に聞こえた。



ああ、そういえば悩んでいるんだったな、そうだった、そうだった。

……ふぅ、すっかり忘れていたな。



「末永く幸せにイチャイチャしていろ。なんなら、ユウガとミカナみたいに同棲しちまえ、問題ないだろうから」



「ま、待て、どうしてそういう話になるんだ」



「ハピネスはソフィアさんがびしびし鍛えたから、家事も一通りこなせるぞ。良かったな。ああ、おはようからお休みまで一緒にいれるし、万々歳だな。はっはっは」



「……その言葉、そのままヨウキに返してやっても良いんだぞ」



レイヴンの思わぬ反撃に余裕こいて笑っていた俺の顔が凍りつく。

そうだ、他人事じゃない、俺もそういう立ち位置にいるんだ。



俺を見るレイヴンの目が怖い。

あれは散々好き勝手言いやがってという目だ。

そんなレイヴンから目を逸らすように屋敷の方に視線を向ける。



セシリアの部屋辺りを見ると窓が閉まっており、中に人がいる気配がない。

今日はいないようだな、残念だ。



まあ、いきなり押し掛けるのもどうかって話だし、会いたいとか思ってはいるけども。

屋敷にはもう用事がないし、用もないのにいたら邪魔になりそうだ。



「さて。ハピネスも送り届けたし帰るか。目的は果たしたろ?」



「……おい、今日の目的は俺の悩みを」



「いや、そうは言われても。あれを見させられたら問題ないとしか言えないぞ。ハピネスも俺やデュークにシーク、昔馴染み組でも見たことないような笑顔だったし」



何を気にする必要があるのやら。

むしろ俺は自分を心配した方が良いよな、そうしよう、うん。



「……ヨウキの言い分は最もだ。だけど、俺はハピネスと一緒いると自然に行動を起こしてしまうことが多い。つい、嬉しくて自分の思うがままに行動してしまうんだ。それが、ハピネスに迷惑をかけているんじゃないかと、怖くて」



「レイヴン」



俺はポンと優しくレイヴンの肩に右手を置く。

そして、満面の笑みを浮かべて、俺の感情を短くまとめた言葉を口から出した。



「はぜろ」



良い笑顔で言えたと思う。

語尾には音符マークがついていたことだろう。

左手が空いていたので親指をぐっと立ててやった……もちろん下方向にな。



「どうしてだ、ヨウキ。俺は真剣に悩んでいて……」



「お前の悩みは贅沢過ぎるんだよぉぉぉ!」



無自覚で恋人を愛し過ぎているのが悩みとか、お前、ミネルバの独身男子全員からぼこられるぞ。



悔しいが俺よりも先に恋人になって……いや、月日は関係ない。

俺とセシリアの絆は固い上下関係じゃなくて、絆で結ばれているからな。



「俺とセシリアを見習え!」



「……ヨウキとセシリアを? 確かに二人は一定の距離を保っているよな。一線は越えないようにとお互いに意識していそうだ。デートも都合をつける場合もあれば、ヨウキが急に誘いに来るとか。あと、二人が一番気に入っているのは、セシリアの部屋でお茶を飲みながら談笑すること、だったか。誠実で清らかな付き合いだ……節度を守っているんだな。団員たちもヨウキを見習ってもらいたいものだ」



うんうんと頷くレイヴンだが、俺からしたらたまったものではない。

自分の恋愛事情を冷静に分析されるって、普通に恥ずかしいぞ。



「つーか、情報は誰から……」



「ハピネスだ。最近の隊長は……と近況を話してくる。 どうやら、セシリアと会話をすることが、ここ最近で多くなったらしいな」



「俺たちだけがこうして相談しているわけじゃないってことか」



女は女同士、男は男同士で相談し合っていると。

恋人になってもまだまだか、一緒に楽しいこと、辛いことを乗り越えていって……俺たちは成長していくんだ。



「レイヴン、俺たち頑張ろうな!」



「ん、あ、あぁ……」



「よし、解散」



こうしてレイヴンの悩みは消え、俺たちは一つ成長し新たな一歩を踏み出したのであった。



「……勝手に終わらせるな」



「やっぱ、駄目か。良い感じにまとめて、完!」



「……完じゃないだろう。ヨウキ」



「わかった、わかった。怒るなって、頼むから剣の柄に手を持ってくな、屋敷の前で抜刀は不味いから」



俺としては幸せなレイヴン騎士団長ということで終わらせたいんだけど。

大体、俺の最終手段はハピネスに本音を聞くことだからな。



聞こうとしたけど、二人の間に入りづらくてタイミングを逃してしまった。

もう、聞いてきた方が早いって、絶対。



昼休みは時間いっぱい使ったから、もう仕事に入っているだろうけど、簡単な質問だし答えられるさ。

レイヴンの愛は重いかどうかって聞くだけ。



レイヴンに説明せずに、いざ屋敷の中へと思ったのに邪魔が入る。

後ろからレイヴンを呼ぶ声が聞こえるのだ。

二人して振り向くとガシャガシャと音を立てて、走ってくる騎士が見える。



やたらと首を気にしているので、あれはデュークだ。

あんなにあわててどうしたのやら。



「レイヴーン宛に手紙っすよー」



デュークは手を振りながら大声を出している。

レイヴンに手紙が届いたことを伝えにきたらしい。

……いやいや、そんな手紙くらいでわざわざ探しに来ないだろう。



手紙はついでできっと本題があるに違いない。

レイヴンもそう思っているのか、仕事モードの表情でデュークに近づいていく。



「はぁっ、はぁっ。……レイヴン、これどうする気っすか」



「どうした、何があっ……」



レイヴンが何かを見て固まった。

何かあったのかと俺もデュークに駆け寄って、レイヴンの固まる原因となったものを見る。

手紙が原因だった、只の手紙じゃなく、恋文だった。



手紙の内容はわからないけど、入ってる封筒にハートマークがついていて、あなたに私の想いが届きますようになんて書いてあったら、ほぼ確定である。



「レイヴン、言っておくっすけど、これはハピネスの書いた字じゃないっすからね。俺は付き合いが長いからわかるっす。これはハピネスの字じゃなくて。知らない、誰かの、字っす……」



「デューク。お前、混乱し過ぎだろ。頭を冷やせ」



俺はデュークから手紙を奪い取り、容赦なく蹴りを入れた。

動揺するのはデュークなキャラじゃない、さっさと戻ってこいという意味を込めてみたぞ。



ごろごろと転がっていったデュークはほっといて、手紙をレイヴンに渡す。

もらったものは仕方ない、レイヴンが対応すれば良いだけだ、焦ることなんてあるか。



ハピネスの重荷になっていないかと悩むくらい、ハピネスのことを想っているんだぞ。

そんなレイヴンに限って、別の女性になびくなんて……ないない。



「申し訳ないが俺にはハピネスがいる。どんな相手でも俺の心は変わらないだろう。だが、読まずに捨てるというのは、相手の気持ちを踏みにじることになるか」



そんな俺をハピネスが見たら悲しむしなと、レイヴンがぶつぶつ言いながら、封筒を開ける。

どんな内容だろうかと気になったので、レイヴンに許可をもらい、読む。



「何々……先日は危ないところを助けて頂きありがとうございました。おかげで私は元気な姿で生活をおくることができています。感謝してもしたりないくらいです……か。」



途中まで読んだ限りだと、レイヴンに恩義を感じている人からのものだな。

見回り中のいざこざを鎮圧した時かね。



「あれから、あなたのことが忘れられないんです。馬鹿ですよね私、あなたの迷惑にしかならないってわかっているのに」



ハピネスとの関係を知っているにも関わらず、恋文を出したのか。

……これは随分とレイヴンに惚れているな。



「でも、自分の気持ちが押さえられません。会いたいです、もう一度、私とあなたが出会ったあの場所で待っています」



結構、本気の内容だ、俺は読んでいられなくなり後ずさりそうになるがこらえる。

デュークも復活した、レイヴンは黙ったまま、手紙の一枚目はここで終わり、手紙は二枚目に移った。



「頑張って怪しまれないように手紙を船乗りの方にお願いしました。あなたに届くことを願っています。もし、あの場所に来れたら私の名前を呼んで下さい」



名前の所には海を泳ぐ生き物より、と書かれている。

……うん、本名書かなかった理由はなんとなくわかるから置いといて。

これは、俺とレイヴン、ハピネスで依頼に行った時に助けたシケちゃんからの手紙だ。

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