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遠回しに誘ってみた

黒雷の魔剣士がレイヴンと一緒に見回りを始めて一週間。

最初は三日間だったのが、効果があったせいか契約が延びた。

レイヴン曰く、騎士団の雰囲気も回復を見せており、ミネルバも以前の賑わいを取り戻しつつある。



現状を見て判断した結果、俺の役目も終了ということになった。

いくら依頼とはいえ、あまり長く冒険者が騎士と同行し見回りをし過ぎるのも良くないらしい。

黒雷の魔剣士として無事に依頼を達成した俺が向かう場所はというと。



「お疲れ様です。ここ一週間は忙しかったようですね。お互いに」



「……ソウダネ」



ソレイユへのミネルバの案内が終わり、少しだけ落ち着いた様子のセシリア。

事情も説明したかったので、時間を作ってもらったのだが。



「何故、片言なんでしょうか」



「キニシナイデ」



「……今、気分が落ち着く紅茶を淹れますね。少し、待っていて下さい」


ポットを取りに行くセシリアの後ろ姿を見ていて安心感と不安が募る。

このセシリアとの日常がソレイユのものになるかもしれない。



つーか、このまま順調に二人のお見合いが成立する気がしてならないわけで。

俺のために紅茶を淹れてくれるセシリアをこれで見納めになるかも

とか考えると……ゾッとする。



「どうかしましたか。随分と思い詰めた顔をしていますが。……ああ、そういえば、ヨウキさんは一週間もあの姿でミネルバの見回りをしていたのでしたね。今回は正式な依頼でミネルバや騎士団の雰囲気が良くなったと聞きます。……どうか、今日はゆっくりと休んでください」



セシリアが慈愛に満ちた表情で俺を見つめ、紅茶をどうぞと差し出してくる。

うん、これは完全に勘違いしているな。

俺が黒雷の魔剣士として活動し、厨二をこじらせたせいで、落ち込みが長引いていると思われているようだ。



確かに一週間、高笑いをしながらレイヴンも引っ張ってミネルバを走り回ったさ。

いつでも俺を呼ぶが良い……とか捨て台詞残しまくって活動したよ。



そのかいあってか、最終日はレイヴンに殴られたからな、目を覚ませとか言われて。

おかげでばっちり目は覚めたわけで、引きずってはいないんですよ。



俺が微妙な気持ちになっているのは、あなたが原因ですと言いたい。

ジト目でセシリアを見ていたのだが、本人に気づかれた。



「……どうかしましたか? 私の顔に何か」



「いや、別に、何も」



胸の中のもやもやした物が消えない。

どうすれば消えるのかを考えてみよう。

俺は単純に……嫉妬をしているのだろう。



男の嫉妬なんて醜いだけな気もするが、仕方ないと思う。

では、どうすれば良いのか。

ソレイユがセシリアとデートをしている姿を見た時。



黒雷の魔剣士を否定され、口論になったが、よくよく考えればイラついたり落ち込んでいたりと感情が渦巻いていた。

今もそんな状態、ならば……!



「休んでなんていられないな!」



「……はい?」



紅茶を飲んでいたセシリアの手が止まる。



「今日もミネルバの見回りに行くぞ」



「えっと、依頼は終わったんですよね。レイヴンさんから、さらに期間が延長されたわけでも」



「ああ、レイヴンからはもう大丈夫と言われ、ギルドからも既に依頼の完了報告済で報酬ももらっている。……だが、俺には聞こえるんだ」



「……何がでしょうか」



「町の人たちの救いを求める声さ」



「一週間の見回りでそのような声が聞こえる癖がつくでしょうか。或いは……やはり、今日はゆっくり休んだ方が良いですよ。疲れが原因かもしれません」



「いや、そんなことはない。俺は猛烈にミネルバを見て回りたい気分だ」



見回りじゃなくなってるじゃねーかというツッコミは気にしない。

セシリアは完全に戸惑っている感じ。

俺としても見回りが目的ではない。

……ただ口実が欲しいだけだ。



「って、わけでミネルバへ行くぞ!」



「私もですか!? 」



「見回りにはパートナーが必要だから……行こう、セシリア」



俺はセシリアに手を差し出す。



「……ふふっ、わかりました。支度をしますので、少しだけ待っていてもらっても良いでしょうか」



返事をもらう際に少しだけ、笑われてしまった。

……俺の浅はかな目論見に気づかれたのかもしれない。



「わかった、先に屋敷の門で待ってるから」



そう言い残し、急いでセシリアの部屋から出て、両手で顔を覆う。

普通に誘った方が良かったかもしれない……デートしようって。

後悔と反省をしている俺の前に、リア充が現れた。



「……おは」



「お、おう。ハピネスか」



「……元気? 」



「ん、まあ、な」



「……がんば」



ハピネスは珍しく俺をいじることなく、励ましの言葉を残して去っていった。

レイヴンとのことで感謝をしてくれているからか。

……あまりにも珍しいので、お礼を言うのを忘れてしまった。



ハピネスからエールを送られた俺は気合いを入れ直すことができた……気がする。

支度を終えたセシリアを連れて、ミネルバをデー……見回りを開始。



「お互いにずっとミネルバを徘徊していたからな。目新しくなっている物がないな」



「日々、変わっているはずなのですが」



一週間ずっとだからな、わずかに変化していく様も見ている。

まあ、別に目新しい物がなくなっていい。

俺はこうやって、セシリア二人並んで歩けるだけで満足。



「そういえば、ユウガたちはどうなったのかね。一週間経ったし、そろそろ依頼を片付けて戻ってきそうだけど」



「勇者様にもミカナにも他に仕事がありますからね。あまり、長居はしてこないと思うのですが。……ミカナが心配です」



それはムキムキな炭鉱マンたちの中に放り込まれているからか、ユウガのお守りを一人でやらねばならないからか。

ミカナは結局ユウガとどうなったのか、何のアクションも起こしていないのか。



「本当に苦労しているよなぁ……」



「ミカナがですか」



「考えると不憫に思えてくるようなレベルなんだけれども」



今までユウガに対してやってきたことを考えると相当だろうに。

そこまでする理由が……ユウガにあるのか。



「……それはミカナが自分で決めてやっていることです。私たちがとやかく言うことではありませんよ」



「そんなもんか」

中途半端だな……

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