友人と元部下の……を聞いてみた
ハピネスが待つ森へと案内されたレイヴン。
ハピネスが一ヶ月の休みをとり、行方をくらましていたことは知っていたが、どこで何をしているのかは聞かされてなかったので、レイヴンは心配していた。
俺やデュークは黙っていたからな、ハピネスにも都合があるんだろうと言って、はぐらかしていたし。
「……本当にここにハピネスがいるのか?」
「いるっすよ。この森にね」
「……着いてこいと言われたので来たが。何故、こんな森の中に一人で一月も……危険じゃないのか」
「大丈夫っすよ、ハピネスにとってここは俺たちとの思いでの場所なんすから。……良い意味でも悪い意味でもっすけど」
デュークの意味深な発言に疑問を持ったレイヴンだったが、ハピネスの安否が心配で直ぐに思考を止めてしまった。
森の中腹くらいまで入った所ぐらいで、デュークの足が止まる。
「ここからはレイヴン一人で行くっすよ」
「……何?」
「ま、事情があるんすよ。……俺は森の入り口で待ってるっすから」
「おい、待て、デューク!」
説明もあまりせずに立ち去ろうとするデュークを止めようとしたレイヴン。
しかし、デュークは一度も振り向かずに去っていったらしい。
言いたいことはあったと思うが……あえて何も言わなかったのかもしれない。
レイヴンも無理矢理ひき止めようとはせず、森の奥へと歩き続けた。
「……何か聞こえるな。これは……ハピネスの歌声?」
歌に誘われるかのようにレイヴンは歩いた。
開けた場所に出た所でレイヴンは足を止める。
歌声が急に聞こえなくなったからだ。
「……ハピネス、いるのか」
周りを見渡したレイヴンだが、ハピネスはいない。
しかし、声だけは聞こえてくる。
「……うん」
「……何故、姿を隠す」
ハピネスが隠れている巨木を見つめるレイヴン。
声が聞こえた場所から推定して居場所をつかんだらしい。
「……感謝」
「……俺は何かしただろうか」
「……来訪」
「……ふ」
いつものハピネスだと思ったレイヴンは安心したのか、軽く笑ってしまったそうだ。
自分のペースを乱さない、想い人のイタズラだと考えたことだろう。
「……ここは、わたしの、始まりの、場所」
「……始まり?」
「うん。ここで、わたしは……」
突如、言葉に詰まったハピネス。
声が途切れたことによって心配したレイヴンは、巨木の後ろに隠れているハピネスに駆け寄る。
「……っ、だめ!」
ハピネスの強い制止の言葉を聞いたレイヴンは驚き、立ち止まる。
そして、小さく息を吐くと巨木を背にして座り込んだ。
「……悪かった。続けてくれ」
「……謝罪」
「いいんだ。ハピネスの話を聞きたい」
「……うん。それで、ここは、わたしの、終わりの、場所でもある」
事情を知っている俺からしたら、ハピネスはデュークがいなければハンターに捕まっていただろうからな。
たぶん、その時点でハピネスは別の未来を迎えていただろう。
「……思いでの場所、か。それを俺に伝えたかったのか?」
「……否定」
「……じゃあ、何を」
「……レイヴン、会えて、良かった」
いきなりの名前呼び、そして自分と会えたことに喜びを感じているという発言。
レイヴンはまあ、顔が一気に赤くなったようだ。
「……一緒に、過ごすの、楽しい」
「……おい、ハピネス?」
「……出来れば、ずっと、一緒に」
「俺も……」
照れつつもレイヴンが自分の想いを口しようとすると、目の前にはハピネスの姿があった
しかし、そこにいたのは羽根を生やした、ハーピーとしてのハピネス。
「……怖、かった」
ハピネスはうつむきながら、絞り出すように言葉を発した。
「……偽りの、まま、じゃって。でも、終わりに、なったら、って、思うと」
泣き出してしまいそうなハピネスをレイヴンはそっと抱き締めた。
「……すまない」
レイヴンの謝罪の言葉を聞き、ハピネスはダメだったと、とらえたらしい。
目を閉じて、終わりを迎える覚悟も決めたとか。
「俺が気づいてやれば、ハピネスがこんなに悩んで、苦しまなくて済んだのかもしれん」
「……レイヴン?」
「……気づいてやれなくて、すまなかった」
「……拒絶、しない?」
ハピネスの震えた声での発言。
不安を感じ取ったレイヴンは一切の迷いなく、自分の気持ちをぶつけることにしたそうな。
「……しないさ。俺はハピネスが好きだからな。これじゃ理由にならないか」
「……あ、わたし、も、好き」
「……なら、大丈夫だな」
そのまま二人の世界は続き、時間を忘れるくらい抱き合っていたとか。
「……って、何で俺がお前らの告白シーンをきれいにまとめて回想してんだよおぉぉぉぉ!」
俺は椅子から立ち上がり吠えた。
甘い、甘い、甘すぎる、こいつら一体何なの!?
時間忘れるくらい抱き合っているとか、待たせてるデュークの身にもなれよ。
カップル成立な二人は仲良くベッドの上に座っている。
顔はもちろん真っ赤、そりゃ恥ずかしくて赤面するだろうよ。
「……まあ、ヨウキにとっても他人事ではないだろうから、聞いてもらおうと」
「いや、完全に他人事だわ」
「……ハピネスが、な」
「やっぱり、犯人はお前か!」
視線を向けるとまだ赤面しているくせに笑っていやがる。
「……成功」
「くそっ……だが、レイヴン。二人にとって大事な思い出だろ。こんな形で俺に話して良かったのかよ」
「……あ、実はな」
「……真実」
「ん、真実?」
「……嘘」
「おい、こら待て。じゃあ、今、俺がまとめた回想は所々」
「……秘密」
「お前らなぁ、全く」
鋭いツッコミは伏せておこう。
こんなこと言っているが、おそらく、嘘はない。
確証はないけど、まあ、二人の反応見ていたらな。
「つーか、なんで、そこで俺を襲撃することになったんだよ」
「帰る時に羽根を抜くハピネスを見ていたら……な」
しくしく、隊長、無理矢理と言い放ったようだ。
「それで俺に一発って約束をしたのかーって、アホ! そんな雰囲気の中で何故ボケに走ったハピネス」
「……日頃の、恨み」
「お前、俺に恨み持ってんの!? そもそも、出来たばかりの彼氏を恨み処理に使うなや」
「……まあ、セシリアにも叱られていたということだしな。約束通り、一発もらってくれたからな」
あれを一発とカウントして良いものかね。
わざわざ、自分が不利になるような発言はしないが。
「……手」
「……ああ」
小さくハイタッチをする二人。
……なんだろう、ここからイチャイチャが始まる気がする。
ガイとティールちゃんがいた時を思い出すな。
しかし、あの二人と違うのはこいつらはまだまだということ。
人のことを言えた身ではないが、ガイとティールちゃんに比べたらな。
物足りない訳ではないが……よし、ちょっとサービスしてやろう。
「そらよっと」
俺は二人と軽く押して仲良くベッドへ寝転ぶ形にした。
突然押されたため、大した抵抗もなく、第一ステップ終了。
次は《セイントチェーン》を発動し光の鎖で二人まとめてがんじがらめにした。
「おい、ヨウキ! なんのつもりだ」
「……解除」
「いやあ、俺からの気遣いみたいなもんかな。二人でごゆっくり~」
俺は部屋から出ていく直前、仕上げに《ブライトイート》を発動した。
今は昼間、窓のカーテンを閉めていても多少部屋の中は明るい。
しかし、《ブライトイート》により微かな光りもなくなり、部屋の中は真っ暗になった。
《セイントチェーン》で完全密着、《ブライトイート》で真っ暗。
恋人になったのだし、レイヴンもハピネスも積もる話が沢山あるだろう。
お互いの存在を感じながら、更なる交流を深めれば良いと思う。
「とりあえず、二人とも……良かったな。おめでとう!」
俺は祝いの言葉を残して、部屋の扉を閉めた。




