デートをしている好きな子と遭遇してみた
「……む」
曲がり角を曲がれば、そこには好きな子がいて、隣には俺ではないイケメンがいて。
さらに今の俺は黒雷の魔剣士でヨウキではない、セシリアとの関係は……仕事仲間か。
セシリアも俺の姿を見て、最初は驚いていたが徐々に説教モードの表情にシフトチェンジした。
そういえば、レイヴンの依頼で見回りをすること伝えてなかったな。
伝える暇がなかったのだ、仕方ない。
お見合い相手のソレイユは俺を分析するような視線を送ってきている。
ばったり会って、見つめ合うが誰も言葉を発しない。
そんな中、沈黙を破ったのは……。
「おっと、道をふさいでしまったな。これは失礼した。俺としたことが、若人の歩みを止めるとはとんだ、失態だ」
黒雷の魔剣士こと、俺である。
セシリアの事情的にもここは知らない人を装った方が良いだろう。
このまま俺が横にずれて、去れば万事解決。
「待ってください」
俺を止めたのはセシリア……ではなくお見合い相手、ソレイユ。
何故止めるのか、止める必要なんてないだろ、知り合いでもあるまいし。
しかし、待てと言われて、黙って去ってしまっては変に思われる。
目をつけられるのは不味いので、顔だけ振り向いた。
「俺に何か? 」
「冒険者の方とお見受けしますが、貴方は何故、そのような格好をしているのでしょう。どう考えてもデメリットしかないように思えますが」
眼鏡越しの冷たい視線が俺に刺さる。
俺の黒雷の魔剣士コスチュームにけちをつける気か、上等だ。
立ち去るのは止めだ、厨二スイッチを入れる。
セシリアには悪いが黒雷の魔剣士として見逃すことはできん。
「ふっ、可笑しなことを言うな。俺がしたいからしている。……それが理由だ。メリットもデメリットも関係ないな」
「理解に苦しみますね。実用性のない武器、やたらと人の目を引く衣装。戦いに赴くには非常に不便だ」
「自分の価値観を押し付けるのは良くないな」
「いいえ、僕が言っていることは一般論だ。貴方が異端なだけです」
「異端結構! 俺は俺が求めた俺らしさを考えた結果、こうなった。周りに合わせてその他大勢に混ざるなど愚問だ。俺は俺の進む道を行く」
「そのような自分勝手な考えが秩序を乱す原因になるんですよ」
「ふっ、悪いが今の俺の仕事はその乱れた秩序を元に戻すことだ。全く、逆のことをしているが、何か? 」
お互いにヒートアップしているせいなのか、言い合いが終わらない。
ああ言えばこう言う状態だ。
こういう場の収拾がつかなくなった時、頼れるのは。
「いい加減にして下さい」
セシリアの一声でぴたりと止まる俺とソレイユ。
この流れはいつもの……セシリアの独壇場だ。
「ソレイユさん、冷静な貴方が熱くなってどうするんですか。立場を考えてください。町中で揉め事を起こしたとなれば、せっかくの休暇が台無しになってしまいます。ソレイユさんのことを考えて休暇を与えた領主様のお気遣いを無下にする気ですか」
ソレイユに淡々と説教するセシリアの姿を見ていると、ソレイユが俺にだぶって見える。
あのポジションは俺かユウガなんだよなぁ……と呑気に思っていると、セシリアがターゲットを俺に変更した。
「魔剣士さん、貴方もです。どこかで納めどころはあったでしょう。何故、綺麗に打ち返しているんですか。途中で不毛だと気づいていたでしょう。……とにかく、このような沢山の人たちが往来する場所でこれ以上の口論は止めてください」
「……そう、ですね。僕としたことが、らしくもない。セシリアさん、失礼しました」
「ふむ、確かに今日の俺は騒動を収拾するのが仕事だ。自ら率先して騒ぎを起こすとはな。反省しなければなるまい、すまなかった」
俺もソレイユもセシリアに向かって謝罪をする。
お互いには目を合わせないし、謝罪もなしだ。
こいつは知らないだろうが、俺にとっては恋敵なのだから。
敵対心を持ってこようならば、喜んで相手をしよう。
「はぁ……では、ソレイユさん。先に進みましょうか。あと、魔剣士さんは……」
「安心するが良い。今回は友人と一緒の依頼だ。今頃は彼女の手作り弁当を食している頃だろう。最近会えてなかった分、感動しながらな」
ソレイユがいる手前、レイヴンの名をはっきり出すのは気が引ける。
なので、セシリアにしかわからないように伝えた。
ここまで言えば、俺が誰と一緒にいるかわかるだろう。
「ああ、それなら大丈夫ですね」
「ふっ、安心できたなら、俺は行く。まだ見ぬ誰かが俺の助けを待っているかもしれない……」
格好良い余韻が残る感じでマントを翻しその場から去ろうとする。
「……最後に一つだけ聞きたいことがあります。私がしたように貴方は自分を否定されても、その格好は止めないのでしょうか。私だけでなく、理解を得られる人は少ないと思われますか」
「くだらない質問だな。さっきも言っただろう。俺は俺の進む道を行く。他人の評価とは、理解とはそんなに大事な物か。自分を偽って生きることは果たして、生きていると言えるのか。好き勝手に生きる、それは自分以外の沢山の人を不幸にする生き方かもしれない。だが、俺は自分の決めた道を行く。幸いにも調子に乗りすぎたら、正してくれる仲間もいるからな!」
少々、長めの台詞になってしまったが言いたいことは言い切った。
ソレイユは目を細め眉間に皺を寄せているが、知ったことか。
だめ押しの決めポーズをし、さらばだと言って跳躍。
屋根の上を飛んで走って、レイヴンの元へと帰還した。
「黒雷の魔剣士、参上!」
「……遅かったな。何かあったのか? 」
「何もない。ただ……避けられなかった、自分を抑えられなかった……それだけだ」
「……そうか。よくわからんが、昼休憩は終わりにして、午後の見回りを始めよう」
「ああ。聞こえるぞ、俺を必要とする声がな! 行くぞレイヴン」
「……デューク曰く、戻った後のアフターケアを考えとかないと危険か。まあ、そこまで考えなくて良いだろう」
午後の見回りも小さな騒動に遭遇しては解決して回った。
時にはいちゃもんをつけられたが、そういう時は拳で語る……わけにもいかなかったので、黒雷の魔剣士が穏便に交渉をする。
まあ、相手も酒が入っていたり、頭に血が上っていたりと聞き入れてもらえない場合も有った。
それでも、黒雷の魔剣士特有の粘りを発揮し、解決へと導いた。
そして、無事に見回りが終了。
レイヴンに夕食の誘いを受け、黒雷の魔剣士からヨウキへと戻った
のだが。
「……これが、デュークの言っていたやつか」
「すまん、レイヴン。少しだけ、少しだけで良いんだ。時間をくれ!」
「……俺は一向に構わない。回復を待とう」
レイヴンの優しさが身に染みる。
ミネルバの至るところで厨二を連発してしまった。
これが後……いつまでだっけ。
とりあえず、その日は早く立ち直れたのでレイヴンと夕食を食べに行くことができた。




