ダブルデート? をしてみた
セシリアに手を振り、こちらに向かって来る勇者くん。
おいおい、今日の不吉な予感てこれだったのか……というかすごい笑顔だなおい……。
隣の少女魔法使いは渋い顔しているのに気づけよ。
「セシリアー、セシリ……むぐっ!?」
名前を呼びながら駆け寄って来ていた勇者くんだが、横にいた少女魔法使いに口を塞がれる。
「ちょっと、ユウガ、馬鹿じゃないの? 私達の名声を忘れたわけじゃないわよね」
耳元に小声で説教をしているようだ。
内容はなんとなく想像できるな。
「僧侶だって、変装してお忍びで来てるのに、ユウガが名前呼んで近づいてったら周りの人にばれるでしょ!? ちょっとは頭を使いなさい」
かなりぼろくそ言われているようだ。
正論過ぎたのだろう。
勇者くんは何も言えず、こくこくと頷くだけだった。
「わかったよ。ごめん、ミカナ、セシリア」
小声で謝る勇者くん。
どうやら自分が悪いと自覚したらしい。
まあ、少し考えたらすぐわかることだろうに。
「ところで、セシリアはどうしてここに? 僕達は久しぶりに休みをとって遊びに来てるんだ。よかったらセシリアも一緒に遊ばない?」
おいおい、勇者くんは俺のこと見えてないのかよ。
さすがに風景と同化できる程影が薄くないぞ。
「すみません。私も今日は休みをとっているのですが、連れの友人がいますので……」
「友人?」
勇者くんがセシリアに言われて、やっと俺の存在に気づいたようだ。
なんか俺を見て微妙な表情している。
好きな人が自分以外の男といたら当たり前か。
「あー……じゃあ、彼も一緒に連れて遊ぼうよ」
なんだよ、俺はついでか? セシリアの返事も聞かずに、腕を引っ張って店の奥へ入っていく勇者くん。
積極的にいったのかもしれないが、セシリアはあまり良い表情してなかったぞ。
取り残された俺と少女魔法使いだったが、彼女が不満を口にした。
「まったく、ユウガと二人でデートだったのに。とんだ災難よ」
おいていかれた少女魔法使い、たしか、ミカナだったか?
こっちだってそうなんだがな。
「せっかく、二人で無理矢理休みをとって、天気がいいから昔みたいに買い物に行きましょうって誘ったのに……」
昔みたいにって、勇者くんとは幼馴染みのような関係なのだろうか?
はぁ……とため息をこぼしている。
俺だって、初めてのデートを邪魔されてイライラしているんだが。
「……あんた、あの僧侶のこと好きなの? 一緒にいたんだし、デートとかだったんでしょ」
なんか、いきなり答えづらい質問をされた。
どう答えるべきだろうか……?
「ふん、まあ答えなくてもわかるわ。せいぜい頑張ってちょうだい。そうすればユウガも僧侶のことを諦めてくれるかもしれないから」
なんか応援された。
ビッチかと思ってたが、意外と勇者くん一筋なのか。
少しは見直した方が……
「まあ、あんたみたいな冴えない顔じゃあんまり期待はしないけどね」
前言撤回。こいつはビッチじゃないかもしれないが性格は悪い。
……まぁ、多少は見直したので、心の中では名前で呼んでやろう。
「何ボサッとしてんのよ。あの二人をいつまで放っておくつもり? 先行くわよ」
俺を置いてずかずかと店に入っていくミカナ。
確かに彼女の言う通りだな。
可能性は皆無に等しいが、良い雰囲気になっていたら困る。
俺も彼女に続いて店に入った。
店内はカップルが多い。
たぶん、女性に男性がプレゼントするためとか、そういう理由だろう。
少し、キョロキョロと辺りを見回すとセシリアを見つけた。
勇者くんと合流したのであろうミカナも一緒にいた。
「あ、ヨウキさん、すみません。置いていってしまって……」
別にセシリアが悪いわけではないので、謝る必要はないのだが。
引っ張っていった勇者くんが悪いだろう。
まあ、口には出さないが。
「いや、気にしてない。それにしてもいろんなアクセサリーがあるな」
店内には指輪、ブレスレット、ネックレス、ブローチ、イヤリングと値段も低価な物から高価な物までいろんなアクセサリーがある。
「せっかくだし、何か買うよ。どれにする?」
俺の言葉に勇者くんが反応した。
「そうだね。僕もミカナとセシリアに何か選ぶよ」
イケメンスマイルでそう言う勇者くん。
張り合っているのか?
選ぶということは遠回しに勝負だと言いたいのだろう。
俺はセシリアにしか買わないぞ。
「じゃあ、俺も選ぶよ」
さっそく、どれにしようか、アクセサリーを選びだす男二人。
ミカナは勇者くんに選んでもらえると言われたからか満足げな表情をしている。
セシリアは苦笑いだ。おそらく、勇者くんが張り合ってきたからだろう。
「……さて、どうするか」
前世から今まで女性にプレゼントなんて、母親ぐらいにしか贈ったことがない。
……どれにしよう?
店内をぶらぶらして、一つの商品に目がいった。
「……お。これいいかも」
目についたのは、手頃な価格のネックレスだ。
低価格だが、作りはしっかりしているし、貧乏臭くもない。
我ながら良い物を選んだかもしれない。
「セシリア、これどうかな?」
セシリアにつけてみる。
結構似合ってるんじゃないだろうか?
本人も喜んでいるようだ。
二人で良い雰囲気になりつつあったのだが……
「セシリア、僕が選んだ物もつけてみてくれないかな」
横から割り込んできたのは勇者くんだ。
空気読めよ、今良い雰囲気だったのに。
勇者くんが持ってきたのは、豪華な装飾が施された、いかにも高価そうな髪飾りだ。
だけど、宝石がごちゃごちゃ使われ過ぎてごつい感じがする。
おいおい……高けりゃいいってもんじゃないだろ。センスを疑うぞ。
ミカナもセシリアも顔引き攣っているし。
これはないと女性二人も思っているようだ。
「僕がつけてあげるよ」
勇者くんはそんな酷評をくらっているとは知らないだろう。
そう言って、髪飾りを着けるため、セシリアの麦藁帽子をはずす……って馬鹿!
勇者くん以外、俺達三人の顔が驚愕の表情になる。
そんなことしたら……
「あれ、セシリア様じゃないか!?」
「横にいるのは勇者様じゃない?」
「ミカナ様もいるぞ」
正体がばれてしまい店内は大混乱。
俺は殺到した人に押され、一緒にいたはずなのに、やじ馬の一人になってしまった。
「ユウガの馬鹿!」
「セシリアーどこ!?」
「ヨウキさんどこですか!?」
「押すなー、店に迷惑だろう! 一旦全員外に出ろ」
店の外に出るように促し、店内から脱出したが、混乱は治まらない。
人がどんどん集まり、質問攻めにされる三人。
「勇者様、どちらが本命なんですか!?」
「王女様との婚約の話は?」
「セシリア様は婚約をずっと断っていたようですが、勇者様のためですか?」
「ミカナ様はどうするんですか?」
「あれ? さっきもう一人いたような……」
三人が質問攻めにされている頃、俺はずっと人混みにもみくちゃにされていた。
六時間後、俺達四人はぐったりとしていた。
騒ぎが治まり、近くの公園でくつろいでいる。
「……セシリアにミカナ、あと君もよかったらこれから夕食に行ったりは……」
「行くわけないだろ!」
「行かないわよ!」
「遠慮させていただきます!」
三人の心が一つになった瞬間だった。
騒動を起こした張本人が何を言っているんだか。勇者くんも疲れが溜まっているだろうに。
もうこれ以上の騒動はごめんである。
「あはは……だよね」
少しは反省してほしい。
せっかくの休みが台なしになったのだ。
身体の疲れを取るつもりが、逆に疲れてしまった。
「今日はもう解散しよう……」
俺の案に皆賛成してくれた。
結局、俺の初デートは見事に失敗に終わったのである。
勇者くん……いやユウガ。
覚えていろよ……この恨みは忘れんぞ。
翌日、俺はまたセリアさんに呼び出しをくらった。 ……説教かな?