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恋人と山でのんびりしてみた

「良い鍛練になりました」



「疲れた~」



「お腹、へりへり」



三人のじゃれ合い……にしては中々レベルの高いものが終わり、昼食の時間となる。

セシリアの特製弁当、俺が買ってきたマッスルパティシエ特製焼き菓子だ。



しかし、三人共ドロドロの傷だらけ、止めには入らなかったがかなり激しいぶつかり合いをしてたからな。

食う前に治療をしてやろうかと思ったら、素早くシークがリュックから薬を取り出して自分で治療を始めた、用意が良いな。



「消毒して~薬を塗って~包帯まいて~終了~。ごはん、ごはん」



手早く自分の処置を終わらせて真っ先にシートに座ったシークをじーっと見つめるフィオーラちゃん。



「お腹へったの、でも先に治療をしないと、いけないから、お願いしたいの」



「うん、良いよ~」



シークは軽い感じで返事をして手早くフィオーラちゃんに処置を済ます。

頼まれたら嫌な顔はしない、すぐに仲良くなれるのはシークの才能の一つだ。



治療を終えるとフィオーラちゃんはそのままシークの隣に座った、なんか微笑ましい。

ちなみにその間、俺はクインくんの治療をしていた。



「先程、思ったんですけどシークくんは薬学に詳しいんですね。やはり元々、山で生活していたのか。独学で薬学を学ぶとは考えにくい、師がいたという線もありますね……」



クインくんがまたシークについて考察を始めた。

……あいつの薬学は魔王城にあった書物を読み、自己流で覚えたから独学なんだよな。

薬の実験台は俺、何度変な症状に襲われたかわからんぞ。

苦くも懐かしい過去を思い出しつつ、弁当をつまむ、うん美味い。



「シークとフィオーラちゃんの距離が近いような……」



治療を終えて隣に座ったまでは見ていた。

弁当を食べている間に距離が段々と縮まっていたらしい、どういうことだ。

まあ、シークは気にしないさ、ティールちゃんで慣れているしな。



それに物静かな分、好印象なのではないかと思う。

普段、ティールちゃんはガイとのイチャつき具合を延々と語っているから。

これは、ひょっとしたらなんてことが考えられるのではないだろうか。



「フィオーラは興味が出たら止まりませんからね。薬草にはまったか……純粋にシークくんのことに関して興味を抱いたのかもしれないです」



「それは観察対象って意味か?」



「フィオーラは直感で動くので僕としてはなんとも言えないです。ただ、フィオーラは納得いくまで離れないんですよ。シークくんはその辺は大丈夫でしょうか」



「安心しろ、あいつはそういうのは慣れている」



「ふふ、そうですね」



セシリアもシークとティールちゃんが話しているところを何度も目撃しているだろうよ。

あいつは大丈夫だ、俺とセシリアが保証する。



「まあ、僕もシークくんにはある意味興味を持っているので、共に行動しますから。二人の距離感は僕が調整しますよ」



「んー……まあ、そんなに深くは考えなくても良いと思うけど。あいつは同世代の知り合いが少ないから、俺としては仲良くしてくれるだけで助かる」



「そうなんですか。シークくんなら、友人を沢山作れそうな気もするんですけど。僕としては良い鍛練仲間になってくれるなら、喜んで友人になりますよ」



そう言ってもらえると非常に嬉しい、息子に良い友人ができたような気持ちだ。

しかし、俺が安堵している中、シークはというと。



「この薬草は何に使うものなの」



「これはねー、隊長用だよ~。調剤したら隊長にこっそりと」



「おい、隣で毒殺計画を立てるんじゃない。聞こえてるぞ、シーク!」



「大丈夫だよ、完成した薬には半日の間、口から無害な青色の煙が出るようになる薬効があるだけだからさ~」



「ふざけんな。半日の間、俺にどうしろと!?」



そんなはた迷惑な薬を作ろうとしてんじゃねぇよ。

無害でも煙なら室内厳禁、外に出て薬の効果が切れるのを待つことになる。

対処方法を考えただけで、面倒なことになるのは目に見えているぞ。



ぎゃーぎゃーとシークと騒いでいるのをセシリアは微笑みながら見ていた。

あとで聞いたら平和ですね、という言葉が飛んできて納得してしまう俺がいた。



弁当も食べ終わり、各々が自由行動に出た中、俺は山から見える景色をぼんやりと眺めている。



「どうかしましたか、ヨウキさん」



「ん、ああ、セシリア。いや、セシリアじゃないけど平和だなと思ってさ。最近、騒動とかな……くはないけども。主に身内のだし」



どっかの誰かが婚約したり、どっかの誰かが付き合いだしたり、どっかの誰かが告白したりと。

めでたいことばかり続いている、騒動なんてなくね?



「そうですね。ハピネスちゃんが自分自身のことをレイヴンさんに告白したり、勇者様とミカナの結婚が決まったりと……」



「そうそう。何かここ最近、良いこと尽くしでさ。何か起きる前触れとかじゃないよな……」



「……ヨウキさんが言うと不安になりますね」



「なんで!?」



ちょっと傷ついたよ、セシリア。

まあ、確かに前科あるけども、鏡の自分に予言をしたら見事に予言通りに……偶然だろうけども。

俺の変な予感って当たるから嫌なんだよ。



今日くらいは平和に終わりたい、出来れば自然にイチャついていたい。

だから、お互いの肩がぶつかるくらいの距離になっても良いよな。

あくまで自然に隣に座るだけだ、うん。



「……シークくんたちは森へ行ってしまいましたね」



「ん、ああ。ふたりがシークを追っていった感じだったけど」



「シークくん、楽しそうでした。同じくらいの友達ができて嬉しいのでしょうね」



「まあな。あいつは寂しい思いをしてきたやつだから……俺としてはほっとしてる。繋がりを大切にして欲しい」



セシリアもシークのことを心配してくれていたようだ。

まあ、セシリアは優しいからな、当然だ。

そういうところも好き……とか言ったらきもいかね。



「ヨウキさん。こうしていられるのが、私は嬉しいです」



「うぇ!?」



いきなりの発言に驚いて変な声が出た。

こうしてとは……俺と一緒にいてということか、それとも旅行に出掛ける日常的な意味なのか。



落ち着け、深呼吸だ、セシリアがこんな……こんな、嬉しいことを言ってくれるなんてさ。

信じ……られる、セシリアは冗談ではなく、本気で言っている。

だったら、俺も真摯な気持ちで受け止めて返さないとな。



「んー、ごほん。……俺はセシリアよりも嬉しいと思っている」



「……」



セシリアさん、何か言ってくれ、固まらないで!

俺の発言、そんなに可笑しかったか。

負けない気持ちを表現したかったのだけども。

しかし、俺の心配も束の間、セシリアの固まった表情は笑顔へと変わった。



「ふふっ、では、私はそれ以上ということでお願いします。ヨウキさんには負けませんよ」



「いやいやいやいや、俺はセシリアよりも上だって、絶対」



「そうですか……」



セシリアは急に考え込んだ素振りを見せると、俺を真っ直ぐ見つめてきた。



「……蒼炎の鋼腕の騒乱を静め、騎士団に協力した黒雷の魔剣士。かなり、ミネルバ内で噂になりました。ギルドでもヨウキさんは充分に頭角を現しています。その上で私との関係……もしも、全てが明らかになったらヨウキさんの知名度は一気に上がります」



「そうだろうな。黒雷の魔剣士の活動ははじけまくってるから……。セシリアとのことは、そりゃそうだよな」



「ヨウキさんならと安心している半面、不安もあります。……もしかしたら、急にいなくなったりですとか」



正体がばれたら行方をくらますかどうか……もし、そうなったら、俺の周りの人たちにも多大な迷惑をかけることになる。

一番、辛い立場になるのはセシリアか……。



「いなくなったら……逃げですよ、それは。私に嘘をついたことになりますからね。その時は怒りますよ」



「……それは勘弁して欲しいな。セシリアから明確に怒るなんて言われたら、何時間説教されるのやら」



「嫌なら勝手にいなくなるのは禁止です。……私、泣くかもしれません」



そう言って、俺の手を両手で包み込むセシリア。

待て待て待て待て、何この状況、俺どうしたらいいの!?



「これが私の気持ちです」



「…………」



一本取られた、俺の中ではそんな気持ちだ。

実際にいなくなったら、どうするのか、そんな状況にはならないと思う。

世の中、何があるかなんて分からないし、絶対なんてありえない。



それでも、セシリアの不安は本物だろうし、ここで何も言えない、できないじゃカッコ悪い。

何よりも……俺の方が気持ちは上だと証明しないとならない。

俺らしさを出していこうか。



「ふっ、この俺が突然、勝手にいなくなるなどありえるか。俺の居場所は確定している、ミネルバから離れる気はない。ここには俺の城があり、手のかかる元部下や初めてできた友人もいる。……そして、離したくない者もいるからな」



俺はセシリアの両手から、手を解放して久々にポーズを決める。

いつも通り、変わらずのヨウキだ、セシリアも少しだけ微笑む程度、平常運転。



「俺が自ら、この場所を捨てるなどあり得ん! だが、そんなにも不安ならば、仕方ない。俺なりの誠意を見せてやろう」



無駄に回転してからセシリアの前に立つ。

ここまででセシリアはもうお腹一杯だろう。

しかし、ここからが本番だ。



「俺がどこかに行く時はセシリアに言うし、付いて来るなら連れてくからさ」

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