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勇者と少女魔法使いのやり取りを聞いてみた

「うーむ、私が目を離した隙に随分と彼を取り巻く環境が変わってしまったようだな」



「こうなった原因を作った一人だけど、ユウガになんて声をかけて良いのかわからない」



ずぶ濡れ状態で気を失ったユウガは、風邪を引いてしまわないように服を脱がして適当に毛布をかけてある。

ここに運んできて、一時間ほど経ったが目覚めない。



「想いを寄せていた少女は既に恋人ができており、詳細はわからないが、いつも頼りにしていた幼馴染みの少女から拒絶されたと。……一日で壮絶な体験をしたものだ」



さすがのカイウスも笑う癖を見せない。

棺桶も大人しいもので、彼女さんは空気を読んでくれているのだろう。



世界を救った勇者のその後、大切な物を失ってしまい世界に希望が持てず……そして、どうなるのか。



「う、うぅ……ん」



むくりと毛布にくるまっていたユウガが起き上がった。

目が覚めたようだが、寝ぼけているようで目をこすりながら、ここはどこだとキョロキョロと、周りを見渡している。



「僕は……倒れて、それから」



「俺が運んでやったんだ。あのままにしておいたらどうなるかわからんからな」



「ヨウキくん……」



「何があった。差し支えなければ教えてくれ」



もしかしたら協力できるかもしれない、と言いそうになったが止めた。

ユウガの目には悲しみだけではなく、嫉妬も混じっているような気がしたからだ。



ユウガからしてみれば、俺は憎まれても仕方ないんだよな。

それが、八つ当たりになるのかどうかはわからないが……ユウガへ協力的な態度を取るのは良いことなのか。



「ヨウキくん、そんな顔しなくて良いよ。気を遣ってくれているんだよね、僕に」



ユウガは俺の葛藤を見抜いたようだ。

優しい笑みを浮かべており、精神は安定しているように見える。

もっと、取り乱すと思っていたんだが、考え過ぎだったか。



「迷惑をかけたよ、あんな所で倒れちゃうなんてね。力尽きて倒れるなんて、魔王城での戦い以来かな」



その時、今回も少なからず俺が関わっているので、そうかと苦い顔で答えるしかできない。

ユウガは冗談のつもりで言ったのか、軽く笑みを浮かべているがな。



「はは、さてと。僕は帰るね」



立ち上がり、そそくさと扉へと向かうユウガ。

一刻も早くこの場から離れたい、一人になりたいという印象を受けた。



さっきから笑みを浮かべているのは、何かしらの感情が漏れないよう蓋をしているんじゃないか。



「そのままで良いのかい」



俺ではなく、カイウスがユウガに問いかける。

扉を開けようとしていたユウガの手が止まり、笑みを浮かべたまま、カイウスの問いに応える。



「このままって……何がですか」



「君はまだこの部屋から出てはいけない。やるべきことが残っている」



「……っ、そんなこと」



ユウガの作っていた笑顔による仮面が崩れ始めた。

ここはカイウスに任せようと俺はぎりぎりまで傍観しよう。

何かあれば、口出ししようとも思うが、カイウスが相手なら出番はないな。



「服を着ていないぞ」



「そこかよ!」



傍観しようと心に決めたのに、僅か数秒で禁を破ってしまった。

だって、このタイミングで先に服を着ていないことを注意するなんて思わないだろ。



「……それも、そうだね。ヨウキくん、僕の服は……乾いてないか」



「あー、よかったら貸すぞ」



「ありがとう」



ユウガは冷静に俺から服を借りることにし、今度こそ帰ろうとしている。

カイウスはどうしたんだ、服を着ないで帰ろうとしたから声をかけたのか。



確かに服を着ないで、外に出たら問題にはなるけど、もっと言うべきことがあるんじゃないのか。



「待て、抱え込むな。それでは駄目だ」



「何が、駄目だっていうのさ……」



「それでは何も変わらない。君は全てを諦めることになる」



「それで、話せっていうの……僕が何をしたのか」



ユウガの顔から笑みは消えており、見たこともない絶望に満ちた表情をしている。

いつもの色々と残念なユウガはどこに消えたのか。



俺には目の前にいるユウガが勇者だとは思えない。

何の特別な力もない、村の青年に見える、それほどまでに弱々しく感じてしまうんだな、今のユウガの姿は。



「良い、話すよ。それで納得してくれるなら」



ユウガは半ば自暴自棄になったように、屋敷から出た後のことを話し始めた。



「はっ、はっ、はっ!」



降りしきる雨の中、ユウガは無我夢中で走り続けていた。

無意識で走っていたらしく、道を何度かはずれたそうだが、確実に自宅へと向かっていたらしい。



「……っ、はあっ、はあっ、あ……?」



闇雲に走り続け、たまたま店から出るミカナを発見したユウガは獲物を見つけた獣の如き勢いで、抱きついた。

ミカナは抱きつかれ暴れたそうだが、ユウガだとわかると暴れることを止め、そのまま話し出したそうだ。



「……どうしたのよ、驚いたじゃない」



「ねぇ、ミカナ。もう、怒ってない?」



「何よ急に……」



「いいから応えて」



「……本当にどうしたの。何があったのよ」



ユウガの様子が明らかにおかしいと感じたミカナは、心配そうに背中を撫でてくれたそうだ。



「僕にはミカナが必要なんだ……ヨウキくんとセシリアが恋人同士になってた。それで……」



会話の途中、気がつけばユウガは尻餅をついていた。

抱きついていたミカナから突き飛ばされたからである。



ミカナから突き飛ばされるような、はっきりとした拒絶を受けたのは始めてだったらしく、ユウガは何が起こったのかわからなかった。



雨のせいか前髪が垂れて表情があまり見えなかったそうだが、ミカナはユウガを睨んでいたらしい。



「何よそれ。……私に、どうしろっていうのよ。必要って何……自分がそんな状況だからってことでしょ」



「ミ、ミカナ……」



「僕のこと好きなの……って、聞いてたわね。今、応えてあげるわ。ユウガなんて嫌いよ、馬鹿!」



激しい雨が降る中、走り去っていったミカナは一度も振り向くことはなかったという。

ユウガは尻餅をついたまま、数分立ち上がることができなかったようだ。



そして、目に光を無くし、ふらふらと歩いていたところで俺を発見したユウガは力尽き、倒れてしまった。



「これが、屋敷を出てからの僕の行動だよ」



話終えたユウガはもういいだろうと俺が貸した服を着て帰る準備をしている。

俺はなんと声をかければ良いのかと考えていた。



まず、ミカナが怒った理由はわかる。

セシリアに振られたからミカナを求める、そんな、妥協したような告白をされて許せなかったのだろう。



炭坑での一件もあって、怒りが抑えられなかったと見える。

いくら幼い頃から好きといってもな、完全に見限られた可能性が非常に高い。



非はユウガにあるが、行動に移したそもそもの原因は俺とセシリアが話してしまったからであって。

どうすれば、丸く収まる……いや、今回ばかりは皆が納得できる解決方法がないんじゃないか。



俺は完全にお手上げで何も言うことができない。

このままユウガが帰ってしまっては駄目だとわかっているのに、引き止める言葉が見つからなかった……俺には。



「……君が何をしたかはわかった。では、君はどうしたいのかな」



「どうしたいって……じゃあ、どうすれば良いのさ!」



ユウガは感情がついに爆発してしまったようで、カイウスに掴みかかる。

俺はユウガを引き剥がそうと試みたが、カイウスによって制止された。



黙っていろと目が語っているような気がしたので、カイウスを信じ任せる。

ユウガは依然として掴みかかったままで、カイウスに心の叫びをぶちまけていた。



「僕が悪かったんだよ、どうせ。気づけば何もかもが遅くて、迷惑をかけてばかりで……大切な者も失ってしまった」



「……君の言う大切な者とは誰のことなのかな」

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