反省会をしてみた
レイヴンが走り去ってしまい、全員が呆然としてしまったわけだが……今日はそのままでいるような面子ではない。
まずは場所を移動し、今日のスケジュール管理がどうだったのかについて話し合うことにした。
イレーネさんにハピネスを任せて、セシリアとデューク、俺で円陣を組んで反省会だ。
「そもそも、今日は何かがおかしかったと思う」
セシリアとデュークの行動がいつもより不自然だった。
そこから、反省すべきではないかと。
「何言ってんすか。俺はただ、隊長を警戒していただけっす」
「すみません、私もです」
「なんで、俺に警戒心抱いてんの!?」
今日は俺、頑張って厨二封印して普通の恋する青年だったはずだぞ。
別に集まってから変な行動もしていないし。
「イレーネと集合前に遭遇したっすよね。やたらと興奮気味に隊長さん、すごいです。なんか、よくわからなかったですけど、カッコいい感じです。さすが、デュークさんが隊長と呼ぶお方です……って言われたんす。これは、今日、隊長やばいなと」
「それで私がヨウキさんを止める役を……」
「えー……?」
この状況になったのは俺のせいなのか。
二人が警戒しているけど、俺は厨二を封印していた。
結果的にセシリアは俺と常に行動、デュークは俺とイレーネさんに注意を向けすぎて、レイヴンの方がおろそかに……。
「うーん、イレーネのおっちょこちょいをすっかり頭に入れてなかったっす。隊長の日頃の行いが招いたっすね」
「いやいや、だから、なんで俺のせいなんだよ!」
「とりあえず、落ち着きましょう!」
「はい、ごめんなさい」
「わかったっす」
俺とデュークで言い合っていたが、セシリアが止めてくれたおかげで冷静になれたな。
ここで争っていても仕方ないし、何も解決しない。
「ヨウキさんを勝手に疑ったのが、今、この状況を生んでいる要因の一つだということに変わりありません。ヨウキさん、すみませんでした」
セシリアに頭を下げられる俺。
そこまで気にしていないし……俺は楽しかったからな、セシリアと二人きり。
「隊長、顔にやけてるっす!」
「おっと。……いや、謝る必要はないさ。それよりも問題はレイヴンだろう」
「そうっすね。逃亡中のレイヴンを捕まえないと」
「ああ。草の根わけてでも見つけてやる!」
「レイヴンさんが犯罪者のようです……」
優しいセシリアは庇っているが、好きな子を置いて逃走など言語道断。
ハピネスだって置いてかれて、ダメージを受けているはず。
しかし、ハピネスのいる方向を見ると、そこにはイレーネさんと仲良くクレープを食べている姿が。
普通にクレープ食べて、美味しいみたいな表情してるぞ。
レイヴンよりクレープなのか、ハピネスよ。
「まあ、よくわからない逃走をしたんじゃ、こんな扱い受けるのも仕方ないっす。隊長、レイヴンはどこにいそうっすか?」
「俺は犬かっつーの。……まだ、近くにいるな。そう遠くにはいってない」
嗅覚強化で探ると、走れば追い付けそうな感じだった。
しかし、これではまるで、警察犬……いつも人探しているから今更だが。
「さすが、ヨウキさんですね。早速、追いかけましょう」
「ああ、今後も人探しは任せてくれ」
誉められるのは嫌いじゃない、それに俺の数少ない特技でもあるからな。
別にセシリアに誉められて天狗になっているわけではない。
「なーんか、嬉しそうな顔っすね」
「あ、当たり前だろ。レイヴンが見つかったんだ。さあ、捕獲だ、捕獲」
「……まあ、いいっす。よし、拘束するための準備もできたっすよ」
どこから取り出したのか、丈夫そうな縄、南京錠つきの鎖を持ってデュークはいつでもいけるっすと意気込んでいる。
レイヴンの犯罪者扱いが止まらないな。
「だが、そういうのりは好きだぞ、デューク。協力してレイヴン捕獲作戦開始だ!」
「了解っす」
「……結局、こんな感じになるんですね」
やれやれと項垂れるセシリア。
もう、何かを諦めた表情をしている。
だんだん、セシリアもこういうハプニングに慣れてきたなと思う。
「全てはレイヴン、そして、ハピネスのためだから。はい、セシリアの分の縄」
「いりません!」
「じゃあ、首輪はどうすか」
「けっこうです!」
俺もデュークも断られてしまった。
まあ、セシリアがレイヴンを縄で縛ったり、首輪つけて引っ張り回す姿はちょっと……見てみたいような気も……。
「ヨウキさん、変なこと、考えてませんよね」
「はい、考えてません!」
無の表情で背筋が凍るような冷たい声色を発するセシリアに俺はただ、ただ、首を縦に振ることしかできなかった。
……セシリアは俺以上に鋭い感覚を持っているのではないかと時々思う。
「さて、レイヴン捕獲作戦っすけど、ハピネスとイレーネは留守番していてもらおうと思ってるっす」
「なるほど。ハピネスにイレーネさんのお守りをしてもらうわけだな」
ほっといたら、何をするかわからない一面があるからな、イレーネさんは。
機転がきいて、周りを警戒する能力もあるハピネスは適任だ。
「違うっすよ。逆っす、逆!」
「逆?」
「ハピネスを見張っててもらうんす。今のレイヴンがどういう状態なのかわからない以上、接触させるのは危険すよ」
「あー、なるほどな」
「その方が良さそうですね」
俺もセシリアもデュークの案に従う方針だ。
……イレーネさん、疑ってすみません、ハピネスをお願いします。
「じゃあ、行くっすよ」
「あ、あの……先に行ってしまったのですが、どうしましょう」
「は?」
「え?」
デュークが号令をかけたと思ったら、いきなりイレーネさんが会話に入ってきたぞ。
しかも、嫌な報せをもってきたようだ。
「まさか、ハピネス、どっかに行ったっすか!?」
「は、はい。クレープ食べながら話していたんですけど、ハピネスさんがクレープを二つ買っていたので、二つも食べるんですかと聞いたら、一緒に、と言って走り去ってしまって……」
一緒、つまりレイヴンの分も買っていたというわけか。
良かったな、レイヴン、そして、ハピネスよ、訂正しよう。
レイヴンよりクレープではなく、レイヴンとクレープなんだな。
「よし、すっきりした!」
「……多分、あまり関係のないことですよね」
「いや、ちょっとは関係ある」
「ちょっとですか……では、この状況で重要なことではなさそうですね。ハピネスちゃんを追いかけましょう」
「セシリアがまさかのスルー!?」
ボケではないが、少しはツッコミ含めたコメントがくると思ったのに。
「ヨウキさん、追跡お願いします。ヨウキさんにしか出来ないことですので。まずは、ハピネスちゃんからですね、合流しないといけませんから……頼りにしています」
「よし、任せてくれ!」
好きな子に頼りにしていると言われて頑張らない男がどこにいるのか。
暴走しない程度に頑張ろう。
「デュークさん、隊長さんて表情が変わりやすいんですね。そういえば、皆さんと集まる前に会った時と口調も違います。これは多重人格というものでは」
「とりあえず、イレーネはクレープ食べながら、大人しく着いてくるっすよ」
「あ、はい。それで隊長さんは……」
「イレーネ、世の中にはあんなに知りたかったのに、いざ知ったら知ったで、どうでも良かったな……と後悔することもあるっすよ」
「そ、そうなんですか! デュークさん、私、勉強になりました」
「よし、良かったっすね」
子どもに面倒な質問をされて上手く受け流す父親のようだ。
まあ、今は俺の厨二スイッチが入っている状態と、普段の俺の話なんてどうでも良いことだからな。
「無駄話は終了だ、行くぞ、こっちだ」
今日はレイヴンとハピネスのために動くと決めていたようなものだし。
空回りしない程度に頑張ってみようか。




