守り神と協力してみた
お待たせしました
「む、何かあったのかセシリー」
セシリアと呼んではまずいので偽名で呼ぶ。
気のせいか、怒気がこもっているような。
「なぜ魔剣士さんが一人で依頼をこなしているんですか」
「ふっ、それはもちろん黒雷の魔剣士は速やかに依頼を遂行することをポリシーにしているからだ」
「そうですか。でも今は魔剣士さん一人ではないですよね。私やガイさんもいます」
「ああ。だからこそ、二人の負担がないように速やかに……」
「今はガイさんが一人立ち出来るようにするために依頼を受けているんですよ」
「あ、ああ、そうだった……な」
「はい。だから、魔剣士さん一人で依頼を片付けてしまうと、ガイさんの経験になりません。いつまでも魔剣士さん任せになります」
「わ、わかった。俺が一人で突っ走り過ぎたということだな」
「はい。魔剣士さん、気をつけてくださいね」
確かに俺が全部悪いのだが。
全く言い返す言葉が見つからず、淡々と説教されてしまった。
先程も注意を受けたばかりだというのに。
やはり、黒雷の魔剣士は制御が出来ないのだろうか。
「セシリーよ。俺は真の姿に戻った方が良いのだろうか」
周りに聞かれたらまずい気がするので、ひそひそ話。
ヘルメットのおかげで丁度良い距離感を作ることが出来る。
「いえ。このままで行きましょう。魔剣士さんの紹介で入ったガイさんがヨウキさんと一緒にいたら、関係性を疑われるかもしれません」
「なるほど。だが、俺は黒雷の魔剣士を制御出来るかわからんぞ」
今の俺は「俺の右腕が疼くぜ……」とか平気で言ってしまいそうな状態なのだ。
ヨウキではなく黒雷の魔剣士。
そこを間違えてはいけない。
「……わかりました。では、今から私もセシリアを止め、セシリーになります」
「え?」
「セシリーは魔剣士さんが暴走し出したら、容赦なく止めます。止まるまで言葉をかけ続けますから。その行動が神の導きだと信じているシスターということにしましょう」
「うむ、セシリーよ。それは良い案だな。我輩からも是非頼む」
「くっ……黒雷の魔剣士は誰かに手綱を引かれるとは」
セシリアに引っ張ってもらえるのなら、本望だ。
黒雷の魔剣士としては少し不本意な気もするけど。
「ふふ。安心して下さい。魔剣士さんが変わりすぎたら、それはそれで怪しまれますから。今まで通りでお願いします。……もちろん、行き過ぎた行動は注意しますが」
「……確かに行き過ぎた束縛は良いことではない。多少、黒士に自由を与えねばな」
「ふ、ふん。俺は黒雷の魔剣士。完全に支配などされるわけがなかろう」
ポーズをとるが実は空元気。
しかも、セシリアの表情をちらりと窺っていたりもしている。
……こういう時にヘルメットって役に立つなあと思う。
「ほどほどにお願いしますね、魔剣士さん」
「ああ! よし、じゃあ、依頼の続きといこうか」
「うむ。次の依頼は我輩も参加させてもらうぞ」
さっきの依頼は俺が解決してしまったし、残っている依頼がガイの初陣だな。
あとは増えすぎたゴブリンの討伐に薬草探しか。
「よし。薬草採取と行くか」
「……魔剣士さん、置いてかないで下さいね。いっそ、ガイさん先頭で歩きましょう」
「我輩がか?」
「私や魔剣士さんが助言しつつ、ガイさん自身で目的地まで向かうべきかと」
「確かに。いつも俺やセシリーがいるとは限らん。いや、いずれは一人、依頼を受ける時がくるだろうからな」
そのために人間社会に出られるように工夫したのだ。
いつまでもおんぶにだっこのつもりは、ガイも望んでいないはず。
「わかった。先頭は我輩が歩く。ただ、道案内は頼むぞ。全く、地理がわからんからな」
「ふん。お前の後ろにはこの俺、黒雷の魔剣士と慈愛の導き手、セシリーがいるのだぞ。何も心配することはない」
「魔剣士さん、勝手に私の二つ名を考えないで下さい」
セシリアからのツッコミはさておき。
ガイを先頭においた俺たち異色パーティーは歩き出した。
ガイにミネルバを案内しつつ、依頼場所へと向かう。
薬草採取はその名のとおり、森に入って薬草を採取するだけだが。
「いいか、ガイ。必要以上に薬草を採取するなよ。薬草採取はギルド登録初心者が必ず通る道だ。考えなしに刈り取ると……わかるな」
「ふむ、なるほどな。……しかし、黒士に他人に気を遣う気持ちがあるとはな」
薬草を採取しながら、ぼやくガイ。
全く、失礼なことを言う。
「ふん。俺を誰だと思っている。我が名は黒雷の魔剣士、アフターサービスも万全だ」
「……むうう。いつもと違ってやりにくいな」
「ガイさん。今は魔剣士さんですから。私もセシリーとして頑張りますので、安心して下さい」
「……わかった。我輩に黒士は止められんからな。頼んだぞ」
別に今は何か仕出かしたわけではないのだが。
真面目なことを言ったはずなのに、なぜだ。
だが、しかし、そんな理不尽な状況でも黒雷の魔剣士はめげない。
「ふははは、薬草採取など速攻で……」
ふと、横を見るとにこにこと笑っているセシリアがいる。
今はセシリーか……いや、セシリアでいいか。
とにかく、セシリアが俺に何かを訴えかけているように、にこにこと笑顔を向けている。
「魔剣士さん?」
ヘルメットごしに、覗きこむような形でセシリアの顔が……。
「ふっ、我がノルマはすでに完了した。あとは、ガイが採取すれば終わりだな」
「はい。ガイさんが終わるまで座って待っていましょう」
ガイの邪魔にならない位置まで離れて、その場に座る。
……いい具合に誘導されているな。
黒雷の魔剣士に導き手が……。
「やはり、慈愛の導き手でいこう」
「私は二つ名はいりません」
きっぱりと断られてしまった。
「これぐらいでいいのか?」
少しの間待っていると、手袋を土まみれにしたガイが歩いてきた。
ちゃんと採取出来ているな。
「上出来だ。これでガイもさらなる高みへと一歩近づい……」
「よし、次の依頼に行くぞ」
俺を華麗にスルーしたガイはさっさと歩いて行ってしまった。
「私たちも行きましょう、魔剣士さん」
「……ああ、行こう。この依頼の終着点へ」
「普通に行こうとは言えないのですね」
「何を言う、セシリーよ。これが俺だ!」
びしっと、堂々と自分に親指を立てる。
「……ガイさんに置いていかれてしまいますね。行きましょう」
「もちろんだ。……次の依頼はガイにとって初めての戦いになるだろう。俺たちで支えなければ」
「確かに、ガイさんはゴブリンと戦うことが初めてですね。……心配ないと思いますが」
セシリーの言うとおり、ゴブリン討伐の依頼で俺たちの出番はなかった。 ゴブリンに対し、ハンマー振り回すガイ。
鬼が小鬼を蹂躙していく姿は中々のものだった。 ゴブリンたちは手も足も出ずといった感じ。
「まあ、ゴブリン相手ならこんなものだろう」
「ガイさんが戦っている姿を見たことがなかったですが……やりますね」
「これも全て愛の力……いや、ヒモ脱却の力だ!」
「うるさい、黙れ、小僧」
ゴブリンと戦っているガイから怒号が聞こえてきた。
やっぱり、ヒモという言葉は気にしているんだな。
「我が名は黒雷の魔剣士……小僧とは誰のことだか、わからんな」
「ぬぅぅ、後で覚えておれ!」
ゴブリンとの戦いが終わった後、ハンマーを振り回すガイに追いかけられた。
まあ、簡単にあしらっているが。
「ふはははは! 自慢のハンマーが止まって見えるぞ」
「いいから、一度殴らせろ黒士。ハンマーでなくても良い。我輩の気がすまん」
「我が動きについてこれたら考えてやろう!」
しばらくじゃれていたところで、セシリアのそろそろ帰りましょうの一声で打ち止め。
ガイの攻撃は俺にかすりもしなかった。
ギルドに着くと、薬草とゴブリンたちから剥ぎ取った素材や武器をクレイマンに渡す。
「おう、確かに。依頼完了だな。ほれ、報酬だ」
クレイマンが金の入った小袋をガイに渡す。
一番低いランクの依頼なので、あまり中身は入っていない。
しかし、仮面ごしでもわかるぐらいに、ガイは感動しているようだった。
「これが働き、手に入れた金か……」
「おう。あんた、初給金か? 俺も初任給の時は嬉しかったもんだぜ。苦労して手に入れたなっつー感動がよ……」
クレイマンの語りに俺はヘルメットごしにだが、嘘つけという視線を送っていた。
苦労とか、クレイマンに似合わない言葉だ。
おそらく、会話の主導権を握らせたくなかったんだろう。
俺が作ったガイの設定は結構重めだし。
ガイが身の上話を詳しく語り出すとでも思ったのかもしれない。
面倒な道は行かないのがクレイマンだからな。
「すまんな、いらぬ心配をかけた。失礼する」
「おう。次はちゃんとシエラが担当するからよろしくな」
さりげなく自分のところに来るなというアピールをしやがった。
内心呆れつつも、クレイマンに別れを告げギルドを出た。
「黒士、これが働くということなのだな」
「ああ」
「ティールは身体が弱いというのに……こうやって働き金を稼いでいたのか」
ティールちゃんはギルドで働いてないけどな。
まあ、仕事をして金を稼いでいることに変わりはないけど。
「黒士、我輩はまだまだ働くぞ。そして、ティールに受けた恩を……返す」
「よし、その意気だ。俺もセシリーも全力でサポートするぞ」
「今回は魔剣士さんに賛成ですね。頑張りましょう、ガイさん」
「すまんな、二人とも」




