好きな子のお見合いを見てみた
大分、間が空きました、すみません。
俺が嫌だと現実逃避したところでセシリアのお見合いが無くなるわけでもなく。
時間はあっという間に過ぎてお見合い当日。
結婚確定、おめでとうなんてことになる確率は少ないにしても気に入らない部分がある。
だけど、邪魔するなどという行動は論外。
実際、最近は大人しくしていたユウガが飛び出してきたのだが、俺、ミカナ、レイヴンの三人がかりで捕縛。
もう、ミネルバにいるだけで面倒な予感がしたので、我が国の勇者様には退去してもらった。
ギルドで依頼を見繕ったわけだが、女性関連のトラブルに巻き込まれないように、マッチョな男性のみが働いている炭坑に送り込んでやった。
依頼内容は坑道内で土砂崩れが発生して、魔物の生息域とつながってしまう。
魔物側はパニック状態、しかし、そこまで害のある魔物でもないので平和的解決を望んでいるとか。
色々な修羅場を潜ってきた勇者様にぴったりな依頼内容だ。
自前のトラブルメーカーが心配だからということで、ミカナも付いていったけど。
「まあ、俺もユウガと同じでじっとしているなんて出来ないけどな」
俺も一緒にユウガの暴走を止めた。
しかし、じっとしていられるわけがない。
俺の現在地はアクアレイン家の庭園だ。
しっかりと管理がされており、無駄な雑草など全く生えていないこの場所にて隠密活動中。
さすがの俺でもバニッシュウェイブを使っての透明化を一日中保つのはしんどい。
だから、見つからないように木の陰に身を潜めていたりする。
最悪、バニッシュウェイブを使うし。
セリアさんには許可をもらっているし、大丈夫だろう。
……セリアさんには。
さて、そろそろ件のお見合い相手が到着する時間だ。
俺は潜伏場所から移動を開始、こういう時には姿を消す。
屋根の上から観察していると、馬車が二台近づいてきた。
……領主の息子にしては倹約している方かもしれない。
俺、貴族だから見栄張りたいんで豪華な物じゃなきゃやだとかっていう我が儘なやつを期待していたのに。
そんなやつだったら、もうきっぱりと後腐れなく断れたと思う。
セシリアに何かしようとしたら、それこそ俺が隠密に……なんてな。
馬車が屋敷に到着し、中から人が出てきた。
「イケメンだ……」
中から出てきたのは眼鏡をかけた知的な雰囲気を漂わせるイケメン。
スラッとした体型、高身長、白と青色が基調の法衣を着ていて、剣を帯びている。
出迎えたセシリアに丁寧なお辞儀を交わして案内されるまま、屋敷の中へと入っていった。
「うーん……ぱっと見は魔法使いタイプに見えるんだよな」
接近戦タイプには見えない。
まあ、人は見かけによらずだし、別の国だけど、勇者パーティーに
選出されるくらいだから、侮っちゃいけないな。
「別に争おうなんて考えてないんだから、戦力分析しなくても良いか」
俺は屋根から下りて、再び庭園へと戻った。
「お久しぶりです、ソレイユさん」
「はい、最後にお会いしたのは魔王討伐記念パーティー以来でしょうか、セシリア・アクアレイン嬢。今回、突然の話かと思いますが前向きに検討して頂けると……」
そんな会話が聞こえてきてイラつくことイラつくこと。
こっちは窓の下、見えない位置に隠れて歯軋りたてながら聞いている。
本格的なお見合いの話を繰り出す気かと思いきや、最初はお互いの近況について、話していたのだが。
「魔王を討伐したからといって、安心は出来ません。次期領主として僕は民を守らねばなりません」
「現在は父の仕事の手伝いをしています。僕自身、まだまだ若輩者だと思い知らされますが、学ぶことも非常に多く充実した日々を過ごしています」
話を聞けば聞くほど優良物件に見えてくる。
ソレイユ・グレスハート、次期領主として勉学に励んでいるご様子。
次期領主ということもあって、安定した収入や生活が出来そうだ。
没落という可能性もこの性格と領内の情報を聞いた限りは低いな
話には出していないが、結婚相手なんて引く手あまただろうに。
セシリアもそつなく対応している辺り、お嬢様だなあと思う。
「つーか、雰囲気的には良いのか、悪いのか? 」
お見合いなんてしたことないから、順調なのか順調じゃないのかがわからない。
初見じゃないらしいし、どんなもんなのだろうか。
ただ、談笑しているだけなら雰囲気は良さげなイメージがある。
「……セシリアさん、実はですね、僕、ミネルバに数日間、滞在する予定なんです」
「滞在……ですか? 」
「はい。父にたまには異国ではありますが、休暇を取れと言われてしまいまして」
「……働き過ぎなソレイユさんを気遣っているんでしょうね」
「体調管理の仕方も知らないのか! と父に叱られてしまいました。本当にお恥ずかしい話です。それで、セシリアさんの予定が空いていればで構わないのですが。……よろしければ、明日、ミネルバを案内してもらえませんか? 」
案内という名のデートだな、絶対。
自然な形での誘い込み、断りづらい雰囲気を作るのも上手い。
「わかりました。私で良ければご案内します」
やっぱり引き受けるセシリア、断る理由もないだろうしな。
「すみません、ありがとうございます。……では、今日はこれで失礼させてもらいますね。明日はよろしくお願いします。あ、集合時間と場所はどうしますか? 」
「そうですね。では、昼頃でどうでしょうか。場所は城門の前で」
「わかりました。楽しみにしています、セシリアさん」
爽やかな笑みを浮かべたまま、ソレイユは屋敷を出ていった。
なんで笑みを浮かべているのがわかったかっていうと、屋根の上からソレイユが帰っていくのを見ていたから。
睨み付けまではしないけど、多少は敵対心を抱いてしまう。
これが嫉妬というやつなのかもしれない。
ユウガには沸いてこなかった感情だ。
「……ユウガに関しては怒りと呆れが勝っていたのかもしれない」
そんなユウガは今頃、ムキムキな方々に囲まれた炭鉱の中で仕事をしているわけだが。
……環境的なことを考えるとユウガについていったミカナの方が大変な目にあっているのではないか。
ユウガの面倒だけでなく、ムキムキ炭鉱マンたちの相手もしなければいけないわけで。
いやあ、あっちはあっちでイベントが起きていそうだな。
「明日はどうすっかな」
頭をかきながら考えつつ、帰宅したわけだが……どうしようかね。
ストーキングするのはちょっと、いや、かなり気が引ける。
今日の覗き聞きもセリアさんにオーケーもらっているとはいえ、完全にアウトだし。
気にはなるけど、線引きはしないといけない。
下手したらレイヴンに連行されてしまう。
「辞めとくかな……ん? 」
考えていると窓から何かが侵入してきた。
窓の戸締まりはちゃんとしている。
ただ、侵入してきたのは薄っぺらい人形の紙。
「クレイマンの式神じゃねーか」
俺に頭下げて挨拶のようなことをしてきたので、こちらも頭を下げる。
術者よりも礼儀正しいなと感心していると、俺に手紙を差し出してきた。
紙に手紙を渡されるというシュールな光景に少し戸惑う。
どうしようかと考えていると、俺が中々受け取らないからか、式神が何度も頭を下げ始めた。
「わかった、わかった。ちゃんと見るって!」
手紙を受け取り、内容を確認する。
「黒雷の魔剣士、指名の依頼が来ただと……!?」
直接指名された依頼が出されるというのは聞いたことがあったけど、まさか体験することになるとは。
でも、クレイマンの奴、依頼が来たっていう報告だけで肝心の依頼内容が書いてねぇ。
「これだけ見てどうしろと……って、おい、待て!」
手紙を届けに来た式神は役目は終わったということなのか。
ぼふんという音と煙を立てて、式神は動かなくなった




