友人の恋愛相談を受けてみた
「好きな人が出来た……か」
夕食中、友人であるレイヴンからまさかの恋愛相談に狼狽えていた。
「すまない。相談できるのが、ヨウキぐらいしかいなくてな……」
声のせいでレイヴンはクールで寡黙キャラをしているからな。
周りの人間に好きな人が出来たなんてキャラに似合わないとか言われて笑われるのがオチだな。
「うーん……」
前世で告白、転生して告白し、結果付き合えたことが一度もない俺に恋愛相談か。
……おいおい、なんか、不吉だな。
相談する相手を本当は間違っているんだけどなぁ。俺以外相談する相手がいないのだろう。
「相手はどんな子なんだ?」
せっかくできた友達だし、無下には扱いたくないので一応相談に乗ろう。
「……彼女は俺の声を馬鹿にしなかったんだ。むしろ、良い声、羨ましいって。それで……」
なるほど。声がコンプレックスだったレイヴンにとってはかなり嬉しい出来事だったんだろう。
普通なら見た目とのギャップで笑ったり、驚いたりするからな。
「なるほど。それで惚れたと」
思ったより、普通の恋愛相談だな。
レイヴンは恥ずかしいのか顔を紅くして、頬をかいている。
「……俺はどうすればいいだろうか?」
どうやら相当惚れているのだろう、顔を紅くし、オドオドしている。
思春期の中学生かよ。まあ、声のせいで女どころか男友達も作らず、剣一本で今まで生きてきたようなもんだもんなぁ。
こういう話には疎いんだろう。
「好きなら、告白してみたらどうだ?」
世界を救った元勇者パーティーの一人。
イケメンだし、声のこともクリアしているなら良い返事を貰えると思うんだが。
「……自信がないんだ。生まれてから、剣一本で生きてきたような俺に果たして、彼女なんて……」
やはり、そんな感じの理由か。
まったく、イケメンなんだから、自信を持てよ。
仕方ない、自虐ネタになるが友人が困っているのだ。
久しぶりにスイッチを入れるか。
「フッ、レイヴン、お前は自分のことを良く知らないのか!?」
ビシッとレイヴンを指さす。
レイヴンはいきなり俺のキャラが変わったので困惑している。
だが、俺は止まらない。
「顔はイケメン、背も高い、騎士が仕事で世界を救った勇者パーティーの一人。声が変わっている?それぐらいでお前を笑う奴など捨て置け!」
レイヴンは話は聞いているが、ポカンとした表情をしている。
フッ、まだまだ。
「俺を見ろ。顔は冴えない、中肉中背、仕事はギルド。そんな俺でも告白は何回もして、何回もフラれた。だが、今の俺はどうだ。不幸な顔をしているか?してないだろう。……レイヴンなら大丈夫だ。自分を信じろ」
最後はもちろん決めポーズだ。
……ふぅ、スッキリした。
俺は厨二モードのスイッチを切り、レイヴンの返答を待つ。
「……ふっ。そうか、そんなもんか」
レイヴンは何だか穏やかな表情をして、笑っている。
「……何だか、難しく考え過ぎていたかもしれないな。ありがとう、ヨウキに相談して良かったよ」
おお!
どうやら、説得に成功したようだ。
良かった。
引かれて終わったらどうしようかと思った。
「ははは……。そう言って貰えるとこっちも相談にのった甲斐があったよ」
「……実は明日も休暇をとっているんだ。彼女に告白してみる。良かったら明日ついてきてほしい」
なるほど、ああは言ったものの不安があるのだろう。
ネガティブ思考な所があるんだな。
せっかく友人が勇気を出して一皮剥けようとしているのだ。
たきつけた俺が背中を押さないわけにはいかないだろう。
「それぐらい大丈夫だ。……明日頑張れよ」
そう言ってその日は別れた。
翌日、ギルドの受付にてレイヴンを待つ。
ギルド内はがやがやといつも以上に賑わいを見せている。
昨日レイヴンが来たことによる余韻が残っているのだろう。今日も来るが、ちゃんと変装してくるように言ってあるので騒ぎにはならないだろう。
「……おい、今日は依頼受けねーのか?」
昨日幸せモードから打って変わってだらけモードに戻っているクレイマンが尋ねてくる。
「今日は友達を待っているんだ。依頼じゃないよ」
普段、俺以外の冒険者は他のきれいなお姉さん職員がいる受付を利用している。
だらけ職員、クレイマンの受付に来ている冒険者は俺ぐらいの者だ。
だから、クレイマンの受付に座っていても誰も文句を言わない。
むしろ、昨日は感謝されていたぐらいだ。
「まあ、俺に仕事がこねぇならいいがな。なんなら一日中何もしないでそこに居ていいぞ」
「何が悲しくてここから一歩も動かずに一日過ごさなきゃならん。友人待っているだけだっての」
クレイマンとどうでもいい会話をしていると、不意に肩を叩かれたので振り向く。
そこには、昨日貸した変装グッズを身につけたレイヴンがいた。
緊張しているせいか表情が堅い気がする。
おいおい、まだ告白する相手の家にも来てないんだぞ、大丈夫かよ……。
「大丈夫か。昨日ちゃんと寝れたか?」
レイヴンはこくこくと頷くが、なんか動きが堅い。
このままギルドにいるとぼろを出しそうな気がしたので、急いでギルドを出た。
がちがちに緊張しているレイヴンの緊張をほぐすため、深呼吸させる。
「いいか。レイヴンは勇者パーティーの一員で騎士団長とかやってたりするんだろ。それだけ自分はすごいんだって自覚を持て! レイヴンならやれる」
レイヴンの想い人の家に向かう途中、激励する。
自信さえつけさせれば勢いで告白できるはずだ。
「……大丈夫かな」
まだ、弱気らしい。
レイヴンが好きな子の家に行く道中、俺はずっと励まし続けた。
そして、やっとレイヴンの決心が付き、目的の家についたのだが……
「え……!?」
そこはまさかのアクアレイン家の屋敷だった。
相手ってまさかセシリア!?
いや、優しい彼女なら可能性は捨てきれない。
魔王を倒す旅の途中で、事が起こったとは充分考えられる。昨日のレイヴンが立てた死亡フラグって俺に立ってたの!?
「……ありがとう、ヨウキのおかげで告白する勇気が出たよ。……ここからは俺一人で行くよ。ヨウキはここで待っていてくれ」
一人でアクアレイン家に入っていったレイヴン。
……やばくね?
いや、セシリアに限って良い返事をするとは……どうだろうか?
あの二人がどういう関係かわからないので、なんとも言えない。
屋敷の前で、一人でオロオロしながら待つこと数分。かなり暗い表情をしたレイヴンが戻ってきた
。
「……フラれたよ。『無理』って言われた。……ヨウキ、相談にのってくれたのにすまない。……やはり、俺に彼女なんて無理だったみたいだ」
やばいな、目がクレイマン以上に死んでいる。
初めての失恋はかなり、精神的ダメージがでかいからな。
経験しているから、よくわかる。
友人としてこのまま放ってはおけないな。
「いや、それは別に気にしなくていいよ。それより、どこか行かないか?休暇なら昨日余り遊べなかった分……」
聞いたのだが、レイヴンは首を横に振り、悲しげに言い放つ。
「……今日はもう解散しよう。また、な」
がっくりと肩を落とし、レイヴンは来た道を戻る。
小さくなっていくレイヴンの背中を俺は見ているだけしかできなかった。
……何だろう。
喜ぶべきなのだろうが、釈然としないな。
ライバルが減って嬉しいとか、そんな感情が全然浮かんでこない。
友情か恋か……俺はどっちも譲れないヘタレなのだろう。
セシリアを取られずに安堵している俺と、友人の恋が実らずに悲しんでいる俺がいるのだ。
「……セシリアに会っていこう」
俺は友人が何故フラれてしまったのか。
お節介かもしれないが友人として理由を知るために屋敷に入っていった。