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封印を解いてみた

「ところで、ハピネスとレイヴン。どっちから合流しようか?」



今は俺の嗅覚を利用して、二人を追跡しているわけだが。

どっちと先に合流した方が後々のことを考えると良いのか。



「あ、あの。隊長さんは二人がどこにいるのかわかるんでしょうか」



「イレーネ、ここにさっき買った飴があるっす」



「あ、頂きます。あれ、なんか誤魔化されているような……」



「イレーネさん、どうぞ、屋敷で焼いてきたクッキーです」



「あわわ……セシリア様自ら焼いたクッキーだなんて、食べて良いのでしょうか」



二人がかりでイレーネさんを止めに入り、事態の悪化、というか俺の正体隠しに取り組んでいるのはありがたい。

しかし、これでは相談出来ないな。



つまり、どうするかは俺の自己判断になるというわけだ。

いつもの俺なら厨二で滑走だが、今日は違うぞ。



「二手に別れよう。ハピネスはこの路地を真っ直ぐ行けば追い付くはずだ。レイヴンはもう少し、遠い位置にいるから。ハピネスを止めて、レイヴンを追うぞ」



「了解っす」



「わかりました」



「え、えっと。わ、わかりました」



一人、状況が全くわかっていない人がいるが説明している時間が惜しい。

イレーネさん、何となくでいいから着いてきてくれ。



「よし、ここは同性が好ましいと思う。セシリアとイレーネさんはハピネス。俺とデュークでレイヴンを追うぞ」



三人とも異存はないようで、首を縦に振ってくれた。

イレーネさんは完全にのりで、振っていたように見えたけど。

まあ、細かいことは気にしない。

俺とデュークはレイヴンを追うため、横道に入った。



「隊長!」



「なんだ」



「イレーネとハピネスをセシリアさん、一人に任せて大丈夫っすかね?」



「……大丈夫だろう」



なんたってこの俺を操縦することができるセシリアだ。

ハピネスとイレーネさんくらい、余裕余裕。



「なんか、釈然としない根拠を持っていそうっす」



デュークにもお見通しか、長い付き合いだし、仕方ないかもしれない。



「んー、でも、信頼しているからな。セシリアならやれるって。根拠は……言わなくても分かってるんだろ」



「あー、はいはい。ごちそうさまっす。野暮なこと聞いて済まなかったっすね」



「いや、そんなつもりで言ったわけじゃないんだが……」



「ほら、早くレイヴンに追い付くっすよ」



デュークに冷たくあしらわれつつ、レイヴンのいる場所まで急いだ。

走っていて気づいたのだが、レイヴンのやつ、人混みを避けて人気のない場所を目指しているみたいだ。



「レイヴンはどこに向かっているんだ。このまま、町のはずれにでも行くつもりかよ」



「一人になれる場所を探しているんじゃないっすかね」



「大分、思い詰めているんだな……」



そこまでレイヴンを追い詰めた原因はなんだ。

海での一件だけじゃない、何かがあると思うけど。



「うーん、見た感じ、今日は普通のテンションだと思ったっすよ。だから、別れて行動することになった時、何も言わなかったっす」



「そうか……いや、待て」



そういえば、移動中、レイヴンと話したな。

俺とセシリアはもう付き合っているんじゃないかと聞かれて、俺は

確か……。



「……なんか、心当たりがあるっすか」



「ああ、もしかしたらだけどな。レイヴン、俺とセシリアの関係について、気にしてたんだよ。もう、付き合っているんじゃないかってさ」



「うわあ……なんか、今のレイヴンの精神状態なら、あらぬ方向に勘違いしそうっす」



あの時は納得していたけど、セシリアをかばった時かな、爆発したきっかけは。

デュークとイレーネさんのことも見ていたし、自分は自分はと思っているのかもしれない。



「……会いに行っても逆効果な気がしてきた」



「放置はもっとダメっす。やらないで後悔するよりも、やってから後悔する方が良いっていうじゃないっすか」



「……その言葉の使い道は今の状況に合っているのか」



走りながらの会話なのに、中々冷静に分析出来ていると思う。

まあ、こんなやり取りをしている内にレイヴンと遭遇した。

俺たちの顔を見て、ものすごくばつが悪そうな顔をしている。



「はい、鬼ごっこは終了っす」



「……追ってきたのか」



「そりゃ、そうだろ」



あんな別れ方されて、次のスポットに行こうとはならないな。



「さて、話を聞いてから戻るっすよ。まだまだ、今日の予定は消化してないんすから」



「……こんなざまの俺が戻ってどうなるんだ。何も言わずに走り去ったんだぞ」



「それはレイヴンの都合でやったことじゃないすか。そこまでは俺も隊長も責任とれないっすよ。ただ、このまま逃げてどうするっすか、明日は、明後日は? 後のことを考えずに行動する、実に愚かっすね」



デュークが長々と淡々淡々に説教するのは本気で怒っているか、相手を正気に戻したい時だ。

一旦、デュークに任せてみよう。



傍観していると、レイヴンはデュークの言葉が効いたのか、目を逸らし始めた。

その行動をデュークは見逃さない。



「何で俺から目を逸らすっすか。後ろめたいことでもあったすか。ああ、今、話していたっすね。……ハピネスは俺からしたら妹みたいなもんなんすよ。最初会った時はへたれてたけど、ハピネスが幸せになれるならありかなと思ったのに、がっかりっすよ」



レイヴンが言い返さないからとはいえ、言いたい放題だな。

まあ、俺もヘタレな所が見え隠れしているから、他人事ではないのだが。



「大体、逃げ去るってなんすか。まさか、隊長とセシリアさんがイチャイチャしていて、自分はって思ったからとかが理由じゃないっすよね。そんなもん、ただの嫉妬じゃないすか。悔しいなら自分も頑張ろうって思わないすか、一皮むけようとも考えないすか。それぐらいのことしてもらわないと、今まで、レイヴンを信じてサポートしてきた俺が馬鹿みたいじゃないっすか」



確かに、ここで終わってしまっては支えてきた人たちの頑張りも無駄になる。

デュークはレイヴンもハピネスのことも親身になって、色々と苦労をしていたからな。

……俺も苦労をかけた一人に入るけど。



「……ここまで言ってもだんまり。なら、仕方ないっすね。隊長、後は任せたっす」



「ちょっ、ここで交代かよ!?」



言うだけ言ってスッキリしたから、帰る。

そんな感じでデュークは来た道を戻ろうとしているのだ……レイヴンを丸投げして。



「俺が言うべきことはもう終わったっすよ。……いつものケーキ屋で三人と待っているっすから」



デュークはそう言い残し、去っていった。

残されたのは俺とレイヴン。

この状況、後は俺に託した、そう考えて良いのだろうかデュークよ。



「……とりあえず、座ろうぜ」



ここは薄暗い路地裏だ、放置されている物がたくさんある。

その辺にあった木材に腰を下ろすと、続いてレイヴンも座り込んだ。

そして、沈黙が場を支配する。

座ったのは心の整理をさせるため、終わればレイヴンから口を開き始めるはずだ。



「……ふう、あんな風に叱られたのいつぶりだろうな」



「意外と日常茶飯事じゃないのか?」



「……違いないな」



少しだけ、笑ったレイヴンを見てなんとなく安心した。



「なあ、レイヴンはどうしたいんだ」



「情けない話だが……」



「わからないは無しだからな」



もう、確実な答えしか求めていない。

あやふやなままではこのままずっとあやふやなままだ。

区切りをつけるなら、つけた方が良い。



今日がいつものように騒いで終わるようなトリプルデートなら良かった。

ただ、こんな風になってしまった以上、何かしらの答えを見つけないと……駄目だ。

お節介かもしれないがな。



「……わかっているんだ、このままじゃいられないことくらい。海での依頼、覚えているだろう」



「ああ、忘れないさ」



あの容赦のない右ストレートは忘れろと言われても中々、難しいぞ。

他にも諸々、予定外のことが起きた依頼だったからな。



「……秘密があると、言っていた」



「は!?」



「俺に、隠していることがあるということだろう」



ハピネスのやつ、自分の正体ばらそうとしていたのか。

しかし、いつ、そんな話をしたのか、全くわからんぞ。



「……まあ、その他にも忘れられない思い出があるが、それは、俺とハピネスだけの思い出にさせてくれ」



「お、おう」



絶対に俺が強制退場させられたあの瞬間だな。

レイヴンも話す気がない、というか知られたくないみたいだ。

うーむ、ここは追及せずに二人だけの思い出にさせてやろう。



「……それで、秘密についてだ。ハピネスは普段、感情を表情に出さないだろう。その時のハピネスは……怯えた表情をしていた気がするんだ。おそらく、重大なことに違いない」



「まあ、そう推測出来るな」



「俺は彼女の話を受け止められるか、不安なんだ。……いや、今の様では話してすらもらえないかもしれん」



「何が言いたいんだよ」



「……っ、俺は……ヨウキがセシリアと普通に接して、仲良く話している姿を見て嫉妬していた。デュークの言う通りだ。俺はこんなに悩んで、苦しんで……騎士失格だ。好きになった女性の全てを受け止める勇気がないだけでなく、友人と仲間の恋に素直に喜べない」



落ち着かせるために座ったつもりが、とんでもない展開になってきた。

まさか、レイヴンがここまで病んでいたとは思わなかったぞ。

心なしか、この路地の薄暗さが増した気がする。



レイヴンは再び沈黙し、俺の言葉を待っているようだった。

罵声や侮蔑の言葉が来ると身構えているように見える。

そんなレイヴンに俺は優しい言葉を……。



「かけるわけねぇだろ!!」



俺の中の何かが弾ける。

今日は普通に、平凡で、何処にでもいそうな、片思い中の青年でいたかったのに!



「ふっ、嫉妬など誰もが持っているものだ。悲観するものではない。むしろ、貴様は好きな相手が異性とイチャイチャしている姿を見て何も思わないというのか!」



「そんなわけ……」



「ないだろう!? どうでも良い相手なら、何も思わん。つまり、その程度のものだったということだ。どうだ、レイヴン。お前のハピネスに対する想いはその程度のものなのか」



「……違う」



「そうだろう。だったら、そのまま正直な気持ちで向かい合えば良いだけだ。勇気がないなら、背中くらいは押すぞ。俺を誰だと思っている。嫉妬されるのではなく、どちらかと言えば俺はする側だ!」



リア充に囲まれて、生活をしている俺をなめるなよ。

ここで、久々の決めポーズ。

封印を解いたんだ、立ち直るまで付き合ってもらうぞ、レイヴン。

俺の厨二スイッチはオンになったばかりだからな。

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