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好きな子の気持ちを確かめてみた

「……少しの間、待っていてもらっても良いですか」



俺の告白から数秒間、沈黙が続いたのだが……セシリアからの答え。

これは、保留ということなのか。



「今はソレイユさんの婚約に関してはっきりと言わなければなりません。私の立場上……すみません」



「ああ、そうだよな。わかってる」



「ですが、ヨウキさんの真っ直ぐな気持ちを聞いた以上、私もあやふやにはしませんから。……私の部屋で待っていてもらっても良いですか」



「わかった」



いきなり押し掛けてきたのは俺、前振りもせずに告白したのも俺。

セシリアにだって事情があるんだ、俺一人の先走った気持ちの相手は……な。



だけど、失礼しますと背を向けて去っていくセシリアを見て、俺は気持ちを抑えられなくなった。

俺ってこんなだったか、こういう時は馬鹿を言ったりしてごまかせていたのに。



セシリアに好きだと面と向かって告白したからかな、遠くに行ってしまうように見える。

気がつけば後ろからセシリアを抱き締めて……。



「待て、やっぱ駄目だ」



中途半端に自制心が働き、セシリアの肩に両手を置いてしまう。

行かないで欲しいという欲望を途中で止めたので、こういう体勢になった。



「……ヨウキさん?」



「う、あ、ごめん。部屋で待ってるわ、俺!」



恥ずかしくてセシリアに顔向けができない。

俺は全速力で突っ走り、セシリアの部屋に向かう。

使用人からは、顔真っ赤にしてまで全力疾走を屋敷でするなと思われているだろうな。



言われてはいない、使用人に声をかけられても無視をして走っているから。

頭を冷やしたいけど、今は一人になって……セシリアを待ちたい。



でも、俺が話を聞かないとわかったのか、ソフィアさんに屋敷内を走るなと目で訴えられた。

頭を下げて謝罪の意を表し、大人しく歩くことにする。



そして、セシリアの部屋に着くと、いつも使っている来客用の椅子に座った。

……落ち着かない、そわそわする、何をしようか。



「思えばここで、セシリアと談笑たくさんしてるよなぁ……」



俺がケーキを買ってきたりもするけど、セシリアが紅茶を入れてお茶菓子も用意して。

二人で笑ったり、セシリアを怒らせて俺が正座したり……シークやハピネスも混じったり。



思い出に浸るのも悪くないなーと過去を振り返っていると、扉からノック音がした。

セシリアが来たかと思い、身構えるも。



「……おは」



「ハピネスか……」



入ってきたのは使用人の仕事真っ最中なハピネスだった。

そんなに早く、ソレイユとの話は終わらないか。



「悪いけど冗談には付き合えないぞ。今日の俺はな」



「真剣……何事?」



「別に……ただ、自分に素直になっただけだ。そんで……待ってる」



何をしたか、直球で表すのはまだ嫌だ。

どういう結末が待っているにしても、はっきりとは口にしたくない。

それに、ハピネスならわかるだろう、これだけで。

俺と付き合い長いし、レイヴンという彼氏がいるんだから。



「……来る!」



しかし、ハピネスは何を思ってどう理解したのか、俺の腕を掴んでどこかへ連れ出そうとしだした。

おい、長い付き合いなのに俺にはハピネスの行動が読めないぞ。



「は、離せハピネス。俺はセシリアを待ってないと……」



「……覚悟、決意、迎え、行く!」



なるほど、ハピネス曰く、俺が覚悟を決めて告白したので、セシリアも何かしらの決意をしている。

俺も男なら待っているのではなく、迎えに行くぐらいの気持ちでなければならない。

従って、セシリアのいる場所まで駆けつけ、事が終わったセシリアを直ぐに迎え入れろと。



「勝手したらセシリアに怒られるぞ」



「……行くべき!」



「そっか、そうだな。サンキュー、ハピネス。今度、何か奢ってやるよ」



そう言い残して、俺はセシリアのいる部屋へ向かう。

声や臭いを頼りに探しているとデューク、シーク、ハピネスの顔が浮かんだ。

今日の流れを考えると俺は三人の元部下に支えられている。



デュークに考えさせられて、シークに導かれて、ハピネスに後押しされて……。

少しだけ泣きそうになるのをこらえる。

腕を目に当てて、涙が出てくるのを防いでいたら……三人のことをよーく思い出した。



デュークからは張り倒され、シークには馬鹿にされ、ハピネスから三拍子。



「ふっ、くくくっ……」



込み上げてくるはずの怒りと、さっきまで感じていた感動が混じりあって、笑ってしまう。

だってあいつら、どこまでいっても変わらないんだよ。

世話焼きのデューク、無邪気なシーク、自由すぎるハピネス。



「そんで、いつまでも厨二が治らない俺……ま、隊長だしな。ここまでお膳立てしてもらったんだし、行くか!」



そして、屋敷の中を歩き目的の場所に到達する。

中から聞こえてくるのはセシリアとソレイユの声のみ。

このまま乗り込むか、それぐらいの勢いは必要な気がする。

扉の取っ手に力を込めようとしたら、手を重ねられ制止された。



「さすがにそれは駄目よ」



「セリアさん……でしたか」



俺の行動を制したのはセリアさんだった。



「私が止めなかったら、部屋に入っていたわよね。そこから先は……ふふふ、セシリアったら……ヨウキくんをいつの間に、こんな情熱的にしたのかしら」



「すみません、軽率でした」



考えてみれば、ここで乱入して一悶着を起こせば立場が悪くなるのはセシリアだ。

自分の想いに素直になることと、自分勝手は違う。



「ここにいるだけなら良いわ。あとで、セシリアに何か言われたら、ここで私に立っているよう、頼まれたって言っていいからね」



「あ、あの、セリアさん」



「じゃあね、ヨウキくん。ゆっくりしてってね」



話さずともわかっているということなのか。

笑顔で手を振り、セリアさんは去っていった……どこまであの人は知っているんだろうな。



「でも、ここで待ってて良いのかな」



屋敷の廊下で何もせずに棒立ちしているのって、結構目立つと思うけど。

掃除をしている使用人の人たちの迷惑ではないのか。



「奥様が待っていて良いとおっしゃったのですから、心配は無用ですよ」



「うおっ、今度はソフィアさん。いつの間に!?」



「……部屋の掃除が終わったので、出てきただけです」



「あ、俺が扉の開く音に気づかなかっただけか」




「はい。……使用人たちにはヨウキ様がいることに関して咎めないよう、注意しておきますので」



それでは、失礼しますと綺麗な角度のお辞儀をしてソフィアさんは去っていった。

……さっきから、色んな人たちに応援されているんだけど……告白したことばれてんのか。



いや、あの時は確かに俺とセシリア二人きりだった。

情報はないはず、まさか、今から俺が告白しようとしてるって考えてんのかな。



「支えられてんだな、俺……」



廊下に座り込んで、セシリアを待つことにした。

使用人が通りすぎていくが、俺のことは一瞥するだけ。

ソフィアさんが根回ししてくれたおかげだが、これはこれで複雑な気分。



頭を下げたら下げ返してくれる、当たり前か。

ただ、仕事の邪魔になっていないかっていうのが重要なのだけど。

できるだけ存在感を消し、体を丸め、ひたすらに待った。



「あ……」



扉が開き、出てきたセシリアと目が合う。

話し合いは終わったのかと考えている俺と違って、なぜここにいるのか、という感じで驚いている表情だ。



「すぐに姿を消して下さい!」



小声だが焦りが込められていたので、すぐに《バニッシュ・ウェイブ》で姿を消した。

俺の姿が消え安心している様子のセシリア。

なんで……と思っていたら、部屋からソレイユも出てきたではないか。



「セシリアさん。今、誰かと話していませんでしたか」



「いえ、話していませんが。廊下には使用人もいませんし」



ソレイユは廊下を見渡して、おかしいなぁと首を傾げている。

まあ、姿を消しているので見えるわけないんだよな。



「気のせいだったみたいですね。すみません、お見送りまでしてもらってしまい」



「いえ、気にしないで下さい」



「……あと、突然、婚約を申し込んだ件についてもです。失礼しました」



何の脈絡もないのに、婚約話を持ってきたことに関しての謝罪か。

セシリアは何故、そんなことで謝罪をという顔をしている。

貴族だったらこういうお見合いってしょっちゅうやってるもんじゃないのか。



ましてや、セシリアは勇者パーティーの一人で優しくて可愛くて面倒見がよくて家事全般出来てだし。

……もう、本人目の前にして、思ったこと全部言えるな、俺。



「謝罪は大丈夫ですから……婚約の件も私からお断りさせて頂いたわけですし」



「わかりました。最後に……セシリアさんに一つだけお聞きしたいことがあるのですが」



「私で答えられる範囲の質問なら」



いや、待ってくれ、ここで話をするのか。

俺の状況、座り込み丸まっていて、姿は消えている。

前方にセシリア、左に調度品、右には開かれたままで閉じられていない扉があるのだ、つまり、逃げられない。



これはどうしたもんかと考えた末の行動は耳を両手でふさぐというもの。

会話を聞くのはちょっと……でも、これだけじゃ聞こえるんだよな。



「セシリアさんには……もう、恋人がいらっしゃったんですよね」



こいつ、何てことを聞きやがるのか、思わず口から文句が出そうになった。



「……何故、そう思うのでしょう。仮に私が心に決めた方がいたら失礼ですが、お話を頂いた時点でお断りしていたかと」



「先日、変装したセシリアさんがミネルバを歩いているのを見てしまったんです」



まさか、あのデートを見られていたとは迂闊だったな。

俺も周囲をもっと確認していれば良かった。

セシリアの立場を考えると、不味かったな。



婚約の話を進めている中、別の男とデートしていたっていうのは。

……俺が無理矢理誘ったようなものなのに。



「黒雷の魔剣士が言っていました。貴女はパートナーだと。すみません、セシリアさん。本当にご迷惑をおかけしました。僕が……蒼炎の鋼腕です」



深く頭を下げるソレイユにセシリアは口を開けたまま、目を点にして固まった。

婚約の話が来たタイミングと蒼炎の鋼腕が活動再開したタイミングはほぼ、一緒。



他国の勇者パーティーの一人で実力があるのは当然……あの時語っていた理由も、ソレイユが次期領主って考えれば合点が行く。



「ソレイユさんが、ですか」



「どうして僕がああいった活動をしていたのかは、先日に語った通りです。セシリアさん、初めて出会った時、あんな風に叱られたのは久しぶりだった。だから……貴女が隣にいてくれたらと、父に話して婚約を望んだんです。でも、あれは僕ではなく黒雷の魔剣士に向けられた言葉だった」



セシリアの勘違いがソレイユとの婚約まで発展した要因だったのか。

でも、蒼炎の鋼腕……ソレイユは黒雷の魔剣士、俺を真似ていたようなもんだから、原因は俺か。

姿を現して謝るか、この場から一刻も早く離れるか、どっちも出来ないからどうしようもない。



「黒雷の魔剣士とは、何者なんですか。セシリアさんのパートナーとは……」



「申し訳ありませんが、魔剣士さんについて詳しく教えることはできません。そもそも、私と魔剣士さんはそういった関係ではありませんし」



そういった関係ではない、セシリアの言葉にあやうく石化しそうになった。

ガイの仲間入りだ、散々魔法で体をいじくった罰が下ったんだ。



こんな形で振られるなんて、そんな、馬鹿な。

口から魂が出ていきそうだ、涙腺もやばい、崩壊しそうだ。

声を出すわけにはいかないので、腕で口を覆ってひたすらに耐える。



「そんな、嘘です!」



「魔剣士さんとは……です。ソレイユさん、蒼炎の鋼腕になった理由を私は聞きました。魔剣士さんの理由は単純に……格好良かったからだそうです。市場で買い集め、ギルドに登録して……行動力がすごいというかなんというか」



セシリアが話しているのはクレイマンと市場に行って、黒雷の魔剣士のコスチュームを買った日のことだ。

黒雷の魔剣士誕生秘話というやつである。



「脱いだら、色々と考えているみたいですが。ふふっ、でも、それが魔剣士さんなんですけど」



「セシリアさん……?」



「正体というわけではありませんが……彼はそんな特別ではないと思いますよ。ソレイユさんが考えているほど。誰かのことも自分のことも精一杯に行動する……特別なことでしょうか?」



空回りすることも多々ありますが、と言ってセシリアは笑っている。



「そっか、そうですね。……やはり、セシリアさんの隣に僕は入れないみたいだ。すみませんが、お見送りは遠慮させてもらいます。僕、何かが吹っ切れたかもしれないので」



「ソレイユさんの希望なら……わかりました」



「セシリアさん、失礼します。ありがとうございました」



ソレイユはセシリアに背を向けて去っていく。

背筋がぴしっとしているというか、迷いがなくなった印象を背中から感じるな。



扉はもう閉められたので離脱できるのだが……ソレイユが見えなくなるまで、見届けよう。

曲がり角に差し掛かったところで、ソレイユが止まり振り向く、こういう時は捨て台詞を残していくものだからな。

さて、セシリアになんと言うのか……。



「セシリアさん。僕、会ってみたかったです。黒雷の魔剣士ではない彼に……ね」



そして、ソレイユの姿は曲がり角の奥へと消えた。

俺に会いたい、が言い残していく言葉か。

なんで、ソレイユは最後にそんな言葉を残していったんだ。



「ヨウキさん、まだ、近くにいますよね?」



セシリアの声に反応し、姿を現す。

セシリアも俺が移動できない状態だったことに気づいていたらしい。



「ごめん、動けなかった」



「とにかく、部屋に入りましょう」



手を引かれて、セシリアとソレイユが話していた部屋に入る。

お互い椅子に座って、俺は深呼吸、セシリアは目を閉じて何かを考えている模様。



紅茶もお茶菓子もない、部屋もセシリアの部屋ではなく、来客の対応をする応接室。

何よりも違うのが俺たち二人自身だ。



俺はセシリアとの関係が進むことを望んだ、セシリアの隣にいたい、独占欲とかじゃなくて……好きだから。

セシリアの隣には俺以外の誰かじゃなくて、俺がいたい。

沈黙を破ったのは……セシリアだった。



「まさか、扉の前にいるなんて思いませんでしたよ。何を考えているんですか。私、とても焦りました」



「あ、えっと。ごめん。でも、許可はもらったよ、セリアさんから」



「お母様!?」



「ソフィアさんも使用人全員に注意まで促してくれたよ」



「ソフィアさんまで、これでは何も言えませんね」



「よっし!」



「よっしではありませんよ。ヨウキさん、私が本当に何も言わないと思っているんですか……?」



久しぶりにセシリアからオーラみたいな何かが見える。

あれ、この感じっていつも通りじゃないか。

気がつけば、流れるような自然の動きで正座をしている俺がいた。

椅子に座っていたのに、いつの間に床へ正座をしたんだろうか。



「大体、ヨウキさんは……いつ、椅子から下りたのですか」



「わかんない。気がつけばこの体勢になっていたんだ」



「何ですか、それ。あっ、私も座っていたはずなのに」



腕を組んで仁王立ちになっているセシリア、完全説教スタイルが確立されている。

とりあえず、可笑しくなったので笑ったら、セシリアも笑ってくれた。



「ふぅ……ふふっ。本当にヨウキさんといると、もう」



「こんな俺だけど……」



駄目かなと聞きたいけれど、俺のキャラじゃない気がする。

でも、そんなこと気にしていられるか。



「そんなヨウキさんが私……好きですよ」

長くなり過ぎました、一旦、切ります。

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