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俺以外の厨二と戦ってみた

「反省……俺が、どうして……」



「いくぞ!」



俺は身体強化を施し、蒼炎の鋼腕に急接近。

剣の柄で鳩尾を強襲……したつもりが鋼のガントレットでブロックされた。

そこからは拳と剣のぶつかり合いだ。



うーむ、打ち合っている感じだとそこそこやるな。

強いけど……そこまでという印象を受ける。

やつは俺を拳で押し込められなかったからか、一旦後ろに退く。



何か仕掛けてくるのかと様子を伺っていると、蒼炎の鋼腕の異名通り。

鋼のガントレットに青い炎を纏ったらしい。

あれは俺、お気に入り風の魔法、《ストームブロウ》の火属性版だな。

火の中級魔法、《フレイム・アーム》だ。



身体に纏う系の魔法はコントロールが難しいのに、簡単に発動している。

しかし、青い炎とはどういうことなのか。



普通なら赤いというか、オレンジというか。

俺でも黒い雷とかっていう芸当はできないのに。



「ふっ、そうこなくては。ならば俺も本気を見せようか」



「俺が蒼炎をまとっても、そんな口が聞けるとはな。さすが、黒雷の魔剣士といったところか」



「ほう……俺を知っているか。ならば、この俺には敵わない……ということがわからないのか? 」



「俺は貴様以上に輝く者。遅れをとるはずがない!」



やつもスイッチが入ったのか、厨二レベル中々のものかもしれないな。

まあ、俺には遠く及ばないがな。



「ふっ、俺には貴様がどう輝いていようが、先に行こうが関係ない。我が名は黒雷の魔剣士。依頼を迅速に遂行する。貴様は今回の依頼のターゲット。無力化させる、それだけだ」



「眼中にないということか……やってみろ!」



再び交差する剣とガントレット。

ただ、相手は魔法で強化しているので先程より、俺の方が不利。

何度かパワー負けし、徐々に後退してしまう。



「口だけだな、黒雷の魔剣士。貴様の時代は終わりだ!」



「俺の時代か。悪いがそんなものに興味はない。世間からよりも、俺はただ……いや、何でもない。それよりも、見せてやろう。俺の本気を!」



《瞬雷》を発動し素早さを上げて、高速で移動を開始。

斬って離脱、斬って離脱を繰り返してやつを翻弄する。



「貴様、純粋な力で勝てないとわかると、退くか」



ガントレットで俺の剣を防ぎながら、皮肉をぶつけてくる。



「何を言っている。さあ、これからが本番だ!」



俺はやつに一撃を決める度、スピードとパワーを上げていく。

より速く、より重い一撃を与えていくとやつも苦悶の表情を浮かべ始める。



「ぐっ、こんな……馬鹿な。貴様の限界は一体どこまで」



「ふははは、さあ、これで終わ……」



「いい加減にして下さい!」



セシリアにより、厨二な者同士のバトル終了のお知らせだ。

俺は《瞬雷》を解除し、剣を納めて大人しくする。

こうなった以上、話を聞くしかない。



「な、何が、どうしてだ。何故、剣を納める」



状況がわかっていないようで、困惑している者が一人。

ここは、厨二先輩としてフォローしてやらねば。



「ふん……いいか、蒼炎の鋼腕よ。今はただ、正座をしろ。これは、厨二な者として町を飛び交う上では避けて通れない道であって……」



「とにかく、私の話を聞いてもらってもよろしいですか」



「はい、すみません」



低姿勢で接して、背筋を伸ばす。

こうなったセシリアはもう止められないからな、俺たちのせいだから、弁明の余地無し。



「おい、黒雷の魔剣士。貴様、態度が全然違って……」



「貴方も聞いてもらってもよろしいですか」



「ぐっ、何故俺が……」



蒼炎の鋼腕が抵抗を試みているが、さっさと正座をしろと思う。

ほら、セシリアがクレイマンにキレているソフィアさん並みの、冷たい表情に変わってしまったじゃないか。



「よろしいですか」



「……はい」



蒼炎の鋼腕も有無を言わさないセシリアのプレッシャーにあっけなく敗北した。

さっきまで、派手にどんぱちしていた二人が並んで正座をするという状況に。



何故、戦闘になったのか、屋根の上ということで建物の被害への配慮はあったか、等々……もっともな話をされて反論できない厨二組。



「魔剣士さん、この方を見つけることが目的だったはずですよね!? 確かに聞く耳持たないような状況でしたが、ここまで派手な戦闘に持っていかなくても良かったのではないですか」



「あ、ああ。まあ、その……」



「鋼腕さんも、こちらの話を聞かずに襲いかかって来ましたが、すぐに勘違いだとわかっていましたよね」



「う、そ、そうだな」



「わかっていながら、戦闘を続行し、ヒートアップまでしてしまった……と」



「あ、ああ、配慮が足りなかった」



厨二組は歯切れの悪い曖昧な返事をするばかり。

言い訳はしない、後悔はしてない、だが、反省はする。

これが黒雷の魔剣士……。



ひたすらに反省する様子が伝わったのか、セシリアの説教も終わり、蒼炎の鋼腕との平和的な話し合いが開始された。



「まず、私からですが。初めてお会いした際に魔剣士さんと間違えてしまい、失礼な態度を取りました」



ごめんなさいと頭を下げるセシリア、目的は謝罪だったからな。

まあ、それ以上の迷惑行為を相手はやっているわけで謝る必要性はあまりない気がするが。



セシリアの性格上、自分の間違いは許せない質なのだろう。

自分に厳しく、他人には厳しく、優しくがセシリアだからな。



「俺は、謝罪を受ける側ではないだろう……。俺が突っかかっていったようなものだし……」



さっきまでの勢いが全くない、セシリアに弱いのかこいつは。

まあ、初対面で説教をくらっているのはわかるけれども、それを考慮してもしおれ過ぎだろ。



「俺から聞きたいことがある」



「魔剣士さんが、鋼腕にですか」



「ああ、気になったことがあってな。そのコスチュームは貴様が考えたのか。アイディアがあれば参考にさせてもらいたいのだが……」



「今、聞くことですか!?」



セシリアのツッコミがきたが聞ける時に聞いておかないとな。

今後、新しい厨二装備を見つけたら、どんな物と合わせるかが重要になる。

同じ厨二でも、価値観は違うはずだから、吸収できる部分はしておきたい。



「これは、貴様……黒雷の魔剣士に憧れ、調達した物だ」



「ほほぅ」



「えっ……」



セシリアは何故、と頭に疑問符を浮かべているが、俺としては悪い気分にはならない。

つまり、こいつは俺の厨二に触発されて、厨二になった……ということか。



「成る程、俺からあふれでる厨二オーラが貴様に宿ってしまったと。ふっ、黒雷の魔剣士は新たな厨二を誕生させてしまった……ということか」



「ということか……じゃないですよ魔剣士さん。伝染しているではないですか」



「いずれ、皆、黒に染まる……」



「染まりません!」



「安心しろ、黒に染まった世界で残った唯一の希望……それがセシリーだ!」



「すみません、話を戻させてもらってもよろしいですか」



俺の厨二により、話がかなり脱線したので強制的に戻される。



「……もういいのか」



「はい、失礼しました。それで、その……魔剣士さんに憧れたというのは」



「そのままの意味だが、何か」



「えっと……」



セシリア完全沈黙、いやあ、ここまで言われると笑いが込み上げてくるな。



「で、ですが、先程の戦いでは魔剣士さんの時代は終わったと言っていましたよね」



「ふっ、セシリーよ。あれは厨二同士のバトルだぞ。己を高め、敵を討つ……やつなりに俺を越えようとしたのだろう」



「これは、そうだと解釈するしかないのですよね」



セシリアも厨二耐性がついてきたのか、引き際を見極めるのが上手くなった。

これはパートナーとして良い兆候。

いずれセシリーも厨二に……なるわけないな、なったら困る。



「だが、俺に憧れたわりに感心しない点が多いな。貴様の所業によって、黒雷の魔剣士にまで風評被害がきた、どうしてくれる」



「俺は、ただミネルバを走り回って、人助けをしていただけだ!」



「違うな、貴様が行っていたのはただ、自分の正義を振り撒いていただけだ。後先、考えずにな。目的はなんだ。まさか、目的もなく行動していたのか」



「それは……」



「話してみませんか……力になれるかもしれませんよ」



俺とセシリアが良い具合のアメとムチになっている。

蒼炎の鋼腕にどんな考えがあったのか。

知らねば、この件は解決しない。



「俺は、人に感謝されたかったんだ。何をしても当たり前だと言われ続け、自分は何のために血を吐くような訓練をして、寝る間も惜しんで勉学に励んだのか……わからなくなった。そして、誰からも俺の努力を認めてもらえない未来が見えた」



「それが、貴様の正体……か」



「そうして過ごしている内に、黒雷の魔剣士の噂を聞いて閃いたんだ。俺も正体を隠し、派手な衣装と台詞で着飾れば……」



こいつがどういう立場の者なのかは知らんが、事情はあったらしい。

声も震えており、ようやく、自分をさらけ出したということがわかる。

嘘はついていないだろう、ならば、こちらも全力で……いこうか。



「貴様は人助けをしていたと言った……が、甘い!」



「わかっている。……俺がしていたのはただの迷惑行為だと」



「いいや、わかっていないな。貴様がしていたことは自分を助けていただけだ。満足いく結果が出ず、誰も頼らずの末路。貴様は自分を救っていただけだ。自分以外の他人から感謝されるはずがない!」



俺にここまで言われる筋合いはこいつには無い、

だが、こいつのためにも事実は突きつけてやるべきだ。

間違いを正し、セシリアと俺で……蒼炎の鋼腕を救ってやろう。

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