俺以外の厨二と会ってみた
「賑わっているなぁ。これもさっきのパフォーマンスのおかげか。いや、元々、店の雰囲気は良いし売っているケーキも美味いからな。当然か」
「あれをパフォーマンスと言ってしまうとアミィさんの苦労が増えてしまいますよ」
「それもそうか」
呑気に注文をしたケーキ食べつつ、セシリアと談笑する。
いきなり、大勢のお客さんが来たもんだから店内は大忙しで、アミィさんが超頑張っている。
会計して、ケーキ運んで、掃除して……今は紅茶の入ったポットを持って各テーブルを回っているな。
マッスルパティシエは……厨房にこもりっきりだ。
一度、着替えた姿を見せたのだが、アミィさんに厨房へと追い立て
られた。
「兄さんは無くなりそうなケーキを確認してすぐに作って! 店内は私が何とかするから」
「しかし、妹よ。ここはこの鍛え上げた肉体の出番ではなかろうか」
「厨房にいる時はあっても、接客時に出番はないよ!」
そんな会話が聞こえてきて俺もセシリアも何とも言えない表情になった。
「本当にアミィさんは苦労をしていると思うよ……」
「……ですね」
賑わいが衰えを見せないところ、店内に騎士が数名入ってきた。
「失礼する。先程、店の前で悲鳴が聞こえてきたと通報があったのだが!」
二名の騎士が店内を見渡しながら、大声で訪ねてくる。
しかし、店主である二人は手が離せない程忙しい。
アミィさんは行きたくても行けない、アンドレイさんは……出てきても、収拾がつかないだろう。
ここは予定とおり、俺が一肌脱ぐか。
セシリアが行くと、一騒動が起こりそうなのでテーブルにて留守番。
騎士に事情を説明するわけだが……。
「上半身が裸の筋肉質の男が暴れているという目撃が……」
「ああ、冒険者二人に神妙な表情で近づいていたという報告もある」
「店頭には千切れた衣服の破片も見つかっており、事件性の可能性が高い。そのため、聞き込み範囲を拡大して有力な情報の確保を……」
「……」
もうなんか……遅い感じが否めない。
店に入ってきた騎士二人はすでに情報を集めていたようだ。
まあ、その情報は真実であって、真実ではないのだけど。
揉めていた冒険者二人は……ケーキを食いながらアミィさんに鼻の下を伸ばしている、ふざけんな!
あの二人を引っ張ってきて、事情説明させた方が早いじゃねーか。
当事者二人を連れてきて、万事解決。
大した騒動にはならなかったし、怪我人も出ていない。
店の前で騒ぎを起こされたというのに、アミィさんは二人を許す流れなので、冒険者二人に厳重注意で方がついた。
あまり力にはなれなかったが、騎士二人にはご協力感謝しますと頭を下げられる。
「俺はそこまで何もしていないんで」
「いや、情報提供、協力に感謝する。おかげでスムーズに任務に当たることができた。……今日は他にも重要な案件があってな」
「重要な案件……」
「おい! 今、その情報については関係ないだろ」
「ん、ああ、そうだった。すまん、忘れてくれ」
相方の騎士に注意されたせいで詳しい話を聞くことができなかった。
くそぅ、そこで止められたらどんな情報か気になるじゃないか。
よし、あまり使わない手段に出よう。
厨二スイッチを半分だけ入れてと。
「その必要はない。あれのことだろう? 」
「……まさか、知っているのか」
「これでも冒険者。情報は武器だ。仕事にも関わってくるからな、当然だ」
厨二ポーズを決めて、クールさを意識して会話する。
内心は突っ込まれたらどうしようだが、今の俺には厨二がついている。
恐れるものはない。
「そうだったのか。……奴のことはもう広まっていたか。考えてみたら冒険者たちも相当、手を焼いていたからな。情報の流れが早いのも頷ける」
「まさか、やつが動くとは思っていなかったがな。俺も驚いているよ」
場の雰囲気に合わせて返答しまくっているので、周りからは普通に会話中だと思われているだろうな。
俺はやつのことなんて全く知らないんだけどね。
「いや、活動をきっぱり止めたと油断していた。忘れた頃に再度現れるとはな。騎士団長の作戦でミネルバは以前の姿に戻りかけていたというのに」
会話の内容から何のことか推測しよう。
レイヴンが動いた、ミネルバについて、騎士、冒険者両方に関係ある。
まさか、現れたやつって……。
「全くだ。これでは騎士団長と黒雷の魔剣士の頑張りが……な」
「ああ。蒼炎の鋼腕、今日こそ捕縛しなければ」
やっぱり、蒼炎の鋼腕か。
話の途中からなんとなく察してはいたけれど。
これは一大事だと、騎士に別れを告げてセシリアの下へと戻る。
「セシリア!」
「どうかしましたか、ヨウキさん。何やら騎士の方々と話されていたようですが」
「ミネルバに蒼炎の鋼腕が現れたらしい」
「……っ、本当ですか!? 」
「レイヴンの所に行こう。何か情報があるかもしれない」
「わかりました」
ケーキ、紅茶代を支払い、急いで騎士団本部へと向かう。
このタイミングで現れるとは……一体、何故だ。
いきなり活動を休止したと思ったら、忘れてきた頃に活動再開しやがって。
しかも、わざわざセシリアとのデート日に合わせてくるとは良い度胸だ。
一度会ったら、匂いと声を完璧に覚えてどこまででも追いかけてやるぞ。
「ヨウキさん、何かスイッチが入っているように見えますが」
「え、まじで? 」
さっき中途半端に厨二スイッチ入れたからな。
どす黒い感情も芽生えてきたし、完全に入っているかも。
「信用していますから」
セシリアは笑顔でそれだけ言い、前だけ向いて走る。
あれ、いつもなら注意が入るところだよな、これ。
これは期待に答えねば……!
「任せて」
言葉は最小限に、燃えるのは心の中だけにしておこう。
でも、厨二スイッチは入りっぱなしだということに気づいていない俺。
大丈夫かなんて頭に全く浮かんでおらず、勢いに任せるままにレイヴンの所に乗り込んだ。
「レイヴン、来たぞ!」
「……ああ、蒼炎の鋼腕についてだろ。わかってる」
「さすが、レイヴンさんですね。今はどこにいるのかわかりますか」
「……そうだな。最新の目撃情報だとここだ」
机上の地図にはたくさんのメモが張っており、印がつけられている場所もある。
地図内のある場所をレイヴンが指で示す。
ここからそう遠くない。
「よっしゃー、いくぜぇぇぇえ!」
「へっ!? 」
「……あ」
セシリアを担いで窓からジャンプし、地面に着地。
自分が出せる最高速度で現場に……。
「ヨウキさん、ストップです。今のヨウキさんは素ですよ!? 下ろしてください」
「じゃあ、素じゃなければ良いんだな!」
俺はセシリアを連れて、屋根上を疾走。
宿で黒雷の魔剣士にチェンジして、蒼炎の鋼腕を探す。
もちろんセシリアは抱えたままで、本人はというと。
「もう、好きにして下さい……」
何かを諦めているようだった。
安心してもらいたいが、今日の黒雷の魔剣士は一味違う。
やつを捕縛するために手段を選ばない所存だ。
「やつとは必ず決着をつけねばならないと思っていた。絶対に……この手で」
「まるで宿敵との決闘前ですね。元々、私が人違いをしてしまったので、謝罪をしたいことが発端だったはず。何故、このような事態になってしまったのでしょう」
「何が起こるかなんて、人生わからんさ。……俺もそうだったからな。ま、黒雷の魔剣士が全て解決する。もし、俺が一人で対処出来なくなったらその時は……場をまとめてくれ!」
「そうですね。それが私の役目なのでしょう」
セシリアとの連携の確認もしたところで、レイヴンの示した場所にたどり着いた。
野次馬ばかりで、肝心の蒼炎の鋼腕らしき姿はない。
「ふっ、この俺から逃れられると思うな」
回りの状況から察するにスリを過剰な力で捕縛した模様。
命に関わるような怪我しなかったみたいだが、スラれた商品まで得意としている炎で焼き尽くした模様。
全くもって雑な仕事をする、犯人を捕まえれば良いというものではない。
現場には騎士団がすでに到着していて、処理等の作業中。
俺は俺のやるべきことに集中させてもらおうか。
「あの……以前から思っていたのですが、これ私が拐われているみたいですよね」
現在、俺がセシリアを担いで飛び回っている状態。
見つからないように姿を消したりして、目眩ましはしているけども。
「知らないのか、俺たちがこういった格好でミネルバを飛び回ることは有名だぞ」
「絶対に嘘ですね!」
俺たちのコンビは無敵だと思う。
従って、有名になる可能性だってあるのに、否定するのが早いような。
コント染みた風景だとデュークに言われそう。
「おっ……っと」
セシリアとの会話を邪魔するかのようなタイミングで何かの魔法が向かってきた。
水の鞭のような物が死角から、俺の身体を狙ったらしい。
「……その少女を離せ」
魔法が放たれた方向には俺に似た、厨二っぽい格好をした者が立っていた。
藍色のスカーフ、黒色の革鎧に鋼のガントレットを装備している。
そして……俺と同じヘルメットも。
蒼炎の鋼腕自ら、こちらに出向いてくれるとは探す手間がはぶけたな。
俺は担いでいたセシリアを下ろす。
無駄に戦う理由はない、セシリアがこいつに会って人違いの謝罪をすることが目的だ。
セシリアのことだから、謝罪が終わればミネルバを混乱させた理由で説教が待っているだろうが。
「……誘拐ではなかったか」
「ふん、この俺が何故、そのようなことをしなければならない。俺の名は黒雷の魔剣士。セシリーは我がパートナーで、あの光景は日常茶飯事……」
「勝手なことを言うのは止めましょう」
鋭いツッコミが入ったので、大人しく黙る。
このままでは、邪魔をしてしまいそうだからな。
しかし、時はすでに遅かったようだ。
「パートナー……まさか!」
パートナー、という言語を繰り返し、動揺を隠しきれない様子の蒼炎の鋼腕。
もしかして、セシリアが原因か。
今は変装をしているのでばれていない……はず。
「貴様……そういうことか!」
何かに気づく素振りをしたと思ったら、俺に向かって猛ダッシュ。
そして、殴りかかってきやがった。
俺は難なく、拳を避けて距離を取る。
「いきなり殴りかかってくるとは。貴様、厨二コスチュームを着ているというのに、なんていう奴だ。いいか、相手にファーストアタックを仕掛ける時は掛け声が非常に重要になるんだぞ!」
「魔剣士さん、今、そのことについてはいいです。相手も聞く耳持たずみたいですし」
「ふん、ならば力付くで俺の話を聞かせてやろうじゃないか。……我が名は黒雷の魔剣士。貴様がミネルバで好き勝手してくれたおかげでとんだ火の粉が降りかかってきた。きっちり反省してもらおうか!」
厨二二人の会話って難しい……




