好きな子の見舞いに行ってみた
昨日同様、セリアさんに呼び出しをくらった俺はアクアレイン家の屋敷に来ていた。
正直、昨日の大騒動での疲れが取れていないのだが……
「……何の用だろ? まあ、考えるまでもないか」
おそらく説教だろう。娘のために無理矢理取らせた休みを台なしにしたのだ。 どんなめにあわされるか考えるだけでも恐ろしい。
ソフィアさんとタッグで来る気だろうか?
それこそ死ぬかもな。怖いがとっと入ろう。
俺は決心し、屋敷に入った。
「……隊長」
屋敷に入ると昨日、来た時と同じくハピネスが案内役だった。
セリアさんの部屋に着いて、別れ際に
「……骨は拾う」
そう言って去っていった。
俺はどんな目にあうんだろうか?
ノックをして部屋に入った。
「あら、いらっしゃい。来てくれたのね」
昨日と同様笑って迎えてくれたセリアさんだが、よく見ると目が笑っていない。
かなり、怒っているようだ。
「実はセシリアの具合が悪くなってしまったの。昨日の大騒動で疲れが限界を超えたみたいね。帰ってきてすぐに倒れてしまったの」
俺は驚愕し、座っていたソファーから立ち上がり
セリアさんに詰め寄る。
「セシリアが倒れた!? セシリアは大丈夫なんですか!」
「落ち着きなさい。今は自室で寝かしているわ。」セリアさんに宥められ、その場で膝を落とす。
「そんな……」
まさか、セシリアが倒れてしまうなんて。
俺のせいだろう。罪悪感に押し潰されそうだ。
「まあまあ、そんなに落ち込まないで。軽い風邪のようなものらしいから、数日で治ると治療師の方が言っていたから大丈夫よ」
軽い風邪と言っても、体調を崩す原因を作ったのは俺なのだが……。
だけど、くよくよしていても仕方ないか。
「……そうですか、良かった」
とりあえず安心しておこう。
俺が取り乱しても、セシリアの体調が早く回復するわけでもないしな。
「ヨウキくんにはあまり怒っていないわ。昨日セシリアと同行するよう頼んだのは私だもの。むしろ、怒っているのは勇者様に対してなのよねぇ」
どうやら昨日の大騒動の原因を知っているらしい。 セリアさんが冷めた笑みを浮かべ始めた。
「先ほど、勇者様が来たのよ。どこから情報をつかんだのかわからないけど、セシリアの看病するって言ってね」
セリアさんの冷めた笑みがやばくなってきた。
気のせいだろうか、部屋の中が冷えてきたような……
「かわいい娘のために取らせた休みを台なしにした張本人を屋敷にあげるなんて。私そこまで優しくないのよねぇ。だから、丁重にお断りして帰ってもらったの」
ふふっと笑うセリアさん。
俺が言われたわけでもないのに不思議と寒気がする。
自業自得とは言え、面と向かって言われた勇者くんには同情するな。
そうとう怖かったろうに。
「だけど、あなたは別よ。先程説明した通りこちらから頼んだことだったから、あなたに非はないわ。セシリアも、あなたが自分を楽しませるよう頑張っていたって言っていたわ」
「セシリアがそんなことを!?」
まじで、ユウガ達と会わなかったら、初デートは成功していたのではないだろうか。
そう考えると昨日は相当運が悪かったな。
「本当に昨日は残念だったわ。だけど、また機会があればお願いね。セシリアは満更でもなかったみたいだから」
今日はそれを伝えるために呼んだのだろうか。
俺が落ち込んでいると思ってセシリアが気を使ってくれたのかも。
まあ、俺の勝手な想像だが。
「俺も楽しかったですし。機会をもらえるなら喜んで引き受けます」
昨日は確かに残念なことになったが、次は成功させてみせる。
俺の言葉にセリアさんは笑みを浮かべる。
「よかったら帰る前にセシリアに会っていってあげて。そろそろ昼食の時間だから起きていると思うわ」
体調が悪い中、会うのはどうかと思ったが、少しの時間だけということで見舞っていくことにした。
ノックをしてセシリアの部屋に入る。 セシリアは寝間着姿でベッドの上で寝ていた。
熱があるからか少し顔が紅い。
「ヨウキさん、来ていたんですね……。すみません、こんな姿で」
しゃべるのも億劫そうだ。
本当に軽い風邪なのか?
やはり、長居はしない方がよさそうだ。
「いや、すぐ帰るから大丈夫。昨日はごめん。せっかくの休みを……」
台なしにしてと続けようとしたが、先にセシリアが口を開いた。
「……ヨウキさんは悪くありませんよ。昨日は……誰が悪かったんでしょうね?」
俺も悪いがほぼユウガのせいだろう。
誰も責めないのはさすがセシリアといったところだ。
……優しすぎる。
だけど、それでいいのだろうか?
「やっぱり、俺が悪いよ」
休みを潰したこと、体調を壊してしまったこと。
この事実は変わらない。
うじうじするなと言われるかもしれないがこれが俺だ。
いくらチートを持っていようが、前世からの俺の本質は変わっていないのだ。
「……じゃあ、ヨウキさんが悪いということにしておきましょうか」
「そうそう、俺が悪い……ってえ?」
さっきまで誰も悪くないと言っていたのに簡単に俺が悪いことになった。
「ヨウキさんのせいで私の休みが一日無駄になったんです。……そのかわり次の休みはしっかりしてくださいね?」
……それはつまり次のデートの約束だろうか。
俺の中で何かのスイッチが入った。
「……フッ、任せておけ。昨日は失敗したが、次はそうはいかん。必ず成功させてみせる。期待しているがいい!」
はーっはっはと俺は高笑いし決めポーズ、セシリアはそんな俺を見て微笑んでいる。
こうしてまた二人の距離が少し近づいたのであった。
急にがしっと腕をつかまれた。
誰だよ、せっかく綺麗に今日一日を終わらせようとしたのに。
横を見てみると……
「ヨウキ様、お嬢様は病人です。お部屋の中ではお静かにお願いしたかったのですが……少しお話をしましょう。お嬢様失礼致します」
そこには無表情のソフィアさんがいた。
やばい、逃げたいが、逃がしませんよと言わんばかりのオーラを発している。
ぺこりと綺麗なお辞儀をし、俺の腕を掴み、ズルズルと部屋の外へ引っ張っていくソフィアさん。
セシリアは俺に微笑みながら手を振っていた。
早く体調が良くなるといいなぁ、そう思いつつ俺も笑顔で手を振っていた。
その後、ソフィアさんにこってり説教された俺であった。