友人と依頼に行ってみた
セシリアが体調を崩して、回復してから数日が経った。
今日はギルドに仕事をしに来たのだが……
「なあ〜、聞いてくれよ〜。最近嫁がすげぇ機嫌がいいんだよ〜」
「知らねぇよ」
何故かクレイマンのノロケ話を聞いている。
いつもは目が死んでいる魚みたいなくせして、今日は輝いている。
口もむっつりした感じなのが、にやけっぱなしだ。正直面倒だ……。
他の職員や冒険者も俺が見ると目を逸らしている。
どうやら朝からこの調子らしい。
職員は深くため息をこぼし、冒険者はテーブルに突っ伏している。
どうやら、被害者は俺だけじゃないらしい。
……というかこいつ結婚してたのか。 よく結婚できたな。嫁さんはこいつのどこに惚れたんだ?
よっぽどの世話好きぐらいじゃないと好きになれないんじゃないだろうか。
「なんか仕事場でいいことがあったらしくてよ。俺にすげぇ優しくしてくれんだよ」
「ふーん」
そんなんで優しくしてくれるなんて良い嫁さんだな。もし、セシリアと結婚したら毎日優しく……っていかんいかん。
クレイマンと同じようなにやけ顔になるところだった。
そのまま、長々とノロケ話を聞かされる。
ギルドの人達の反応を見た所、俺以外にも同じ話をしているのだろうに。
いい加減うんざりしてきたところでギルドの入り口が騒がしくなってきた。
さっきまで嫌な顔をしていた職員や、テーブルに突っ伏していた冒険者からの歓声聞こえる。
「何だ?騒がしいな」
クレイマンが受付から身を乗り出し、ギルドの入り口を見る。
なんだか、前にも似たようなことがあったな。
まさか……セシリア!?
期待して振り向くと
「…………」
レイヴンがいた。
身振り手振りで人を避けさせて、こちらに向かってくる。
俺の元に来ると親指でギルドの入り口を指差した。 人がいるから声を出せないらしく、俺に何か伝えようとしている。
成る程、わかったぞ。
「クレイマン、レイヴンと依頼を受けたいんだけど、良いやつあるかな?」
多分、俺と依頼を受けたいんだろう。
せっかく友人になったのに、どこにも行ったことがなかったし、訓練がてらというとこだろう。
レイヴンは俺の服の袖を掴んで引っ張っている。
そんなに、早く行きたいのか?
というかギルドが騒がしいな。
俺への罵声がほとんどだけどな。
主に女性から、ギルドの職員まで言ってるよ。
「おう、これでいいんじゃねえか?ハガラズ山の麓で暴れているロックドラゴンの討伐依頼だ。乗り合い馬車を使えば、今日中には帰ってこれるだろ」
ランクBの依頼だが、元勇者パーティーのレイヴンと最近ランクBになったばかりだが、チート持ちの俺がいるなら大丈夫だろう。……本当はもっと高いランクの魔物でも大丈夫だけどな。
依頼を受け、レイヴンとハガラズ山に向かった。
「え……依頼じゃないの?」
ハガラズ山はミネルバから馬車で二時間程かかる場所で、近くに行く乗り合い馬車で移動している。
周りには人がいるので小声で会話をしている。
「……買い物に付き合って欲しかったんだ。そして、食事にでもと……」
どうやらレイヴンは遊びに行こうぜと伝えようとしていたらしい。
しかし、俺が間違った捉え方をしてしまい、一狩り行こうぜになってしまった。
そういえば、依頼に行くには軽装だなと思ったのだが。
「勘違いしてごめん」
すまないと思い、頭を下げる。レイヴンは城で騎士をやっているので、貴重な休みだったかもしれない。
「……いや、いいんだ。友人と出かけられるだけでも初めての経験だからな」
どうやら、許してくれるらしい。
レイヴンの心が広くて良かった。
「そうだ、早く依頼が終わったら、遊びに行こう。俺達なら頑張れば夕方には帰れるかもしれないし」
「……そうだな。そうしよう」
まあ、遊ぶにはやらなければならないことがあるがな。
今日、レイヴンは私服できたとはいえ、まったく変装して来なかった。
迂闊すぎるだろう。
また、大騒動になるのはごめんなので注意しておくか。
「まあ、遊びに行く前にレイヴンに言わなきゃいけないことがある。わかるか?」
レイヴンはわからないのか首を傾げている。
「勇者パーティーの一員が、町で普通に歩いていたら騒ぎが起きる。この前レイヴン以外の勇者パーティーが町の装飾品店で大騒動を起こしたこと知らないのか?」
あの時みたいなことはもう起こってほしくないからな。
すごく疲れたし、店にも迷惑がかかった。
「……知っている。ユウガ達は何をやっているんだかと思ったよ。ミカナやセシリアがいながら騒動が起きるとは思わなかったが……」
レイヴンも人のこと言えないけどな。
さっき、普通に町で遊ぼうとしてたし。
勇者パーティーは女性陣が旅の舵取りをしていたんだろうな。
「俺が持っている変装グッズ貸すから。それで変装して遊ぶぞ。まあ顔隠すだけだけどな」
初デートの記念にとっておいてあるのだ。
アクセサリーは結局買えなかったんだよな。
後から寄って買ってくるか。
馬車を降りて、ハガラズ山を目指す。
急げば、十数分で着く距離だ。
余計な体力を使わないためか、山ではお互いに無言が続く。
ハガラズ山に着くと道が険しくなるし、リザードマンやジャイアントホークといった魔物にも襲われた。
リザードマンは剣と盾を持った蜥蜴人間だ。
ジャイアントホークは名前の通り巨大な鷹である。
レイヴンの剣技、俺の魔法があれば大した敵ではなかった。
それでも、いつ、どこから敵が出てくるかわからない。お互いに緊張状態が続き無言が続いていたのだが……
「……ヨウキ、この依頼が終わったら、相談したいことがある」
いきなりレイヴンが口を開いた。
……なんか死亡フラグっぽい言い方だな、おい。
まあ、レイヴンに限ってそんなことはないだろうが。
「分かった。じゃあ、さっさと倒すか。」
このタイミングでズシン、ズシン音を立てと何かが近づいて来る。
……本当に死亡フラグじゃないだろうな?
「来たぞ、構えろ!」
レイヴンは鞘から剣を抜き構える。
俺は魔法主体なので、武器はないので軽く身構える。
すると、討伐対象であるロックドラゴンが現れた。
「いくぞ。《ストームブロウ》」
風の中級魔法は腕に小規模だが、威力のある竜巻を纏わせる魔法だ。
この腕でロックドラゴンを殴り、頑強な岩肌を削りとる。
そして、肌を露出させる。
「よし!」
削りとって露出した肌をレイヴンが切り付ける。
切られたことにより、ロックドラゴンは暴れるがレイヴンは余裕でかわし、剣で切り裂く。
ロックドラゴンは鈍重なので、気をつけていれば攻撃は当たらない。
いくら、ドラゴンと言っても相手が悪かったな。
この作業を繰り返し、危なげなく、ロックドラゴンを倒した。 ……良かった、死亡フラグではなかったようだ。
「お疲れさん。早く終わって良かったな」
魔法を解除し、剣を納めたレイヴンに言う。
「……そうだな。ロックドラゴンの死体はギルド職員に任せて、証拠だけ持って行こう」
ロックドラゴンはでかく、全部の死体は持っていけないので、一部だけ持っていくことにした。
「じゃあ、帰って遊びに行くか」
その後、ハガラズ山を降り、馬車に乗ってミネルバに戻った。
ギルドに戻るとすぐに報告をして俺が借りてる宿に向かった。
途中で、軽い騒ぎになったが、前回の経験を活かして逃げた。
「ほら、帽子とサングラスだ。……もう時間が時間だし食事しかできないけどな」
レイヴンにセシリアから貰った変装グッズを渡した。
「……ああ、助かるよ」
帽子を被り、サングラスをかける。
……なんか似合ってるなぁ。
やはり、イケメンはどんな格好をしてもイケメンらしい。
まったく不公平な世の中だ。
まあ、ばれはしないだろう。
さすがに剣を持っていてはばれるかもしれないので、俺の宿に置いていった。宿から歩いて十分ぐらいかかる距離の飯屋に来ている。
「……そういえば相談があったんじゃないのか?」
夕食を食べながら尋ねる。
確かロックドラゴンと遭遇する直前に相談したいことがあるとか言っていたはずだ。
「……ああ、聞いてくれるか?」
何だろう、 声のことかな。
誰かに何か言われたのだろうか?
「実は好きな人が出来たんだ」
まさかの、恋愛相談だった。
これから、レイヴンくんの話が続きます。