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元部下を見送ってみた

「どうなっても後悔はしないか?」



「……うん」



「わかった」



「ちょっ、隊長!? 簡単に考えすぎじゃないっすか」



デュークは俺があっさりと了承したことに疑問を持ったらしい。

何を言うか、ハピネスがこう決断したなら止める余地などないだろうに。



「無理に休みを取って屋敷を離れたんだ。その時点ですでに覚悟は決めている……だろ?」



俺の問いにハピネスは頷く。

こうなった以上、何を言っても無駄だろう。

俺よりも気配りできるデュークだ、それくらいは気づいている。

止めはしない、ただ、最終通告をするようなものだ。



「そうっすか。……ハピネスもこどもじゃないし。……それでも、言わせて欲しいっす。もし、レイヴンが受け止められなかったら……全部失うことになるっすよ。屋敷で働くことも仲良くなった人とも……勿論、レイヴンとも会えなくなるっす」



「……知ってる」



「んでもって、隊長や俺たちとの関係も調査することになるっすね。そうなったら……」



「……迷惑、かけない」



「デューク、それは……」



俺たちがそういった目で見られることを言うべきか。

それくらい、俺は良いと思っているぞ。

だって、俺たちの仲じゃないか。



「隊長、そんな目で見ないで欲しいっすよ。……俺が自分の保身に走るような男に見えるっすか」



「……否!」



力強く否定したのがハピネス。

おいおい、この構図だとまるで俺が悪者みたいではないか。

俺は娘の巣立ちみたいなものだと考えているわけだ。



重要なことだと理解している、ハピネスの行動によって周りがどう変化するかもな。

まあ、別にデュークは止めろと言いたいわけじゃない。



レイヴンがハピネスに惚れて、ハピネスもレイヴンに好意を抱きだしたとわかった時、正体についての話が出るとは思っていた。

それが今になったということだ。

遅かれ早かれという話である。



「わかった、わかったから。話を戻せ、話を」



「そうっすね。俺が言いたいのはハピネスがしようとしていることは思ってる以上に周りに影響を及ぼすってことっす。迷惑とかそういったレベルじゃないんすよ」



「……うん。でも、私は」



「ま、こんなこと賢いハピネスならわかっているっすよね」



「おいおい、今までの話はなんだったんだよ!」



「いや、普通に送り出すのは忍びなかっただけっす。……で、ハピネス、どういった結果になろうと俺たちのことは考えなくて良いんすよ。長年、苦楽を共にした家族のようなもんなんすから。隊長になんて迷惑かけられっぱだったじゃないっすか、気にすることないっす」



「おい、こら」



その辺は持ちつ持たれつという言葉を使え。

俺だけが情けないみたいな印象になるだろうが。



「……あ、うぅぅ」



「はいはい。泣かなくて良いっすからね。涙は取っておいた方が良いっすよ」



泣きつくハピネスの頭を撫でて励ますデューク。

俺、何もしてない。

この空気感はなんなのだろうか。

とりあえず、ハピネスを見送ることは確定したな。



仲間外れは可哀想だし、ハピネスが泣き止むのも時間がかかるだろうから、あいつを連れてこよう。

俺は姿を消し、肉体強化して猛ダッシュ。

ターゲットを誘拐犯の如く鮮やかに捕獲し、元の場所へと戻った。



「ほら、お姉ちゃんに挨拶しろ」



「う~。いきなり、どうしたの~?」



連れてきたのはシークだ。

こいつだけいないのはちょっとな。

こういう時は全員で見送ってやるのが良いだろう。

ハピネスも泣き止んでいるし、ちょうど良い。



「あ、シーク連れてきたっすか」



「ああ、まあな」



「……シーク」



「どういうことなの~」



シークは何も知らないようだ。

もしかしたらハピネスは故意にシークを呼ばなかったのか。

万が一ハピネスが告白失敗して消えたりしたら、幼いシークはかなりのショックを受ける。

……余計なことをしたかもしれない。



「シーク、ハピネスは今、今後を左右する重大なことしようとしているっす。だから、皆で応援することになったっすよ」



「そうなんだ。ハピネス姉、頑張って~。僕も頑張って応援するから~」



「……感謝」



上手い具合にデュークがまとめてくれた。

本当に俺、何もしてないな。

隊長なのに、残念すぎる。



「うーむ。デュークに頼りっきりだな。すまんな、ハピネス。やっぱり、俺にはこうやって、見送ってやるくらいしかできん」



「……甲斐性なし」



「ぐふっ!?」



「……嘘、隊長、ありがと」



「何……ハピネスが、俺にデレただと?」



これは由々しき事態だな。

俺は即座にハピネスのおでこに手を当てて、熱がないか確かめる。

……よし、熱はないらしい、良かった。



「……不快」



俺が安心しているとおでこに当てていた手を弾かれた、いつものハピネスだ。



「隊長、デリカシーゼロっすね」



「バ~カ」



「言いたい放題だな、お前ら!」



今のは俺が悪いが納得いかないので二人を追いかける俺。

罵詈雑言を言いつつ、逃げ回るデュークとシーク。

そんな様子を見て静かに笑うハピネス。

俺たち四人の変わってしまうかもしれない、もしくは最後になるかもしれない……日常を過ごした。



感謝の言葉を残し、ハピネスは去っていった。

森へと向かったのだ、一ヶ月も何をするのかといったら、本来の姿に戻るための準備期間だろう。

レイヴンにはデュークが上手く言ってくれることになった。



セシリアは……ハピネスが急に休みを取ったことしか知らなかったらしい。

事情を話したが、特に止めるようなことはしなかった。

セシリアも遅かれ早かれといった考えだったらしい。



こうなってしまえばあとは二人の問題だ。

レイヴンなら大丈夫、しかし、確実ではない。

モヤモヤとしながら、一ヶ月を過ごした。



「そろそろ、一ヶ月経ったはずだ。予定通りならもう、ハピネスとレイヴンは直接会って話をする頃か……」



俺は部屋のベッドの上に寝転び考える。

もしくはもう、話した直後かもしれない。



「いくらハピネスが心配とはいえ、現場に同行はしないよな……」



ハピネスのことは心配だ。

しかし、見守るのはハピネス自身が望まないだろうということで、デュークと話し合い止めた。

レイヴンの様子を見て対応することになっている。



レイヴンもパニックになることは避けるはずだ。

もし、万が一、ハピネスを受け入れず、俺たちの正体がばれたとしたら人気のない所に呼び出して秘密裏に……といった行動をとるだろう。



「そんなことにはならないで欲しいけどな……はぁ」



考えうる最悪のケースを想像し、俺はため息をつく。

部屋にいてもそわそわするだけだな。



「気分転換に外に散歩でも行くかな」



ベッドから起き上がり身支度をする。



「……ん?」



何かしらのプレッシャー、とてつもない殺気を感じるような。

俺はどこぞの達人でもないので、そういうものは感じないのだが。

とりあえず、大きな力を持った存在が近づいて来ている気がしてならない。



「まさか……な」



俺は部屋の扉を開ける。

そこにはレイヴンがいた。

騎士団長、その名に相応しい気迫をまとわせている。



「……話がある」



「そうか、わかった」



俺は黙ってレイヴンに着いていく。

想像したくなかった、万が一のことが起こってしまったのだろう。

色々な感情が渦巻く中、俺は覚悟を決めた。



案内されたのミネルバから離れた場所にある森の中。

移動距離は中々だったが、俺たちの間に会話はなかった。

親しく会話することはおそらくもう……。



森の奥深くまで来た所でようやくレイヴンが立ち止まる。

どうやら目的地に着いたようだ。



「こんな人気のない所に来たってことは……ただの話じゃなさそうだな」



「……ヨウキ、俺はお前を斬らないとならない」



「いきなり直球だな、おい」



鞘から剣を抜いて、俺に向けるレイヴン。

どうやら本気らしい、目がマジだ。

これは完全にハピネスは失敗したと見て良いな。

魔王城で会った時とは別人のような気迫を感じるぞ。



「お前ならって思っていたんだけどな、がっかりだ」



「……それは俺の台詞だ」



「そうか」



口で語るよりもこっちで語るべきだな。

《ストームブロウ》、《瞬雷》を発動して戦闘体勢に入る。

とりあえず、戦闘不能にさせてハピネスの安否を確かめないと。



「……いくぞ。ハピネスの羽をむしったんだ。覚悟しろ」



「……は?」



俺の間抜けな声を皮切りに戦闘が開始された。

なんか、思っていた理由と違うみたいなんだが……。

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