好きな子と依頼の報告をしてみた
「よし、後は帰るだけだな。何もなかったのは残念だったが、無事に依頼を終わらせたぞ! ふははははは!」
「魔剣士さん、ギルドに報告するまでが依頼です。そして、まだ、遺跡の中にいるんですから、声量を自重して下さい」
「ふっ、誰も我が道を止めることは……」
「魔剣士さん?」
「う、うむ。黒雷の魔剣士たるもの、依頼は完璧にこなさないとな。帰って報告するまで気は抜けんな」
すっかりセシリアに手綱を握られている気がしてならない。
まあ、暴走を止めてくれるのはありがたいが。
「わかってもらえると助かります」
「ああ。さて、さっさとこんな遺跡からおさらばしようじゃないか」
「そうですね」
俺とセシリアは魔物に警戒しつつ、来た道を戻る。
出てきても≪イリュージョン・スフィア≫で足止めし、横を素通りすれば良いしな。
「便利な魔法ですね。弱点とかないんですか?」
「あの球体から発せられる光を見なければ良い。後は幻影を見破るとか」
まあ、≪イリュージョン・スフィア≫はあの球体が一番惹かれる物に見えるようになるからな。
自力突破は難しいだろう。
「自分が惹かれる物……」
「興味があるならかかってみるか?」
俺もセシリアの一番惹かれる物がなんなのか知りたいし。
「……いえ、止めておきます。今は依頼中。帰って報告するまでが依頼ですから」
「そうか。……さすが、セシリー。自分の好奇心より依頼を優先するとはな。だが、安心しろ。興味があるなら、まだ、見せていない魔法を今度見せてやる」
決めポーズつきでナチュラルに今度会う予定を提案。
黒雷の魔剣士はどもらずにきっぱりと言い切る
その方が格好良いからな。
「危険な魔法は駄目ですよ? ……でも、楽しみにしていますね」
「そうか」
ちょっと残念な気もするがセシリアらしいから良いかな。
その後、迫り来るわけでもない魔物たちに幻影を見せ、遺跡から外に出た。
「ふう。今からなら急いだら、ミネルバに帰れそうだな」
これといった発見もなく、俺の魔法でスムーズに調査出来たからな。
昨日は出発が遅くて野宿したけど。
「そうですね。一応、お母様やソフィアさんには二、三日程度と言ってきましたし」
「直ぐに出発で大丈夫か?」
昨日は野宿で今日は朝からずっと神経の使う遺跡調査だ。
疲れが取れていないなら、少し休んだ方が良いかも。
「ふふふ、私を誰だと思っているのですか。魔剣士さんよりも多くの依頼をこなし、魔王を倒すべく、選ばれた勇者パーティーの一人ですよ?」
「あ、ああ……」
「なーんて、ちょっと、魔剣士さんのまねをしてみました。いけませんね、ギルドに報告するまでが依頼だと言ったばかりなのに。私は大丈夫です、行きましょう」
決めポーズはとっていなかったが、まさか、俺のお株を奪われるとは。
……疲れがたまってるんじゃなかろうか。
おんぶか横抱きにして走っていった方が良いかな。
「ほら、魔剣士さん。帰りますよー」
考え事をしていたせいか立ち止まっていたらしい。
セシリアが少し遠くで手を振っている。
やっぱりセシリアは元気みたいだ。
あの普段と違う格好がセシリアにとっては新鮮だからか、はしゃぎたくなるのかもしれない。
「今行くぞ。この俺がセシリーに遅れをとるわけにはいかんからな」
疲れを知らない俺は猛ダッシュでセシリアの元へ。
「魔剣士さんは疲れていないのですか? ずっと魔法を使っていたのに」
「ふっ、黒雷の魔剣士は疲れなど見せない」
「……見せていないだけで疲れてはいるのですね」
「すまん、語弊があった。黒雷の魔剣士は疲れない」
「あなたは一体、何者ですか?」
「俺か? 我が名は黒雷の魔剣士。黒衣を纏い、稲妻の如き速さで戦場を駆ける……」
「わかりました。ギルドへ報告が終わったら食事をしましょう。休息が必要そうです」
やれやれといった感じで肩を落とすセシリア。
俺は通常運転なのだが、何か問題があったのだろうか。
まあ、なんであれ食事は楽しみだ。
「よし、予定も決まったところでミネルバに向けて出発だ!」
「今日の予定の話をしていた訳ではなかったのですが。……まあ、いいかな。帰りましょう」
二人で昨日、今日歩いた道を戻り俺たちはミネルバに着いた。
時刻は夕刻、まだ、ギルドは開いている。
押し入るようにドアを開け、カウンターで死んだ魚の目をしたクレイマンの所へ一直線。
「依頼は無事に完遂した。中々、いろいろなスキルの問われる依頼だったが、この俺、黒雷の魔剣士と慈愛の導き手、セシリーにかかれば、なんの問題もなかっ……あでっ!?」
「私に二つ名はいりません」
また、魔法書で小突かれた。
まあ、そこまで痛くないけど……慈愛の導き手良いと思うんだが。
「おー、帰ったか。んで、報告は?」
「これが今回の遺跡調査についてまとめた報告書です」
「なぬ、報告書?」
セシリアが普通にクレイマンに渡した報告書だが……そんなもの何時の間に用意をしたのか。
そういえば、遺跡を歩いている時に魔法書をずっと開いていたが。
「魔法書を下敷きにして、調査中に書いていたんです。遺跡調査は魔剣士さんにすっかりお世話になりましたから」
「まじか。全く気づかなかった。というか、報告、口答で良いと思っていたが……ありがとう、セシリー。さすがだ」
やはり、セシリアはこういうところにも気を配っているからすごい。
「いやー、助かるぜ。口答に雑な箇条書きで報告終了っていうやつらがいるからな。令嬢の報告書はわかりやすくまとめられていて、助かるわ」
ぺらぺらとセシリアの報告書を見て、にやつくクレイマン。
こいつ絶対、何か企んでいるな。
「おい、クレイマン。今、頭で考えていることはなんだ?」
「おう。いつもなら、冒険者の報告に基づき、俺らで報告書をまとめたりするんだが、令嬢の報告書なら、俺がまとめなくてもこのまま渡して良いかと思ってよ」
クレイマンのやつ、いつもの癖が出ているな。
ちゃんと仕事しないとソフィアさんに言いつけるぞと言いたい。
しかし、今の俺は黒雷の魔剣士。
厨二全開でクレイマンを諭してやろう。
「ふっ、クレイマンよ。他者の力で自らの仕事を終わらせて良いのか? 自分の力ならセシリアの報告書を活かして、より良い報告書に出来るんじゃないのか。自分で何かを成し遂げた時の達成感と充実感はこの上ない喜び、そして、誇りにもなる。だから、その報告書はそのままではなく……」
「おっし、俺もう上がる時間だから終了な。依頼完了の受理だけはしておいてやるから。じゃあな」
「待て、まだ話は終わってないぞ。クレイマーン!」
クレイマンはそそくさと逃げるように、カウンター奥への扉に入っていった。
「さあ、依頼の報告も終わりましたし、行きましょう」
「くっ、わかった」
「食事の前に着替えましょう。魔剣士の姿は目立ちますし、私もいつもの変装に戻ります」
小声でささやかれ、頷いて肯定の意を表す。
念のため、誰かにつけられていないか警戒しつつ裏路地に入り、≪バニッシュウェイブ≫で姿を消す。
そして、セシリアが用意した教会に行き黒雷の魔剣士とさよならした。
「うおああぁぁぁぁぁあ……」
「きゃっ、ど、どうかしましたかヨウキさん」
唸り声を上げつつ、教会の床の上を転がる俺。
この四日間の言動を思い出したら、転がることを止められない。
前回よりはましだったかもしれないけどさ。
「頼むセシリア、俺の懺悔を聞いてくれ」
「良いですが……食事はどうしますか?」
そういえば、食事する約束をさっきしたばかりだ。
つーか、最初の一日以外、ほぼ一緒に行動を共にしていたセシリアに今更何を懺悔する気だ俺は。
「よし、食事に行こう。懺悔の内容は全部セシリアが知っていることだったから、いいや」
「なる程、そういうことですか」
「そういうこと。じゃあ、行こうか。……その前に宿に寄って良いかな。これ封印してくるから」
横目で見るのは黒雷の魔剣士セット。
これを持ってうろつくのはまずいだろうし、さっさと封印したいし。
「良いですよ。行きましょうか」
セシリアの許しをもらい、四日ぶりの宿へと向かう。
そういえば、ガイは帰ってきているだろうか。
あいつなら魔法で宿の主人に幻覚見せるなり、眠らせるなりすればここに帰ってこれるからな。
宿に着き、部屋の鍵を確認すると開いている。
「ガイが帰ってきているみたいだな」
「本当ですか。依頼が終わったんですね」
「よし、入ろう」
扉を開けて四日ぶりに慣れた宿部屋へ入る。
「……お帰りなさい」
そこには目に光の灯っていないティールちゃんがいた。




