表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/420

一人になってみた

「安心してください。ガイさんはティールちゃんを置いて遠くに行ったりはしませんよ。絶対に戻ってきますから」



セシリアが上手い具合にティールちゃんを宥めているのを確認して、俺はこっそりと部屋を出た。



目指す場所はクレイマンのいるギルド。

おそらくガイはギルドで依頼を受けているはず。


クレイマンに聞いて、ギルドで待ち伏せしていればガイを捕まえられるだろう。



「すみません。クレイマンはいますか」



「は、はい。副ギルドマスター、お客様ですよー」



さっきは上がると言っていたが、どうせ俺を撒くための嘘だろう。

女性職員、シエラさんはカウンター裏に消えていった。



しばらく、カウンター前の椅子に座って待っていると、面倒臭そうな表情したクレイマンがシエラさんに背中を押されながら現れた。



「あー、押すんじゃねぇよ。つーか、俺はもう定時だぞ、帰らせろ」



「良いじゃないですか。それに定時ってクレイマンさん、まだ仕事残ってますし」



「ちっ……仕方ねぇな」


ぶつぶつと文句を言いながらも、シエラさんに説得されるクレイマン。

なんだあの光景、部下に説得される上司って。

ソフィアさんにチクってやろうか。



「よっ」



「よっじゃねぇよ。なんか用か」



「ちょっと聞きたいことがあってな。裏で話したい」



「そっち関係の話かよ。わかった、着いてこい」


椅子から立ち上がり、クレイマンに着いていく。 目的地は先日の裏口だ。 ギルドを出て、周囲に誰もいないかを確認する。 俺たちの会話盗み聞きするような物好きは、多分いないだろうけど。



「で、なんの用だ」



「ガイは戻ってきてないか? 俺に連絡がないんだ」



「おいおい、お前の連れだろうが。何も聞いてねぇのかよ」



「いつ帰ってくるのかも、どこで寝泊まりしているのかも聞いてない」



「……お前なぁ。知り合いならその辺、ちゃんと聞いておけよ」



全くと言って、クレイマンはため息をつく。

ガイとの別れ際は黒雷の魔剣士だったからな。

見送ることに全力で頭が回らなかった。

俺も今ならつくづくアホなことをしたと思う。



「いやぁ、あの時は気分が舞い上がってたからな。別れた時、衝動的に何も聞かずに見送っちゃってさ」



「アホか」



ばっさりとクレイマンにきられる俺。

本当にもう、黒雷の魔剣士で行動したのが間違いだった気がする。



「俺がアホなのは認める。だから、ガイが依頼を受けに来たら、俺が泊まっている宿に来るように伝言をお願いしたい」



「別にそれぐらい良いけどよ。次はちゃんと自分で聞いておけよ。あいつ目立つんだから」



「面目ない……ちなみにいつ頃帰ってくるかってわかるか?」



「ランクの低い依頼しか受けれねぇからな。一日ごとに戻ってきて、依頼の完了報告しにきて、新しい依頼受けていたからな。明日にはギルドに来るだろ」



「わかった。じゃ、伝言頼む」



「おう。じゃーな」



これで最悪でも明日にはガイと会うことが出来る。

……最初にガイと打合せをしていればこんな面倒なことにならなかったんだよなぁ。

次なんてないだろうけど、もっと計画性を持って行動しないと。



自分の無計画さを反省しつつギルドから、セシリアとティールちゃんがいるであろう宿に戻る。



「あ、ヨウキさん。どこに行っていたんですか。何も言わずに出ていきましたよね」



「ああ。気づかれないようにこっそり出ていったからな」



「何故ですか。出掛けるなら一言欲しかったのですが」



セシリアの説得に水をさしたくなかったからだが。



「まあ、俺は俺に出来ることをやりに行ったというか」



「はぁ……」



セシリアが頭にはてなを浮かべている。

こんな説明じゃ何をしてきたのかわからないか。そもそも説明になっていないし。



……それにしてもティールちゃんが静かだ。

出ていく前はあんなに取り乱して、ヤンデレ化していたのに、大人しく椅子に座っているとは。



今は俺の話を期待しているのか、無言で俺を見つめてくる。

嫌なプレッシャーは感じない。



瞳にあるのは純粋な期待だけだ。

俺がいなくなってから、セシリアとどんな話をしていたのか。

気になるところだが、今は一刻も早く、ティールちゃんを安心させるべきか。



「ギルドの知り合いにガイが来たら、ここに来るように頼んできた。早ければ、明日にでも来るだろう」



「本当ですか!?」



ティールちゃんの語気が強い。

さっきから我慢していただけだったのか。



「ああ、ガイが来たら直ぐにティールちゃんに連絡するよ」



「ううう、本当は守り神様を待っていたいです……けど」



ちらりと何かを伺うようにセシリアの顔を見るティールちゃん。

当の本人は慈愛に満ちた笑みを浮かべている。



……この状態のセシリアには何を言ってもかなわないからな。

それに、このまま寝泊まりされたら俺も困るし。皆、この部屋俺が借りているってこと忘れてないよな。



「これ以上遅くなるとお母様やシークくんが心配しますよ」



何故、そこでシークが出てくる。

ティールちゃんの担当医みたいなものだからか。


「わかりました、今日はもう帰ります。ヨウキさん、守り神様が来たら、連絡お願いします」



「わかった。任せてくれ」



「お願いしますね。それでは失礼します、ヨウキさん、また明日……ですかね?」



男を見せた俺に二人は手を振って部屋を出ていった。

セシリアの別れの挨拶が茶目っ気があってかわいかったな。



「いや、遅いし送ってくよ!」



部屋から飛び出した俺を見て、二人は目を丸くしている。

こんな時間帯に女の子二人をそのままで帰宅させるとか。



いつもなら、セシリアを送ってるだろう。

かわいかったな……じゃねぇよ。

男を見せるなら、最後まで見せろというに。



「ふふふ、では、お言葉に甘えますね」



飛び出してきた俺が面白かったのか。

二人を屋敷まで送っていく最中、セシリアの笑みは中々止まなかった。



「おい。小僧、いるか。ギルドの男から聞いて帰ってきたぞ」



翌日、ガイがいつ訪ねてくるかが謎だったので、部屋で待機をしていたら、突然扉が開いた。

時刻は昼にもなっていない。

待っていたガイが帰ってきたのだ。



「ああ、お帰り……」



「どうした。疲れきった顔をしているが。何かあったのか」



「今日は声を張り上げる気力がないだけだ」



内心、ガイの名を叫んで変な姿に変えてやりたい衝動が起きている。

しかし、最初に打合せをしていなかった俺にも非があるので我慢。

気力がないのも事実だが。



「ほう、珍しい。いつもなら、奇声をあげて襲いかかってくるのだが……ああ、そういえば。小僧が我輩との関連性云々と煩かったからな。宿の主人には≪イリュージョン・アイズ≫をかけて入ってきたぞ。主人には誰も宿に入ってきてないように感じているはずだ」



「ガイにしては珍しく考えたな」



セシリアが俺と黒雷の魔剣士、ガイとの関係がばれたらややこしくなるから、俺は黒雷の魔剣士のままで行動していたんだもんな。



「ふん……我輩を嘗めるなよ。それで、用件があって呼んだのだろう。何かあったのか」



「何かあったってもんじゃないぞ。俺の部屋にある大量の魔鉱石が入った袋を見たら、解ると思う」



ガイは部屋を見渡し、袋の存在を認識する。

そして成る程と納得したような素振りを見せ、俺に確認してきた。



「……ティールだな」



「正解だ。何も言わずにいなくなって、俺も三日間、依頼で部屋を空けていたからな。帰ってきたらすごかったぞ。目に光が灯ってないわ、ギルドに登録して一緒に働くと言い出すわ」



「……むう、そんなことがあったのか。ティールの事を考えると先に話してから行動するべきだったな」



「ティールちゃんの性格上、ガイがいきなりいなくなったらどうなるかわかっていたはずなのにな」



今までガイにべったりだったし。

これからもべったり甘々なのだろうが。

見ているこっちからしたら、たまったもんじゃないけど。



「わかった。我輩が話をつけよう。実は、自分で部屋を借りた。場所はここの近くにある獣の住処という宿だ。すまんがそこにティールに来るように伝えてくれ。我輩ではあの屋敷に行くと目立つからな」



「まあ、面倒な事になりかねないな」



門番から門前払いくらって終わるかもしれないし。

俺は最初にやられたからな。

今の門番は感じの良い人だが、ガイの外見を考えると難しいかもしれない。



「よし、わかった。直ぐに連絡して欲しいって言ってたしな。行ってくるわ」



「頼む。我輩は宿で待っているぞ。あと、これは我輩の宿に運ばせて貰おう。置いておくのも小僧に悪いしな」



魔鉱石が入った袋を担ぎ上げ、部屋を出ていくガイ。

目立つ格好がさらに目立っているぞ。

魔鉱石の入った袋は五袋あり、幼児が平気で入る大きさだ。



そんな袋を全身を隠した大男が担いでいたら、どんな誤解を受けるか。



「姿を消してやるから。窓から出ていけ。その格好は目立ち過ぎだ」



「≪イリュージョン・アイズ≫があるから大丈夫ではないか」



「宿にいるのは主人だけじゃないんだぞ。会う人全員に幻覚見せる気か」


「それもそうか。では、宿にて待っていると伝えてくれ」



「了解」



伝えることも伝えたし、あとはティールちゃんにガイからの伝言を伝えて終わりだな。

≪バニッシュ・ウェイブ≫で姿を消したガイも、宿に向かったし、俺も屋敷に行くか。



「……という訳で、ガイは獣の住処っていう宿にいる。場所は俺が泊まっている宿の近くだってさ」



「わかりました。メイド長にお昼休みをもらってきます」



俺の説明を受けるや否や、颯爽と走り去っていくティールちゃん。

屋敷に着いたら、何かを感じ取ったのか直ぐに俺のところに来たから驚きだ。



庭園の中にぽつんと残された俺。

セシリアとも約束していないし、帰るかな。



「あ〜隊長。おひさ〜」


「おっ、シークか。……お前には苦労をかけたな」



「うん〜?」



この首を傾げる仕草が汚れの知らない純粋な少年を思わせる。

こいつには色々と変な世界があるということを知ってほしくないな。



「シーク、お前は真っ当な成長をしてくれよ。間違っても周りの何かを吸収し過ぎるな」



「隊長の言っていること、よくわかんないけど、わかった〜。それじゃあ、またね〜」



去っていくシークの後ろ姿を見て、先程のティールちゃんと比べてしまう。

同じくらいの年なのにな。

やはりガイはティールちゃんに何かしたんじゃないか。



そんな疑惑を思い浮かべていると、私服に着替えたティールちゃんが屋敷から飛び出してきた。



「あ、ヨウキさん、メイド長からお昼休憩貰えたので、これから守り神様のところに行ってきます」



「わかったよ。気を付けてね。急いで転ばないように。ガイは待ってるって言ってたから」



「はい! ありがとうございます。それじゃあ、いってきますね」



満面の笑みを浮かべ、スキップ混じりでティールちゃんはガイの元へと向かっていった。

……あんな笑顔を見たら何かした、なんて疑惑は無くなるな。



「帰るか」



屋敷を出て、宿に帰ることにした。

帰り道を歩いていて気づいたのだが、ガイは自分で宿を借りた。

つまり、俺は宿にて一人。



「最初はデュークやハピネス、シークもいたんだよなぁ」



最初は賑やかだった部屋が、ついに一人になってしまったことに妙な寂しさを覚えた俺であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ