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俺以外の厨二を救ってみた

「俺が救っていたのは……自分、だと」



俺の言っていることが理解できないのか、それとも認めたくないのか。

明らかに動揺している、ヘルメットで顔が隠れていてもわかるぐらいに。



「ああ。貴様がやっていたことは単なる自己満足だ」



「そんなこと、あるわけない。そもそも、自分以外の誰かを助ける行為に理由があるのは、誰だってそうじゃないのか。貴様も自分に何かしらの利益があるから、行動をしているはずだ!」



「ふん、俺は依頼を迅速に完璧に遂行する……それだけだ」



「ふざけるな! 依頼だから、だったら金が目的と言うことじゃないか」



「ああ、そうだが」



「な……」



俺があっさりと金が目的だと答えたからか、言葉を失っている。

一々、驚き過ぎだろうに、何も変なことは言っていないぞ。



「俺は依頼を迅速に完璧に遂行する……と言っただろう。依頼を受けている、つまり、それに見あった対価を貰っているんだ。しかし、貴様の求めている物は感謝だったな……それは対価にならん。何故なら……」



「感謝とは自ら求める物ではないから、です」



決めポーズでかっこよく決めようとしたら、セシリアに言われてしまった。

まさかの一番の見せ場をかっさらうという……さすが、我がパートナーだな。

蒼炎の鋼腕も反論してくる様子がない。

俺は一度、咳払いをしてから、話を続ける。



「ふっ、セシリーの言う通り、感謝とは求める物じゃない。貴様が空回りをしていなければ、されていたはずだ」



「そんなことあるわけがない。現に俺は……誰からも、当たり前だと言われ続けられたんだっ……」



頭を抑えて、現実を否定し始めた蒼炎の鋼腕の手をセシリアが優しく両手で包み込む。

少しだけ悔しい気もするけれど、これがセシリアなので……俺は黙って見守る。



「大丈夫、落ち着いてください。貴方のおかげで救われた人はきっといますよ。私は貴方のことをよく知りません。ですが、理由はどうあれ、貴方は誰かを救おうとしていました。必ず、貴方に救われた人はいます。そして、貴方に感謝をしていたはずですよ」



「俺に救われて……か」



「ちなみに俺はセシリーに救われた身だ。貴様も同じように、セシリーに救われるがいい!」



「魔剣士さん、もう……黙っていて下さい」



怒られてしまったな……おや、セシリーの顔が少し赤いぞ。

これは恥ずかしさで赤くなったのか、怒りで赤くなっているのか。

追及したら、さらに怒られてしまうので大人しく黙っていよう。



「……重く考えて過ぎていたのかもしれない。流されるまま行動をしていたら……よくわからなくなっていた。そうして、嫌な所ばかりに目がいって、周りをよく見ていなかったんだ」



「これからはちゃんと、視野を広げて下さいね」



「……ありがとう。黒雷の魔剣士の言う通り、俺は君に救われたよ」



セシリアはそんなことありません、自分自身を見つめ直したのは鋼腕さんですよ、と言って私は何も……なんて言ってる。

やつの背中を押し、答えまで導いたのは紛れもなくセシリアだ。



慈愛の導き手という二つ名は伊達じゃないな。

これは本格的にギルドに申請しても良いのではないか。

クレイマンに申請して、噂を広めればあっという間に慈愛の導き手の名は有名になるぞ。



「ふむ、これは壮大な計画になりそうだ」



「……先程から視線を感じるのですが、良からぬことを企んでいますね。今の言葉で確信に変わりましたよ」



「何を言うか。俺は黙っていろという指示の下、事の行く末を見守っていただけだぞ。……でだ、諸々、区切りもついた所で退散するとしようか。これ以上ギャラリーが増えるのは……な」



「……え」



「何!? 」



二人とも、いや、セシリアは気づいていると思っていたんだがな。

俺たちはバトルから始まり、最終的には会話による平和的解決となったわけだ。



それが行われていた会場はミネルバのどこかの屋根の上なわけで。

あれだけ派手な戦闘をして、目立つ格好をした輩が二人もいて……気づかれないわけがない。



俺たちがいる屋根の上……まあ建物なんだがすでに野次馬と騎士団員によって囲みが完了しているのだ。

いつ突入してくるかという緊張感の中、レイヴンや黒雷の魔剣士として仕事をした際、顔見知りになった騎士もいる。



たぶん、そういった連中のおかげで俺たちは拘束されていないのだろう。

もう、時間の問題のようだが。



「これは……大人しく連行されるしかなさそうですね。事情を説明するしかないでしょう」



まあ、レイヴンならきちんと話を聞いてくれるし、冷遇はされないだろう。

さんざん、ミネルバを引っ掻き回した蒼炎の鋼腕はわからないけどな。



俺も蒼炎の鋼腕は改心した、慈愛の導き手によってと吹聴しなければならないので、取り調べはむしろ、カモンカモンなのだが。



「悪いが……俺は行けない。正体がばれるわけにはいかん、絶対にだ。騎士団との接触は……まずい」



「ふん、事情があると。ならば、せめてけじめをつけろ」



「それが騎士団に拘束され、相応の罰を受けることではないのか」



「安心しろ。……俺に良い案がある」



セシリアのもの凄く、不安げな表情を尻目に作戦を手早く蒼炎の鋼腕のみに伝えた。

首を縦に振られ、了承も得られた。

よし、後は行動に移すのみだ。



「あの、魔剣士さん。私に説明はないんですか」



「……安心してくれ、セシリー。悪いようにはならん。ただ、少しだけ、有名になるだけだ」



「何をする気ですか! 詳しい説明を要求します」



「すまないが……もう、時間稼ぎも限界だろう。行くぞ、作戦名、慈愛!」



不安そうなセシリア、覚悟を決めた厨二、二人による作戦が始まった。

納得できない者も出てくる、無理矢理にでも蒼炎の鋼腕を拘束しようとする者もいるかもしれない。



……だが、俺は集まったミネルバの住人、騎士団と蒼炎の鋼腕の間にわだかまりが残らないようにしたい。

すべては蒼炎の鋼腕、そして、慈愛の導き手にかかっている……。



「うん、結構丸く収まったよな」



あの騒ぎから数日後、俺はデュークと昼飯を食いながら、作戦について振り返っていた。



「そうっすかね。騎士団はめちゃくちゃ大変だったんすよ。……あんな、一方的に言葉を残して消えるからっす」



ぶつくさ言うデューク、大変だったのは知っているからこそ、こうして昼飯をおごってやったのだ。

まあ、俺もデュークと会話したい気分だったし、ちょうど良い。



「悪いけど、あいつにも都合があったんだよ。正体を知られたくないとかさ。俺も気持ちはわかる。何故なら、俺は……」



「あー、はいはい。飯は静かに食うもんすよー」



相変わらず、俺の対応が上手いというか。

俺を完璧に、きれいに止められるのはセシリアとデューク。

いや、他にもたくさんいるか……弱いな、俺。



「わかったよ。飯中、厨二は封印だ」



「ずっと封印していた方が良いっすよ……だけど、あれ、大丈夫だったんすか」



「何が?」



飯を食いながら、デュークの疑問は何だろうと考える。

心配させるようなことしたっけな。

口を動かしながら、頭をフル回転するが、心当たりは……。



「とぼけちゃダメっすよ。あれ、全部、隊長が考えたんっすよね。聞いてて、俺もレイヴンも笑うしかなかったっす」



「デュークもあの時、いたのか」



「どうせ、俺は鎧に兜のフル装備で紛れたらわからなくなる、その他大勢の一人っすよ」



妙なところでいじけだしたデュークを見て、なんと言えば良いのやら。

まじで紛れたら、声や臭いとか仕草で判断するしかないからな。

この格好じゃないと、首が取れるから仕方ない。



「まあまあ。それで、騎士団はどうだ。あいつに関して不満とか出てたりとかは」



「そりゃあ、出てるっすよ、やっぱり。ただ、少数っすけど。大体、あんな方法しかなかったんすか。……まず、隊長が出てきて場の収拾をつけようとして」



「我が名は黒雷の魔剣士。ミネルバを騒がした蒼炎の鋼腕から話があるそうだ。どうか聞いてやってほしい……ってな」



もし、強行策で蒼炎の鋼腕を捕まえようとしに来たら、俺が止めようとしていた。

俺の役目はサポート、自分の始末は自分でつけるもんだ。



「確か、俺は顔を知られるわけにはいかない。捕縛されるのもだ。だが、俺のやったことは、ただ周りに迷惑をかける行為だったと自覚はしている、すまなかった……って言って、頭を下げたんすよね」



あの観衆の前、綺麗な腰の角度での謝罪。

あんなに沢山の人がいたのに一瞬、場が静まり返ったもんな。



「ああ、それに俺が付け加えて、奴の関係で依頼があれば俺が受けよう……ってな。依頼料は少なめ、まあ、迷惑料として蒼炎の鋼腕が後払いっていう契約になっているけどな」



「あれだけで良かったんじゃないすか。最後のは必要だったんすかね」



「ああ。……そして、蒼炎の鋼腕の歪んでいた心を正しい方向に導き、慈愛の心で改心させたのが……我がパートナー、慈愛の導き手だ。彼女の優しさにはこの俺も救われている……だから、こいつはもう大丈夫だ……ってな」



「言い切った頃には、セシリアさんは隊長の首根っこ掴んでいたっすね。そして、さらばだ、って隊長が強引に終了させて全員、爆炎と共に消えたじゃないすか」



あの消え方は蒼炎の鋼腕と示し合わせていたんだよな。

爆炎は蒼炎の鋼腕に任せて、俺は風の魔法で爆炎によってできた煙を広範囲に広げた。

そして、俺はセシリアを抱えて遠くまで逃げた、蒼炎の鋼腕は自力で脱出。



「逃げた後はセシリアにみっちり……」



「聞かなくてもわかるっす」



「デートが完全につぶれた一日だった」



「自業自得じゃないすか」



手厳しいデュークの言葉がぐさぐさと俺の心に刺さる。

だって、説教が終わった後に食事でもどうかなと思って誘ったけど、ミネルバ中ごたごたしていて、それどころじゃなかったし。

泣く泣く、今日はお疲れ様ってことで別れたんだよ。



「せっかくセシリアが一日付き合ってくれたのにな」



「そういえば、今、セシリアさんのところに男が来ているって話をレイヴンから聞いたっすけど。……隊長、大丈夫なんすか。相手は優良物件らしいじゃないすか。ハピネスが……容姿、経済力、将来性って言ってたっす」



「あいつうぅぅぅぅ!」



俺はその三拍子で劣っていると言いたいのか。

今度会ったら、どうしてやろうか、くすぐりの刑にでも……いや、後が怖い。

特にレイヴンからの報復がとても怖い。



「今日は行かなくていいすか。俺と昼飯より、セシリアさんとティータイムしたいんじゃないんすか」

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