三周年記念特別番外編 気持ちを打ち明けてみました
「今日も良い天気ですね」
窓を開けているので、涼しい風が部屋に入ってきます。
こういう日は心も体もすっきりしますし、紅茶が美味しく感じたりしますね。
さて、今日は何をしましょうか、予定は入れていないので悩みます。
そんな時、扉をノックする音が聞こえました。
どうぞと声をかけると家のメイド長を勤めるソフィアさんが入ってきます、何か用事でしょうか。
「失礼致します。お嬢様、お客様が来ております」
「私に……ですか?」
「はい。お通ししてもよろしいでしょうか」
「ええっと、お客様とはヨウキさんですか?」
最近、急に来ることの多いヨウキさん。
ですが、私が休みの時に訪れるので、あまりすれ違いにはなりません。
まるで私の予定を知っているみたいです、完全に把握はしていないはずなんですけど。
「いいえ、ヨウキ様ではありません。ハピネスとシーク様とデューク様です」
「……わかりました。大丈夫です、部屋に通してください」
「かしこまりました」
ソフィアさんはデュークさんたちを案内するため、退室しました。
ヨウキさん不在でデュークさんたちが私を訪ねるなんて珍しいですね。
ハピネスちゃんやシークくんとは普段屋敷でお話しますし、デュークさんが何か話があるのでしょうか。
「……お客様が来たんですから、まずは準備をしましょうか」
私は愛用のティーポットを取り出し、準備を始めます。
ヨウキさんがよく訪ねてくるようになったので、来客用のティーカップや紅茶は多目に常備しています。
あとはお茶菓子の準備ですね、ソフィアさんにお願いして、厨房の方に何か作ってもらいましょうか。
「誰かが訪ねてくることに結構、私も手慣れましたね」
着々と準備を進めている内に、デュークさんたちが来てしまいました。
「セシリアさん、すみませんっす。急に押し掛けてしまって」
「気にしないで下さい、デュークさん。私も今日は何をしようか迷っていたところだったので」
申し訳なさそうに頭を下げるのは全身鎧に兜を装備したデュークさんです。
ヨウキさんが不在、三人だけで私を訪ねてくるのは初めてかもしれません。
「ハピネスちゃんも今日はお休みですから、かしこまらなくても大丈夫ですよ」
ハピネスちゃんが壁際で手を前で組んだままだったので、一言。
屋敷のメイドとしてではなく、友人として接して欲しいのですが。
「……気楽」
「え、ええと……」
ハピネスちゃんは口数が少ないので、言葉の意味を深く理解しなければなりません。
私もようやく、ハピネスちゃんとしっかり意志疎通ができるようになってきたのですが。
普段はヨウキさんが隣でハピネスちゃんの気持ちを細かく教えてくれるんですよね。
「ああ、ハピネスは慣れているから、このままの方が良いので、気にしないで欲しいって言ってるっす」
「そ、そうですか。ハピネスちゃん、疲れたら座っても良いですからね」
「……了承」
「ふふ、では、せっかくデュークさんたちが訪ねて来てくれたのですから、おもてなしをしないとなりませんね」
私はいつも使っているティーポットとカップを準備します。
ハピネスちゃんが手伝ってくれようとしたのですが、これは私の仕事ですから、お断りしました。
「セシリアさん、手慣れているっすね」
「はや~い」
そんなに手際よく準備できている自信はないのですが、デュークさんとシークくんは興味津々のようですね。
ハピネスちゃんは普段、私が準備しているところを見ていますから、そこまで驚きはしていません。
私もソフィアさんに比べればまだまだなのですが。
「ありがとうございます。……こうして準備をしているとヨウキさんは大人しく座って待っていたり、話したりするんですよ。私の淹れる紅茶が美味しいと言ってくれたりとか」
「隊長は美味い美味いって飲むだけなんすね」
「紅茶に合うお菓子を持ってきてくれたりしますから。デュークさん行ったことありませんか、兄妹で経営しているお店なんですけど」
「ああ、あそこっすか。行ったことあるっすよ、隊長と」
「……二人きり」
「ちょっ、変な誤解しないで欲しいっす。ただ、隊長から相談に乗って欲しいって言われたから行ったんすよ。好き好んで男二人でケーキ屋に行く趣味はないっす」
「私は良いと思いますよ」
そうして二人で出掛けたりできる友人がいるというのは良いことだと思うのですが。
ヨウキさんとデュークさんは信頼し合っている間柄に見えますし。
「そ、そうすかね」
「僕も今度連れてって~」
「はいはい、俺が連れて行くっすよ。ハピネスも行ってくれば良いじゃないっすか。二人で」
「……二人?」
「ほら、ハピネスにはいるじゃいすか。腕組んで一緒に行ってくるっすよ」
「……デューク」
ハピネスちゃんの目が急に泳ぎだしました。
デュークさんの言う二人で……レイヴンさんと一緒にという意味でしょう。
レイヴンさんもヨウキさんたちのことを含めて知ってしまったのですよね。
ヨウキさんは二人のために奔走していましたし、二人共幸せそうでしたので、私も祝福しています。
せっかくお付き合いを始めたのに、レイヴンさんの仕事が忙しくなってしまい、中々会えていなかったみたいですので、私も良いかと思いますが。
「ま、ハピネスのことは追々、話すことにして。今日はセシリアさんに聞きたいことがあって来たんすよ」
「私にですか、良いですよ。私に答えられることでしたら、何でもお答えします。どうぞ」
紅茶とお菓子を三人に渡して、私は席に座ります。
ハピネスちゃんも座って紅茶を飲んでくれました。
私は紅茶をゆっくりと飲みつつ、デュークさんの質問に備えます、どういったことを聞きたいのでしょう。
「じゃあ、正直に答えて欲しいっす。隊長のことなんすけど」
「ヨウキさんのことですか」
私よりも三人の方がヨウキさんとのお付き合いが長いので、意外です。
「隊長のことどんな感じに思っているっすか。すんません、変な質問をしていることは重々わかっているんすけど」
「……懇願」
「僕も知りた~い」
「そうですね……」
三人共、ヨウキさんを心配しての行動なのでしょう。
私も自分の気持ちを話すというのは少々、恥ずかしいのですが。
「ヨウキさんは一緒にいて楽しい方ですよね。あと、誰かのために自分の持てる力を尽くして行動する……頼もしいと思っています。行き過ぎた行動を取ることも多々ありますが」
「そうっすか。……うーん、隊長の好きな所って聞いても良いっすか?」
「えっ!?」
驚きのあまり、声が出てしまいます。
そういった質問、直球で聞かれるとは思っていませんでしたので、持っていたカップを落としそうになりました。
「……失礼」
「あ、やっぱりそうだったすよね。すんませんっす、セシリアさん」
「い、いえ、取り乱しました。私の方こそ、すみません。ヨウキさんの好きな所でしたね」
「え、答えてくれるんすか」
「はい、良いですよ。ヨウキさんへの好意は隠す物ではないですし、答えられないのはヨウキさんに失礼ですから。ヨウキさんも私のどこが好きかと聞いたら答えてくれるでしょうし」
「セシリアさん、男前っすね」
「……隊長、以上」
そんなに不思議なことでもないと思うのですが。
私が想っている気持ちは本物ですし……ヨウキさんと二人だけの秘密というわけでもありません。
そういった二人だけの特別はこれから増えていくでしょうから。
「ふふ、ありがとうございます。……先程も言いましたがヨウキさんと一緒にいると楽しいんですよ。この部屋で話していると、時間があっという間に過ぎてしまって……気がついたらヨウキさんが帰る時間なんです。あとは、私にしかわからない、ヨウキさんの魅力があるんでしょうね」
「……魅力」
「ええ、そうです。ハピネスちゃんにもハピネスちゃんにしかわからないレイヴンさんの魅力があるかと」
「成る程、そうなんすか、ハピネス」
「……黙秘!」
ぷいっとハピネスちゃんは顔を逸らしてしまいました。
きっと、恥ずかしいんでしょうね、わかります。
私も普通に話しているつもりですが、おそらく少しだけ顔が赤くなっているでしょうから。
「良くも悪くもヨウキさんは真っ直ぐな好意を私に向け続けてくれましたからね。そういった所にも惹かれたんだと思います」
「あー……ありがとうっす。セシリアさん、俺もハピネスもシークも隊長にはお世話になったというか、生き方を変えてくれたっつーか、そんな感じの存在なんすよ。これからも俺たちの隊長をよろしくお願いするっす」
「……嘆願」
「隊長をおねがいしまーす」
「というわけで、申し訳ないんすけども……引き取って貰いたいんすよ」
「はい?」
何をですかと聞こうとしたらデュークさんたちは退室してしまいました。
直ぐに戻ってきたのですが、何かを担いでいます。
石像でしょうか……見たことがあるような。
「ヨウキさん!?」
間違いなく石像はヨウキさんです。
石化してしまっているようですが、ヨウキさん程の実力者が一体何故このような事態になってしまったのでしょうか。
「まあ、ちょっと色々あってこの様っす。セシリアさん、お願いしても良いっすか」
「は、はい。勿論ですよ。すぐに石化の解除を」
「そ、そっすか。じゃあ、すみません。任せるっす」
「……感謝」
「あはは~」
「えっ?」
引き止める間もなく、デュークさんたちは颯爽と出ていってしまいました。
何か用事があったのでしょうか……考えるよりもまずはヨウキさんですね。
私は光の上級魔法、≪ホーリーコア≫を発動します。
光の渦を発生させて、渦の中心にいる者を回復する魔法なのですが、毒、麻痺、石化を治す効果もあります。
やがて光の渦が止んでいくと、そこにはきょとんとした様子のヨウキさんが立っていました。
「あれ、セシリア? なんで?」
「私はデュークさんたちにヨウキさんを石化から治して欲しいと頼まれたのですが」
「そうだ、思い出した。あいつらぁぁぁぁぁ!!」
ヨウキさんの目が鋭くなり、部屋の窓へと駆けて行きます。
口振りから察するにデュークさんたちのことでしょう。
……何があったのでしょうか。
「ヨウキさん待ってください。事情の説明をお願いします」
引き止めるとヨウキさんは止まってくれて、事情を説明してくれました。
四人で依頼に行き、ヨウキさんの実力が見たいとデュークさんたちが要望を出して、ヨウキさんは承諾。
討伐対象の魔物を倒していると、デュークさんたちだけ楽をしていることに気付き、口論に発展。
そしたら、コカトリスの群れが現れてほとんど倒したのは良かったものの。
「最後の一体のコカトリスの攻撃の盾にされてしまったということですね」
「そうなんだよ。あいつら絶対に許さん。明らかに三人がかりで俺を前面に押し出したからな。石化させる気満々だったぞ」
「何かの間違いではないでしょうか」
「いやいやいやいや! 悪意があったから、あれ。しかも、シークのやつ、何で薬草使わねーんだよ。あいつなら、石化状態を回復させる薬草くらい持ち歩いているはずなのにさ」
ヨウキさんはお怒り気味ですが……もしかしたらデュークさんたちは私と話すためにヨウキさんを行動不能にしたのでしょうか。
三人で確かめたかったのかもしれません、また、それをヨウキさんに知られたくなかった故の……。
「よし、こうなったら地の果てまででも追いかけてやる。くっくっく、この俺の本気の追尾から逃れられると……」
「ヨウキさん。せっかくですし、紅茶飲んでいきませんか?」
「え」
「お菓子もあるんですよ。私、実は今日予定が入っていないんです。よろしければ、お付き合い頂けますか?」
すでにカップを手に取り、ヨウキさんの紅茶を準備をする私は卑怯でしょうか。
でも、さっきデュークさんたちに話した通り……ヨウキさんとこの部屋で過ごすのが好きなんですよ、私。
「まじで、じゃあ、ご馳走になります!」
嬉しそうに定位置の場所に座るヨウキさん、今日はどんな話をしましょうか。
あ、過ごすのも好きですが、ヨウキさんのことも好きですよ。
「ふふ……どうぞ」
私は紅茶の入ったカップをヨウキさんに渡しました。
セシリア目線も良いかもしれない……。




