元部下を迎えにいってみた
「安心しましたし、気持ちも伝わりましたが……何故、こうなるのでしょうね」
「……つい、やっちまった」
決意表明したのは良いものの、その勢いのままお姫様抱っこをしてしまった。
普通なら手を握ったり、抱き締めたりするもんだけど……厨二スイッチが入っていたから、妙なテンションが災いしたな。
まあ、これが俺らしいっちゃ、らしいしセシリアも嫌ではないみたいだから、良いか。
「この状況、シークくんたちがいたら少し恥ずかしいですね」
「うーむ、確かに……いざ意識すると恥ずかしいな。つーか、どこまで行ったんだあの三人。山の奥まで行ってないだろうな」
いざとなったら俺の感覚強化で捜索できるけども、自分たちから率先して危険な場所まで行ってほしくないな。
シークはその辺、わかっているようでわかってないから心配だ。
フィオーラちゃんはともかく、クインくんというしっかり者もいるから安心しているっちゃいるんだが。
魔物に襲われてもあの三人なら、並大抵の相手なら切り抜けられるだろうし、この山にそんな危険度の高い魔物がいたら、俺も気づくしな。
「心配ですね。夜の山道を歩くのは危険ですし、探しに行きましょうか」
「うーん、そうだな。行こう」
シートはそのままにしておいて、セシリアと一緒に三人を捜索する。
まあ、俺の感覚強化を使えば簡単に探し出せるわけで、そんなに難しいことではない。
「うん? シークの周りになんかいるな。あと、フィオーラちゃんとクインくんはシークと行動してないぞ。二人は一緒にいるみたいだけど」
「シークくんは二人と別行動しているんですね……」
「うーむ、あいつのことだから、木々を跳び移りまくって逃げたか。あり得るぞ」
すばしっこさに磨きがかかっているからな、シークのやつ。
しかも、森とか山はあいつの得意な場所だ。
二人から姿を消すなんて、容易いだろうな。
「……では、シークくんの周りにいる何かとは、何でしょう」
「待てよ、集中して会話を聞き取るから」
断片的にしか聞こえないが、友好的かどうかの判断はつく。
聞こえてくるのは子どもの声だ、それも蔑むような笑う声。
向けられているのは、おそらく……シークか。
「セシリア、まず、今からクインくんとフィオーラちゃんの所へ向かう。合流したら、二人を連れて先に戻っててくれ。俺はシークを迎えにいく」
「……何か良からぬことがあったのですね」
「ああ、あいつ同族のピクシーたちにからかわれてるみたいだ」
セシリアに事情を説明した俺は急いでクインくんとフィオーラちゃんと合流した。
二人はいなくなったシークを探してくれていたらしい。
どうやら、急に子どもの声が聞こえたようだ。
それに反応したシークがその声から逃げるように走り去っていったと……子どもの声ね。
もしかしたら、同族にちょっかいを出されたのかもしれん。
シークの事情は複雑で同族とはあまり良い関係じゃないんだよ。
つまり、今のシークは不味い状況にいるということ。
そんなシークを助けてやれるのは、現状俺しかいない。
デュークとハピネスとアフターケアをすることも視野に入れないと。
「じゃあ、セシリアは二人を頼む」
「わかりました。気を付けてくださいね。シークくんをお願いします」
「僕たちは留守番なんですね」
クインくんは少しだけ不服そうだ、シークの正体のこともあるので連れていけない。
それにおそらく、今のシークの状態は良くないと見る。
シークもせっかくできた同年代の友人に、情けない姿を見せたくないだろうからな。
「ああ、シークは俺が拾ってくるから、二人はお菓子でも食べながらのんびり待っていてくれよ」
「ねむねむ。……なのに、心配。眠れないから早くシークくんと戻ってきて欲しいの」
安眠できないからさっさと連れ戻してこいとは……中々だな。
フィオーラちゃんも心配してくれているようだ。
シークよ、この短期間に随分と仲良くなったみたいじゃないか。
「ま、行ってくるさ。そんじゃ」
俺はシークの元へと全力で走り出した。
森の中を全力疾走しているとシークの姿が見えてくる。
耳をふさいでうずくまっており、周りには案の定たくさんのピクシーがいる。
「ごるぁぁぁぁ! 家のシークを虐めてんじゃねぇぇぇ!」
俺は怒号をあげてピクシーたちを威嚇しながら、突進する。
食うぞてめーらと脅し文句付きで迫ったら、ピクシーたち悲鳴をあげてシークから離れた。
「うわぁ、こわーい。異端児の味方」
「誰が異端児だ、こら!」
するとピクシーたちは示し合わせたようにそいつーと一斉にシークを指差す。
……なるほどな、こいつらの総意はよーくわかった。
「自分たちと少し違うからってよってたかって差別すんのか」
「だって、そいつは異端児だもん。僕たちはこんなに大きくないし、ちゃんと羽根を使って飛べるしー」
そうだそうだーとピクシーたちは一斉に捲し立てる。
シークはずっと俯いたままで何も言わない。
……連れ帰るか、こいつらは煩いので俺の魔法で眠らせれば良い。
「シーク、帰るぞ。この煩いやつら俺が黙らせてやっから」
シークの頭をポンポンと撫でてやった瞬間、俺は気づいた。
俯いたシークから……ごりごりという音がする。
やばいと思った俺はシークから飛ぶように離れた。
そして思った通り、シークが真上に飛び跳ねて周囲に何かを撒いたのだ。
俺はぎりぎり避けたがピクシーたちは無理だったようで。
「目、目が痒いよー」
「鼻が……鼻が熱いー」
「はくしゅん、はくしゅん、はくしゅん!」
ピクシーたちは目の痒さ、鼻の熱さ、止まらないくしゃみに苦しむという地獄絵図状態に。
そしてかの状況を作った犯人であるシークはというと。
「あははは~、良い気味~」
木の枝の上に座り笑っている、いつものいたずら坊主なシークだ。
ピクシーたちからは悔しそうな声が聞こえてくるが、シークは笑っているだけ。
「あははは~。もう異端児とか関係ないもんね。僕にはデューク兄、ハピネス姉っていう家族がいるから、寂しくなんてないも~ん、ばーか。あ、あと隊長もいたっけ」
「俺はついで扱いか」
苦笑混じりにツッコミを入れるとシークは木の枝から飛び降りて、俺にのしかかるように着地。
「ううん~。隊長も家族だもんね~」
「そうか、そうか。俺はこんな手のかかるいたずら大好き自由奔放な息子がいたんだな」
心配したんだが……シークも俺の知らない内に成長していたんだな。
敗北をきっかけに学び、自分を見てくれる人にも出会い、友人もできた。
これはお祝いレベルだな、計画しておこう。
「それじゃ、帰るか。セシリアたちが心配してるからな。お菓子食べてろって言ったから、シークと俺の分まで食われてるかもしれない」
「え~僕もお菓子食べたい。隊長、発進、全速~!」
「降りないのかよ」
結局シークを頭に乗せたまま、俺は走ってセシリアたちの所へと向かっていった。




