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好きな子と厨二で依頼に行ってみた

「これで問題ありませんね。魔剣士さんも依頼を一つ受ければ満足するでしょうし」



「ああ、まあな」



久し振りにAランクの依頼を受けたかっただけなので、何個も受けるつもりはない。

それに、セシリアと一緒なら一つで充分だ。



「それでは依頼を受けに行きましょうか」



「待て。今依頼を受けるのか。もう、夕方だぞ。移動時間を考慮するとやはり、今日は解散して明日に出発した方が良いのではないか?」



近場での依頼があれば良いのだが、無ければ移動することになる。

下手したら野宿するはめになるかもしれないぞ。


「大丈夫ですよ。野宿には慣れていますから」



「いやいやいや。さすがにまずいだろう」



「……今、私は一人の冒険者、セシリーです。令嬢ではありません。魔剣士さんは前回のAランクの依頼で昼、夜を気にしていましたか?」



「うっ……」



全く気にせずに走り回ってた記憶しかないな。

盗賊の場所が判明して、夜だというのに捕縛しに行ったし。



「Aランク依頼は緊急の場合もあります。体調不良や旅の準備が出来ていないなら話は別ですが、動ける時に動き出さないと」



「むうう……そこまで言うのなら、行こうではないか。黒雷の魔剣士はスピード命。行くぞ!」



「はい」



セシリアにしては少し急ぎすぎな気がするが。

冒険者としてはセシリアの方がまだまだ先輩だしな。学ばせてもらおうではないか。



セシリアがまとめているけど、先頭を歩くのは俺。

なんか、考古学者の護衛をしている気分だな。

これから遺跡調査に行きます的な。



「……という訳で、遺跡調査関係でAランクの依頼はないか?」



「何がという訳だよ。全く説明してねーだろ。こんな時間から依頼か? つーか受けるなら、さっき受けていけよ」



ギルドに着くなり、依頼を受けに行ったのだがクレイマンは文句たらたら。

こちらにはこちらの事情があるのだ。



「すみません、何度も……」



「ん、おう……さっきのデカイ新入りはどうした?」



「聞くのは野暮というものだろう。男の一人立ちだ、止めはしなかった」「そうか。問題だけは起こすなよ。俺に処理する書類が来たら面倒だからな」



「安心しろ、ガイに限ってミスなどするものか」


「あの、私もガイさんなら大丈夫かと」



「……まあ、令嬢がそういうなら」



「クレイマンさん、今の私はただの冒険者です。令嬢じゃありません」



「お、おう。そうか、わりいな。……で、遺跡調査のAランク依頼な。ほらよ」



クレイマンが渡してきた依頼書を確認する。

依頼の内容は派遣する学者達が、安全に遺跡調査を出来るかどうか、確認すること。



「これでAランクの依頼なのか? いささか、簡単過ぎる気がするが」



「あー、その辺は令じょ……嬢ちゃん、説明頼むわ。ほら、行ってこい」


しっしっと手を振るクレイマン。

なんだこの面倒だから絡み拒否みたいな行動は。



「わかりました。魔剣士さん、行きましょう。歩きながら説明しますから」



「ふむ、わかった。では、行ってくるぞ! 必ず依頼を達成してくるからな」



しっかり決め台詞を残しギルドを出る。

そのままの勢いで依頼先である遺跡まで向かうことになった。



「しかし、近くに村や町はなしか。完全に野宿だな。廃村でもあればましなんだが」



「そういう環境が整っていないこともAランクの依頼の位置付けに関係しているのですよ」



歩きながらセシリアの説明を受ける。

……格好からして、セシリアの方が一般的な冒険者だからな。



だけど、俺は黒雷の魔剣士だ。

例え誰かが馬鹿にしたとしても、自分の誇りは貫き続ける。



「己で決めた意思を真っ直ぐに貫けずして、冒険者の資格なしだ!」



「また、自分の世界に入っていたのですね。今の私の話、聞いていましたか?」



「もちろんだ。自ら質問をしたというのに、答を聞かないなどするものか」



「そうですか。じゃあ、話を続けますね。強い魔物が出るとか、険しい場所に行かなければならない、ということだけがAランク依頼の条件ではありません。これはわかりますよね」



「ああ、大丈夫だ。以前、そう考えて痛い目をみたからな」



力さえあれば、俺無双、楽勝モードに入れると思っていた自分を殴ってやりたいぐらいだ。



情報や準備をすっ飛ばした結果、苦戦したからな。



「今回は私もいますし、魔剣士さんも心構えが違うみたいですので、大丈夫だと思いますが。……位置付けの理由は他にもありますから」



「今回の遺跡調査に関しては、どのような理由が考えられる?」



「はい。まず、遺跡内を荒らさないことが重要ですね」



「そんなことか」



思ったより拍子抜け理由だな。

つまり、あれこれ壊して進むなということだろう。



「軽く考えていますね。もし、遺跡に魔物がいたらどうしますか」



「戦う」



「ですが、遺跡は壊してはいけません。正当防衛とは言えますが……それではBランクです。Aランクなら魔物が遺跡を壊すほど暴れる前に制圧します」



「なるほど。遺跡を壊さない程度に戦うのか」



手を抜き過ぎたら魔物は倒せない。

時間をかけすぎたら遺跡はどんどん壊れていく。 面倒な条件がついているな。



「さらに魔物もなるべく殺さないようにとのことです」



「魔物の血とかで遺跡が汚れるからか?」



「いいえ。遺跡に住んでいる魔物も調査の対象に含まれているみたいですね。魔物の生態系から遺跡に関して、なんらかの情報が得られるかもしれないからだそうです」



「ほほう。また、注文が多いな」



だから遺跡調査でAランクの依頼なのか。

高い金をかけてまで、その遺跡に価値があるのか?



……いや、もしかしたら何かロマンを追いかけているのかもしれない。

高い金をかけてでも為し遂げたい何かが……。



「条件が厳しい依頼は今まで受けてきましたが、今回はそこまで難しくないかと……」



「よし、絶対に依頼を成功させよう!」



「いきなりすごいやる気ですね」



「俺に任せろ。ロマンを求めているやつに悪いやつはいない!」



もうミネルバを出て真っ暗な道を歩いているのに、俺はハイテンションで叫ぶ。

声で魔物が来ようがすべて追い払うから大丈夫だ。



「静かにしてください」


魔法書で頭をかるく叩かれた。

ぽんという音がなりそうな優しい叩き方。

ふざければふざける程、威力が増していくとかだろうか。

少し自重しよう。



「……で、セシリーよ。こんな依頼を出したロマンがわかる依頼主は誰なんだ?」





「えっとですね、依頼主はミネルバ研究所。……城の機関からの依頼!? これは失敗したらギルドも私たちもまずいことになりそうですね」



「信用というやつか。クレイマンめ、中々の依頼を寄越したな」



こんな、ギルドの面子に関わる大事な依頼を冒険者に託していいのか。

自分で行くべきだろう……とヨウキなら言うな。あいにくだが、今の俺は黒雷の魔剣士。



失敗は許されない、なら、成功させるだけだ。

俺とセシリアのコンビを嘗めるなよ。



「クレイマンさん、何故、こんな重要な依頼を……」



「俺なら、俺とセシリアなら絶対に出来る。クレイマンも俺たちを信用して、この依頼を出してきたのだと思う」



自分で処理するのが面倒だからという理由も含まれているだろうが。



「そうですね。一度受けたからには依頼を達成しないと。……魔剣士さんのが移ってしまいましたね」



笑顔を見せるセシリア。 この状況を逆に楽しむのも悪くないと思う。



「遺跡調査くらい、すんなりと達成してくれるわ!」



「私も最大限、力を尽くします。頑張りましょうね、頼りにしていますよ」



「……ところで、遺跡調査って具体的には何をすれば良いんだ?」



格好つけたところで悪いが、わからんものはわからん。



セシリアも呆れた表情を見せずに、そうですよねと納得の表情。



「私たちは専門的な知識がありませんから、深く考えなくても大丈夫ですよ。……詳しい話は後で。そろそろ、野宿の準備をしましょうか」



「そうか、野宿の準備か」



もう暗くなってきたし、場所を確保しないと。

……よくよく考えたら、セシリアと二人きりで野宿か。



普段なら焦りに焦り、緊張で右往左往するだろうが、今はしない。



完璧な野宿の準備をして、快適な夜を過ごそうじゃないか。




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