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勇者のお願いを終えてみた

「え、ヨウキくん帰っちゃうの!?」



ショットくんの屋敷での騒動が終わり。

のんびりとミネルバに帰るため、宿部屋で荷造りしているところ。



相変わらずノックをしないという無礼極まりない勇者が入ってきて、俺の様子を見るや否や、開口一番でこれである。



「当たり前だろ。ショットくんの問題はカイウスが解決してくれるだろうし。俺はもう自分の用事は済んでるし、観光も充分したわ」



「ショットくんがどうなるかはいいの!」



「いやぁ。もう、カイウスの誤解も解けたしな。あとは上手くやるだろ」



二百年のキャリアは伊達じゃない。

ショットくん一人の恋愛をどうこうするくらい、そこまで難しくないと思う。



「そ、そうかな」



「お前だって、忙しい身だろ。早く帰ってやることやった方が良いんじゃないのか。休みがあまっててもだ。誰かに常識と話術を学んでこい」



今回でセシリアたちの苦労が身に染みてわかったわ。

こいつ、一回、修道院かどこかにぶちこんだ方が良い。



百歩譲って家庭教師をつけるかだ。

ソフィアさん辺りが適任かもしれない。

本人が了承するかは置いておいて。



「た、確かに、僕が頼まれたのにヨウキくんの指示に従ってただけかも……、」



「ま、まぁ、情報収集はちゃんと出来てたし。そう落ち込むなって」



落ち込むユウガを慰める俺。

背中を優しく叩いていると、こいつは本当に勇者なのかと思えてくる。



俺はこんな常識人で魔族だというのに。

……今、セシリアとデュークからダブルツッコミが飛んできた気がする。



「うぅ、ありがとう。……決めた、僕も明日に帰るよ。利用されそうになったことを反省する」



「いいんじゃないか、空いた時間を有効活用するかどうかは自分次第だけどな」



「うん。僕も荷造りしてくるよ」



来るのも気まぐれ、去るのも気まぐれ。

ユウガは決めたことは直ぐにやるタイプのようだ。

おかげて部屋が静かになったので、作業に集中できる。



「そういえば、グラムさんの所に顔を出してないな」



家の場所を教えてもらったし、せっかくできた縁だ。

ミネルバに帰る前に挨拶してこよう。

荷造りを中断し、教えてもらった道を思いだし家へと向かった。



「ここかな」



町から少し離れた場所にある一軒家。

畑があり、狩もしているのか狩猟道具が立て掛けてある。



馬車で聞いた話ではオリエさんの実家である

商家は息子さんたちが経営しているんだったか。



二人は仲良く気ままに隠居生活を満喫していると、笑顔で語っていた。

まじで、理想の老後だ。



「す、すみませーん」



扉をノックして返事を待つ。

すると、いきなり扉が開きくわを持ったグラムさんが出てきた。



「わ、わしらの可愛い孫は渡さんと……む?」



「あ、あはは」



あまりの迫力に少し仰け反り気味な俺。

苦笑いをする俺にグラムさんは今の状況の把握ができないらしい。



訪ねて、いきなりくわを持った家主に歓迎された俺の方がわからないんだけど。



「グラムったら、訪ねてきた人も確認しないで……あら、ヨウキくんじゃない。ほら、グラム。ヨウキくんが来たわよ」



「おお、ヨウキくんか。すまんのぅ、驚かせたわい。さ、上がってくれ」



「お、お邪魔します」



老夫婦に案内され、俺は家の中へと足を運んだ。

部屋に通され、椅子に座ると先程の行動の理由について聞いてみる。



「あの、なんでくわを?」



「すまなかったのぅ。実は昨日、領主の馬鹿む……まあ、のぅ。わしらの可愛い孫娘をさらおうとする悪い輩が来たんじゃよ」



「そこで止めても遅いです」



「孫娘はちょっと、領主のご子息様と知り合いでねぇ。グラムが一時期、領主様の庭の管理の仕事をしていたことがあって」



「完全に答え言っちゃいましたね」



オリエさんが入れてくれたお茶を飲みながら二人の話を聞く。

ショットくんの気になる子は貴族間の繋がり関係無し。



グラムさんが領主の庭師をしていた時、遊び相手をしていたとか。



「わしはただ、土いじりが好きな孫娘を連れて行ってただけなんじゃ」



グラムさんとしてはショットくんの遊び相手などとは微塵も考えていなかったと。



「孫娘の幸せを考えるとねぇ。私たちは苦労をしたけれど、愛する人と一緒になれたから。孫娘にも愛する人と一緒になって欲しいの。ご子息様が可愛い女の子を囲んでるの、グラムは何回も見ているからねぇ」



かなり致命的に駄目な部分を見られているようだ。

ショットくん、望み薄い感じだけど……大丈夫だろうか。



心配しつつ、グラムさんとオリエさんの孫娘自慢をひとしきり聞き、帰ることした。



「近くに来たら、いつでも来てねぇ。大したおもてなしは出来ないけど」



「は、はい。あの、お気遣いなく……」



「それじゃあ、気をつけて帰るんじゃよ」



最後まで優しい老夫婦に見送られて、俺は宿に戻り荷造りを再開した。



「あっ、お土産……」



荷造りの最中に思い出し、急いで町のお土産屋を走り回ったのも良い思い出だ。

これで安心、あとは明日の乗り合い馬車に乗ってミネルバに帰るだけだ。



「……昨日の夜まではそうだと思っていたのに!」



「え、どうしたの?」



「なんで、平然と俺の隣に座ってんだよ」



俺の隣の席には荷物を抱えたユウガの姿が。



「駄目だった? 荷物なら、僕の隣に空いてるから置くけど」



「そういうことじゃなくて、なんで俺と一緒!?」



こいつ何で俺と同じ乗り合い馬車に乗ってんだ。

勇者だし、専用の馬車とかで来たんじゃねぇのかよ。



「えっと……本当はショットくんに招かれたから、馬車で送り迎えしてもらう予定だったんだけど。帰りはいいって断ってきたんだ。せっかくだし、帰るまでが旅行だよね」



「あああ……」



爽やかな笑顔のユウガとは対照的に両手で顔を覆い絶望する俺。

ミネルバに着くまでの数日間、ポジティブでエネルギー溢れるユウガに付き合う俺であった。



「つ、疲れた……」



やっとミネルバに着いた乗り合い馬車。

降りて即効でユウガに別れを告げて逃げてきた。

あいつ、ブライリングがそこそこの田舎だからといって、変装していないのだ。



あいつのトラブルメーカーと無駄に人を引き寄せる魅力は健在なのだ。

人に囲まれる前に離れるが吉である。



「ああ、疲れた……でも、会いたいなぁ」



男に囲まれ続けたこの旅行、俺が求めているのは眠って手に入る癒しではない。

俺はお土産を握りしめ、アクアレイン家の屋敷へと向かった。



「ソフィアさん、久しぶりです」



門に近づいていくと、ちょうど入り口近辺の掃除をしているソフィアさんと遭遇した。



「お久し振りです、ヨウキ様」



「すみません、いきなり訪ねて申し訳ないのですが、セシリアはいるでしょうか」



「はい。お嬢様でしたら、屋敷にて休日を満喫しております」



「その……会ったりできますか?」



約束もせずにいきなり会えるかなど、ものすごく無礼な行動をしているのは承知だ。

しかし、独りよがりな会いたいという感情が俺を突き動かすのである。



「……ただいま、お嬢様に確認をとって参りますので、少々お待ち下さい」



ソフィアさんの言葉に従い大人しく待つことにする。

いつもお世話になっている、門番さんと雑談しているとソフィアさんが戻ってきた。



「お嬢様が通しても大丈夫とのことです」



「あ、お、おじゃまします」



「随分な荷物ですが、何処かへ行かれるのですか」



「逆です。帰ってきました」



「ギルドの依頼ですか」



ソフィアさんに言われ、少し考えてしまう。

依頼ではない、でも、恋愛相談のために遥々、遠出しましたとも言いたくない。



「慰安旅行に行ってました」



ベストアンサーを引き出したと思ったのだが。



「……その割に、大分お疲れのように見えますが」



「……」



ソフィアさんに返答できない俺であった。




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