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恋人と子守りをしてみた

「庭が騒がしいと思い出てきたら……何をやってるんですか」



「あー、ちょっと色々とあってお邪魔してる。本当はセシリアの部屋まで一直線で行くはずだったんだけど、何故かこんな状況に……」



シークとクインくんはまだ組手を続けていて、フィオーラちゃんはお昼寝中。

ハピネスは戻してきたはずの箒を取りに行って掃除を始めている、組手のせいで土埃が舞ってるんだよ、仕事を増やして申し訳ない。

あと、急に押し掛けて申し訳ない。



「そもそも、シークくんと手合わせをしている子は……そして、ベンチで寝ている子。ヨウキさん、どちらも見慣れない子どもですがどういった関係なのでしょうか」



「いや、その……」



やましいことは何もない、セシリアが本気で疑っているわけでもない。

クレイマンとソフィアさんの子どもと言えば良いのに、何故俺はいかにも、わけありな雰囲気を出してしまったのか。

セシリアの目が疑惑の眼差しに……ならない。



「……悪ふざけもここまでですね。ソフィアさんとクレイマンさんのお子さんでしょう。似ていますから分かりました」



「あ、良かった。そうそう、正解、正解。クレイマンになんか押し付けられたっていうか、何というか」



「ソフィアさんには知らせたのですか」



「……風のように町へと向かったよ」



昼休憩を使って向かっているわけだから、時間内には戻るさ。

今頃、クレイマンがどういう目に合っているかは知らないけど。

セシリアも同じことも考えているみたいで、二人揃って夫婦の心配をする始末。



愛はあるから程々にすれば良いんじゃないかと思うけれども、なんだかな。



「む、良い香り……」



寝返りを打ちながら寝言を言っているのはフィオーラちゃんだ。

セシリアから紅茶の香りがしたのか……フィオーラちゃんは紅茶とお菓子に誘われて来たからな。



このまま、屋敷に来たのに寝るだけで終わるのは可哀想なので、セシリアにそれとなく紅茶とお茶菓子を頼んだ。

勝手に来ておいて非常にふてぶてしいお願いをしているという自覚はある。

そのため、深々と頭を下げた。



セシリアは全然構わないと慣れた手つきで紅茶とお茶菓子を出す。

手慣れているのは少なからず、俺が来る度に用意してもらっていたことが要因の一つとしてあげられる。



元々、セシリアは何でも出来る聖……女様だからな、声に出していないとはいえ間違えるところだった。

さて、テーブルにはカップにティーポット、ケーキにクッキーが用意されていく。



用意が進むと寝ているフィオーラちゃんの鼻がひくひくと動いているのが見てとれた。

香りへの反応が鋭い、まだ起きないのはわざとなのか。



セシリアが準備出来ましたと言うと、素早い動きで起き上がった。

寝起きの早さではない、起きるタイミングを窺っていたな。



「食べて構いませんよ」



セシリアが女神の微笑みを浮かべて、用意したテーブルに誘うとフィオーラちゃんは目を輝かせて椅子に座った。

そのままがっつくのかと思いきや、セシリアにありがとうございますと感謝を述べ、食事を始める。



……教育しているのがソフィアさんだからか、マナーを叩き込まれているのかね。

でも、他者の家に来て速攻で寝るのはマナー違反ではないのか。



「食べ物のことに関しては感謝を忘れない。食べ物のことに関しては感謝を忘れない……」



「フィオーラちゃん、偉いですね。ソフィアさんの教えでしょうか」



「そうだと思う。ただ、それなら他のことに関してもしっかりしていそうな気もするが」



「だらだらも忘れない」



「こりゃ、父親の影響がもろに出ているな。ソフィアさんが苦労してるってクインくんが言っていたけども」



「私は頭に着けているカチューシャが気になるのですが。何故、猫耳のカチューシャを?」



「……」



セシリアが興味ありげにじーっと猫耳カチューシャを見つめる。

全ては俺が悪ふざけでクレイマンのかばんに入れたのが発端だ。



元々はクレイマンがソフィアさんにプレゼントを買いに行った所、テンション高めだった俺のささやかな行動で家族の場が妙な空気になったとか。


ソフィアさん苦笑い、クインくんは冷えた目、フィオーラちゃんは気に入ってしまったので……着けてます。

そんな事情を知っている俺は沈黙を貫いて、明後日の方向を向きながら、ちびちびとお菓子を摘まんでいる。



「フィオーラちゃん、このカチューシャはお気に入りなんですか?」



「これは父さんが買ってきた物。本当は母さんに買ってきたんだけど、母さんは着けないの。だから、私が着けているの」



「ク、クレイマンさんがソフィアさんに、そうですか。……そうです、か」



ぴょこぴょこと動く猫耳カチューシャを見てセシリアは何を思っているのだろう。

ごめんクレイマン、いつぞやのメイド服好き事件より酷いかもしれない。

本当のこと言って誤解を解かないと、次に対面した時えらい空気になるよ、これ。



「美味しかったです」



「……えっ、あ、はい!」



「ねむねむ」



セシリアにお礼を言い終わると、フィオーラちゃんは再び眠ってしまった。

寝るのが好きな子なんだなぁ……じゃなくて。



「セシリア、猫耳カチューシャのことなんだけども」



「ヨウキさん、いくら私たちが親しい間柄とはいえ、クレイマンさんの趣味にまで口出しするのは如何なものかと。あの……理由があるんですよ。メイド服の時もそうでしたし、きっと!」



セシリアの笑顔がちょっと暗い、信じきれてないだろう。

無理に信じようとして空回りしている感じがする。



メイド服はともかく、猫耳カチューシャを着けて欲しいって、どんな理由だったら、セシリアは納得するのかね。



「俺がこれ着けてって言ったとして、どんな理由だったら着けてくれる?」



すやすや眠るフィオーラちゃんの猫耳カチューシャを指差して尋ねる。

着けて欲しいとかそういう意味じゃないぞ、ただ、理由があったら着けてくれるのか知りたい。



純粋な好奇心だ、本当に着けてもらおうとか思っていない。

セシリアはそのままでも充分に可愛いからな。

口に出せればヘタレを完全に卒業できるのだけど……まあ、そんなこと考えている間、セシリアは猫耳カチューシャとずっとにらめっこをしているわけだが。



興味があるとかじゃなくて、なんて答えたら良いのかわからないんだろうなぁ。

言ったくせに罪悪感、恋人になったばかりなのに、調子に乗った発言した、

しかし、困惑してもしっかりと自分の思ったことを言ってくれるのが、優しい女神なセシリアなわけで。



「そうですね。二人きりの時でも難しい……です。ごめんなさい」



俺と目を合わせず、視線を逸らしながらか細い声でやんわりと断られた。

二人きりの時なら、許容範囲内なことを求めても良いというやつか。

こんな考えしてたら、いずれ変態とか言われそう。

セシリアとは健全なお付き合いをしなければ。



「あ、あはは……じょ、冗談だからさ。そんな感じにならなくても大丈夫だよ。猫耳とか着けなくてもセシリア、充分可愛いし」



本心を言った、それだけだ。

言った本人も、言われた当人も目を丸くし、口を開けて唖然……。

友人と恋人の距離感ってわからない、友人だった時はこんな自然に言葉を言えたっけか。

俺が調子に乗っているだけなのか……先に動いたのはセシリアだった。



「突然、前振りもなく言われたので驚いてしまいましたが……こう、恥ずかしいですね。でも、嬉しいです」



「俺は、普段思っていることを……口に出しただけだから、さ」



気恥ずかしさがやばい、今絶対俺の顔赤いよな。

また、二人して沈黙してしまう……どうしよう。



「えっと……シークたち呼んでこようか。せっかく、セシリアが紅茶やお菓子を用意してくれたんだしさ。紅茶も冷めちゃうしな」



「あ、はい。そうですね」



「おーい! 二人とも……」



少し離れた場所にいるシークたちを呼びに行こうと、立ち上がったところ、セシリアに腕を掴まれた。



「あの、ヨウキさん。一週間後って空いてますか? もし、良ければお出かけしませんか。町中を買い物するのではなく、近くの山の自然を楽しみに。私、お弁当を作りますから」



「空いてる、空いてる、行こう! ちょっとした旅行気分だ」



二人で山へとピクニックとは楽しみだ。

屋敷でのティータイムや町での買い物とも違う、泊まりではないだろうけども、想像が膨らむ。

新鮮な空気の中、二人で食べる弁当はとても美味しいだろう。



「あー、隊長抜け駆けだー。ずるーい」



良い感じの雰囲気になってきたかなと思えてきたところで組手をしていた二人がこちらに来ていた。

シークに聞かれてしまったらしい、これは非常にまずい。



「ぬ、抜け駆けって何だよ。俺はセシリアとお出かけする予定を立てていただけであって」



「ずるぅぅぅぅい」



「巻き舌で駄々をこねるな。つーか、誰から巻き舌なんて教わったよ」



シークに変な知識や技を教えているのは誰なのか、本気で知りたい。

巻き舌とかメイドさんとかやらないよな……やらないよな?

ソフィアさんがメイド長なアクアレイン家の使用人……考えられるのは掃き掃除を終わらせ、いつの間にか姿を消したメイド。



または盲目的に愛を貫くメイドのどちらかだと目星をつける。

憶測なので確実とは言えない、シークが町に出て学んでいるだけかもしれない。



「僕も行く~最近、隊長遊んでくれないもん。ハピネス姉も休日は出掛けていくし、ティールちゃんは相も変わらずなんだよ~」



「あー……」



シークに構ってやれていなかったのは事実だ、俺自身に余裕がなかった。

ハピネスもレイヴンとイチャイチャしている感じだと思う。

ティールちゃんは……ティールちゃんだからな、いつも通りだ。



頬を膨らませむすっとした表情で目の前に立つシークをどうも邪険にあつかえない。

こいつも俺にとっては家族みたいな存在だからな。

セシリアに目配せすると、こくりと首を縦に振ってくれた。

俺はシークの頭に軽く撫でて、目線が合うようにしゃがむ。



「わかったよ、シーク。お前も参加だ。動き回るの大好きだもんな、ただし迷子になるなよ。あと、騒ぎすぎるのも禁止だ」



「やった~旅行だ。隊長で遊べる」



「俺で遊ぶな。俺と遊ぶなら良いけども」



「ちゃんと準備しようね~」



ぶんぶんとシークはクインくんの手を握って振っている。



「え、なんですか、これ。ヨウキさん、彼は何か勘違いをしているみたいですよ」



「あ、ああ。シーク、クインくんは一緒に行かないぞ」



「え~、行こうよ~。人数は多い方が楽しいしさ」



シークにとっては仲良くなったばかりの友だちか、年が近いのはティールちゃんしかいなかったからな。

組手も楽しそうにしていたし、一緒に行きたいと。



こればかりは本人の意思と親御さん、つまりソフィアさんとクレイマンの了承が必要になる。



「クインくん、シークがこう言っているし、良ければ行かないか。予定があったりしたら断ってくれても構わないからさ。今日、会ったばかりで、申し訳ないけど」



「僕は良いですよ。普段動かないフィオーラを外に連れ出す良い機会ですからね。この会話も聞かずに寝ているんですから、父と母には僕から話しておきます」



こうしてトントン拍子で決まったピクニック。

一名は予定を一切聞いていないけれども大丈夫なのか。

まあ、それよりもテンション上がったシークが調子に乗って宙返りやらバク転やらをやっている方が心配だ。



当日に怪我するなよ……俺は知らないぞ。

あと、俺に依頼を出したクレイマンがどうなったのかも俺は知らない。

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