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勇者と調査してみた

「起きろや!!」



俺の怒号が部屋内に響く。

幸せそうに寝ているユウガを容赦なく叩き起こすためだ。

こいつ、昼に集合と言ったのに、いつまでたっても来ないとか。



宿を出る時、部屋をノックしても返事がなかったので、出掛けたと思っていたのに。

待っていても来ないので宿に戻り、部屋に入ったらこれだ。

声を荒げるのも無理ないだろう。



「う、うーん。ああ、ヨウキくん、おはよう……」



「おはようじゃねーよ。もう、こんにちはの時間帯だっつーの」



「え、嘘!? ご、ごめん。直ぐに準備するから」


「なんで俺がわざわざお前を起こしに来なきゃならんのだ」



俺はお前のおかんになった覚えはないぞ。

そういうのは……ミカナの仕事だろう。



怒りながらも、内心は嬉しい的な。

……って、なんで俺はこいつとミカナの朝の件を想像しているのやら。



目の前にいる、急いでズボンをはこうとして転びそうになるも、空中で体勢を立て直し、そのままズボンをはくとかをやっってのける勇者を待っているからなのだが。



「そんな、アクロバティックな着替えをしている暇あるなら、早く準備しろよ!」



「ご、ごめん、わざとじゃないんだ」



わざとじゃないからすごいと思う。

ユウガの一日を観察したら面白そうだ。

まあ、野郎に一日密着なんて、時間があってもやらないけどな。



「よし、行けるよ!」



「わかった。……で、なんで寝坊した?」



「えっと、夕食を食べに近くの酒場に行って、酔っ払いが騒いでいたから仲裁に入ったんだ。そしたら、酒場のマスターにすごく感謝されて話し込んじゃった」



「それで……酒場を出たら?」



「外が明るかったよ」



こいつの顔面、ひっぱたいちゃダメかな。

こっちは手伝ってやっているんだから、集合時間くらい守れよ。



「そんなんで、旅をしていた時は大丈夫だったのか」



「遅くなりそうになったら、ミカナが迎えにきたりとか」



「しゃきっとしろよ!」


本当に勇者なんだよな、こいつ。

世界を救った、偉大な勇者様なはずだよな。



「大丈夫。最近、ちゃんとするようにしているから」



「何をだよ。今日、早速寝坊してんじゃーか」



口だけなら何とでも言えるからな。

そういうのは行動で示せ、行動で。

やる時はやると信じて、調査していくしかないか。



「よし、調査だ。カイウスの潔白を証明するぞ」


「うん。僕らの力で真実を見つけるんだ」



真実を見つけたらカイウスが吸血鬼ってことで、別の意味で終了だ。

カイウスではなく、あのショットととかいう、お坊ちゃんの周辺を調べた方が良いだろう。

あの感じだと叩いたら埃が出てきそうだったし。



「さて、早速町の人に聞き込みをしようか」



「あ、ヨウキくん。ショットくんについて、昨日酒場でいろいろと聞いてきたよ」



「まじか。教えてくれ」



ただ、酒場で話し込んでいたわけではなかったのか。

ユウガへの評価が上がったぞ。



「ショットくん、女の子と遊ぶこと控えているみたいだよ」



「その情報はどう活かすべきなんだ」



あのお坊ちゃんが女遊びしていようがどうでも良い。

しかし、重要な情報にもなりそうだ。



「うーむ。カイウスを吸血鬼にしたてあげるってことは、恨みでもあるのか?」



または、本当にカイウスが吸血鬼だと知っていて依頼を出したか。

カイウスがショットくんの女友達に手を出した云々は置いておいて。



「そうだね。何かしらの理由なしにカイウスさんのことを吸血鬼だと言って、討伐しろなんて言わないよ」



「そりゃそうだ。よし、別行動するぞ。俺はカイウスにショットくんがらみで何かしてないか、聞いてくる」



「じゃあ、僕は町の人たちに聞き込みをしてみるよ。ショットくんの回りで何か変わったことがなかったか」



聞き込みはレイヴン仕込みで上手くしてくれそうだ。

…いや、レイヴンは聞き込み得意じゃなかったな。



とりあえず、ユウガに任せよう。

俺のいない所で騒ぎを起こすなら問題なし。

適度を越えたことをしたら話は別だ。

帰ったら、ミカナとセシリアに報告書を提出しよう。



「お互いに朗報を期待しよう」



「ヨウキくんなら、やってくれそうな気がする。僕も沢山、情報を集めるから」



ユウガと別れ、俺は一人廃城へと足を運ぶ。

町を歩いていると思うことがあるのだが。

やたら、カップルが多いような……これも恋のキューピッド、カイウスの影響なのか。



ブライリングにレイヴンも連れてくれば良かったかもな。

この光景を見せて、カイウスに相談したら、ハピネスと距離がぐっと縮まると思うぞ。



「お邪魔しまーす」



主一人の廃城に挨拶をし、入る。

相変わらず綺麗な廊下、調度品。

……カイウスが掃除をしているのか、わからんな。



昨日入った時のように、さして警戒もせず、最上階まで一直線。

しっかりとノックをして、返事を待ってから中に入った。



「迷える少年よ、よく来たな。……ん、昨日の魔族くんではないか」



「いや、魔族くんて……ヨウキで頼む」



「わかった。魔族の少年と呼ばせてもらおう」



「俺、少年っていうほどの年でもないぞ」



「私からしてみれば少年さ」



はっはっはと笑うカイウス、相変わらず掴み所がないな。



「それで、私に何かご用かな」



「今、あんたを吸血鬼扱いして討伐依頼を出した奴について調査中なんだ」



「間違ってはいないからね。私は吸血鬼、それが真実だ」



「それはそうだが。あんた、貴族から恨みを買った覚えは?」



「ないな。私は迷える者を導く者。害を与えたり、不幸を呼ぶことはしない」



恋のキューピッド伝説が続いてるのは、こいつが今までずっと自分の信念を曲げなかったからだろう。

そうでなければ、何かしらの黒い噂の一つくらいあるはずだ。



それがないとなると、カイウスが何かしたという可能性は限りなく低い。 ……ショットくんの反応を見るに女性がらみのようだったな。



「じゃあ、町の女性をたぶらかしたりはしてないか」



「……あり得んな」



「あり得んて、そんなことはないだろう」



男だし、万が一ということもある。

女性に全く興味がないなんてことはないだろう。むしろ、興味がないなら恋愛相談もしないと思う。

それなのに女性問題を完全否定するとか…まさか。



「魔族の少年、君が何を考えているのか、おおよその見当はつく。私はそういった趣味はない」



「あ、そうか」



「君なら良いだろう。着いてきてくれ」



席から立ったカイウスは部屋を出ていく。

何処に向かうのだろうか。

あえて黙って後ろを着いていく。

案内されたのは廃城内の食堂。



セシリアの屋敷で見たような、長テーブル。

二十人は余裕で座れるだろう、何人家族だよと突っ込みたくなる。



「こっちだよ」



何故かテーブルクロスをまくっている。

覗き込んだら隠し扉があった。

何で食堂のテーブルの下に隠し扉がと疑問を持ちつつ、着いていく。



階段が続いており、中は蝋燭の灯りが頼りで薄暗い。

この下には何があるというのか。



「おい、お前、やばい研究とかしてないだろうな」



雰囲気的に怪しげな実験場に向かっている気分だ。

重苦しい鉄製の扉があって、中には……みたいな想像しか出来ない。



「別に怪しくはないさ」


「こんな所に案内されて怪しむなと?」



「はっはっは」



笑ってごまかしやがった。

俺、カイウスに着いてきて良かったのか。

何も聞かなかったのが不味かったな。

今なら、まだ間に合う。 何処に向かっているのか聞こう。



「この先には何があるのでしょうか」



つい、敬語が飛び出した。

カイウスの表情が少し暗くなる。

緊張からか、俺はごくりと眉唾を飲んだ。



「この先にはね、私の恋人が眠っているのさ」

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