デートをしてみた
今日はセリアさんに急に呼ばれ、アクアレイン家の屋敷に来ている。
……実は屋敷に来るまでに、靴紐が切れたり、黒猫の獣人が前を通るなど不吉なことが起きている。
「嫌な予感かも……。どうしよう?」
とは言うものの、呼ばれて来たからには後に引けないので屋敷に入った。
「……案内」
新人のメイドになったハピネスに案内され、セリアさんの部屋に行った。
「……ごゆっくり」
綺麗なお辞儀をして去って行くハピネス。
なかなか、様になっているなぁ。
さすが、ソフィアさん直々に連れられていっただけある。
ハピネスはこういう仕事に向いていたのか。
ま、今は関係ないな。ノックをして部屋に入った。
「あら、来てくれたのね。そこにかけてちょうだい」
笑顔で迎えてくれるセリアさん。
いつも自分が使っているのであろう、椅子に座って部屋に入ってきた俺を見ている。
別に何か企んでいる様な雰囲気はない。
悪い知らせとかではなさそうだ。
言われた通り来客用であろうソファーに座る。
「今日は何の用事ですか?」
今日は不吉なことが立て続けでおこっているので、良い話でありますようにと祈る。
「実は、セシリアの骨休みに付き合ってあげてほしいのよ」
「骨休み?」
多分良い話だろう。
期待に胸を膨らませて、詳しく聞いてみる。
「最近、婚約の話やら、パーティーやらが続いてて疲れが溜まっているようなの。だから、今日一日休みを取らせたわ」
どうやら、娘の身を考え、無理やり休みをとらせたらしい。
まあ、確かに最近会いにきても疲労が溜まっているようだった気がする。
「まったく、いらない婚約話やパーティーが多過ぎるのよ。セシリアも真面目な性格だから無下に追い返したりしないのよねぇ」
確かにセシリアの性格上そうするだろうな。
だから、休みを取らせたのか。
「俺は何をすればいいんですか?」
「せっかくの休みだし、セシリアも女の子だから、買い物とか行きたいと思うの。でも、一人じゃかわいそうでしょう?だから、一緒に行ってきて貰えるかしら」
つまり、親公認のデートですね。
これは願ってもないチャンスだ。
セリアさん公認なのだから、誰にもとやかく言われる筋合いのない、デートである。
「はい、わかりました。行かせていただきます」
こんなラッキーな日はあるだろうか。
もしかしたら、今日の不吉な予感は気のせいだったのかもしれない。
靴紐は古くなっていて、獣人も偶然ということだろう。
そうとしか思えない。
「ヨウキくんなら良い返事をしてくれると思っていたわ。実はセシリアをもう表の馬車に待機させているの。ヨウキくん待ちだから早く行ってあげて」
俺は失礼しますと頭を下げて部屋を出た。
セリアさんから頑張ってねと言われた。
言われなくても好きな子とデートができるのだ。
頑張らないわけがない。
急いで、セシリアの元へ向かう。
「ヨウキさん。やっと来ましたか」
セシリアは深く麦藁帽子をかぶって、眼鏡をかけている格好だった。
いつもと格好が違うセシリアもいいかもしれない。
「ごめん、待ったかな?」
一度言ってみたかったこの台詞を言ってみた。
前世で一度も言う機会がなかった言葉である。
「いえ、大丈夫ですよ。ヨウキさんならすぐ来ると思ってましたから。さあ、早く乗ってください。出発しますよ?」
俺が乗ると馬車は町の方面へ出発した。
……やばい、馬車の中はセシリアと二人きりだ。
二回目だが、デートだと思うと緊張するな。
「……顔赤いですよ、大丈夫ですか?」
セシリアが俺の顔を覗き込む……って近い近い!
さらに顔を赤くしてしまった俺は一旦、セシリアから離れる。
……くそう、こういうことに対して免疫がない。
とりあえず、何でもないと伝える。
「……ならいいのですが。具合が悪いなら、すぐに言ってくださいね。あと、これ、ヨウキさんの分です」
渡されたのは、帽子とサングラス。
何故こんなものを?
「変装のためにつけてください。念のためにです」
なるほど、だから深い麦藁帽子に眼鏡か。
勇者パーティーの一人が町で買い物なんてしてたらパニックになること間違いなしだからな。
でも、何で俺も?
「俺は別にいいんじゃないか?別に有名でもないんだし」
「もし、私の変装がばれたら、一緒にいるヨウキさんにいらぬ被害がでるかもしれないからですよ」
俺に危険が及ぶかもしれないと。
なるほど、男の嫉妬は怖いからな。
まあ、セシリアは女性からもすごい支持をもらっているらしいが。
「わかった。……今日は良い休みになるよう、協力するよ」
初めてのデートなので、説得力が皆無だが一応、男として言っておいた方がいいだろう。
「クスクス、期待してますよ?」
俺を見て微笑むセシリア。
そんなことされたら、頑張るしかないな。
絶対にこのデートを成功させてみせる。
そう決意して、セシリアからもらった変装グッズを身につける。
サングラスをかけて、帽子を被ると案外雰囲気が変わったのには驚いた。
「では、行きましょうか」
馬車から降りて、人混みに紛れた。
通行人がセシリアのことをチラ見してくるが、綺麗な人と思う程度だ。
ばれていない。
俺にはなんであんな奴があんな綺麗な子と、と言われているが気にしない。
初めてのデートを楽しむようにした。
デートの定番がわからないので、とにかく服屋に行くことを勧めたら、了承してくれた。
服屋に着き二人で入ると女性客が多いようだ。
男性客もちらほらいるようだが、ほとんどカップルだな。
「これはどうですか?」
服を体の前にあて、似合うかどうか聞いてくるセシリア。
久々の買い物ではしゃいでいるようで、笑顔で聞いてくる。
正直どう答えればわからないので、何着か選んでもらい、一番似合うと思う服を勧めた。
「じゃあ、これにしますね。ヨウキさんも買いましょう」
セシリアの買う服が決まり、今度は俺が買う服を決める。
これも、俺が何着か選び、セシリアが決めるといった形で買った。
「いい買い物をしました。今日は楽しいですね。最近疲れが溜まり気味だったので、良い休みになりそうです」
「そう言ってもらえると俺も助かるよ」
まだデートの序盤だ。
時間もあるし、行ける場所はたくさんある。
もっと楽しませることができれば、セシリアの笑顔をたくさん見ることが出来るかもしれない。
俺の好感度も上がるだろう。
お互いに笑顔で服屋をあとにした。
今日は良い一日になると俺もセシリアも思っていただろう。
……この時までは。
事件が起こったのは次に行った場所だ。
服屋の近くにあったアクセサリー店だ。
女性はアクセサリーの類が好きだろうと思うので入ろうと誘う。
「セシリア、ここに入ろう」
セシリアに似合う物があるかもしれない。
ここで時間を使い、食事をする、完璧だろう。
初デートの分際で何を言うと言われるかもしれないが、セシリアが楽しんでくれればいいのだ。
別に捻りなど必要ない。
「アクセサリー店……ですか。いいですよ」
セシリアの了承を得て店に入ろうとしたら、不意に声をかけられた。
「あれ、もしかして。セシリア!?」
振り向くとそこには、同じく、帽子と眼鏡で変装している勇者くんとビッチ魔法使いがいた。
今日の不吉な予感はこれか……。