告白してみた
初投稿です。
「倒しちゃったなー……」
大して特徴のない、まあまあな広さの部屋の中で俺は呟いた。
俺は魔族の姿をしているが転生者である。
元は瀬川陽樹という人間で、転生する際にチートを授かった。
だが俺は勇者とかではなく、魔族に転生したのだ。
俺の目の前には倒れている勇者パーティーがいる。厨二な魔法で倒したイケメン勇者、容赦なくぶん殴りぼこった魔法使い、魔法でのびている剣士、気を失わせた僧侶は無傷だ。
「ここまだ魔王城の中盤くらいなんだけどなー」
ここは魔王城の中盤に位置する部屋であり、まだまだこの先に幹部たちや魔王様などがいる部屋があるのだ。
どうすっかーと頭をボリボリかいて考える。
勇者が魔王を倒さないと世界は平和にならない。
まさか、城の中盤ぐらいにいる魔族に全滅したとなれば世界は大混乱に陥るだろう。
「とりあえず回復させて近くの村にでも捨ててこよう」
元人間だし、世界が平和にならないのは良くないだろう。
別に魔王様や幹部たちには逃げましたとか適当な理由つければいいし。
善は急げだと勇者パーティーの治療にかかる。
まずは勇者だ。くらえ、聖剣エクセカリバー、とか厨二なこと叫んで光る剣を振ってきたので、同じく厨二な魔法を使ってのしてやった。
それはもうのりのりで。
勇者の治療を終え、次は魔法使いの少女の番だ。
闘う前から勇者に色目を使っていて、なんとなくビッチな気がしたので、容赦なくボコボコにした。
俺は男女平等派である。
三番目は剣士だ。
クールで寡黙な感じを出していてかっこよさが勇者並に出ていた。
なんかむしゃくしゃしたので、バトル開始早々、闇魔法で消滅してもらった。
ちなみに消滅とはいっても、周りから見えなくなるだけだ。
自分以外のパーティーである勇者と魔法使いが混乱しているのを見て困惑している隙に魔法でぶちのめした。
「さて、最後は……っと」
僧侶の少女だ。
剣士が消えても混乱せずに俺のことを遠めで見ていた。
これは油断ならないと判断し、剣士を倒した後、ついでに背後に回りチョークスリーパーで気絶させた。
「外傷ないようなもんだし回復魔法はいらないかな……ん?」
それでも、念のため外傷がないか確認するため、俯せになっている彼女を起こしたのだが
「……やべえ、ストライクだわ」
そこには俺のストライクゾーンど真ん中の美少女がいた。
「あー、捕虜とかにしちゃおうかな?……でも勝手にそんなことしたら怒られるかもしれんしなあ。それに元日本人として、捕虜とか奴隷はちょっとなぁ」
俺の地位は中ボス程度なので、魔王様や幹部の方々に何か言われたら逆らえん。
まあ、闘ったら俺が勝つだろうけどね。
「うう……さよなら俺のマイエンジェル」
俺は部下に命じ勇者パーティーを近くの村に運ばせることにする。
俺は部下に運ばれていく彼女を名残惜しむように見ていた。
三日後
「勝負だ!……え〜っと」
どうやら中ボスなんかの名前は覚えていないらしい。
再戦に来るんなら敵の情報ぐらい集めろよ。
「フハハハハ!性懲りもなくまた来たな、勇者よ。魔王様の幹部の一人、ザエキル様が率いる暗黒騎士部隊五番隊副隊長であるヨウキがまた貴様らを地獄に送ってやろう」
俺は厨二全開で自分の低い身分を合わせて自己紹介してやった。
「あっ、ああ……そんな名前だったっけ。覚悟しろ、ヨウキ!」
勇者パーティーが勝負を挑んで来た。
俺は闘いの最中、勇者パーティーと闘いつつ、僧侶の彼女をチラ見ていた。 最終的には彼女をガン見して闘っていた。
「真面目に勝負しろ、ヨウキ!」
勇者は俺がよそ見して適当に闘っていると思ったようだ。
「あー、ごめんごめん。本気だすわ」
さすがに悪いと思ったので、闇の最上級魔法を放つ。
結果、木っ端みじん。
勇者パーティーは全滅した。
「……って、しまった」
俺は僧侶の少女の元に向かう。
咄嗟に魔法で障壁のようなものを張ったのだろうか?
外傷は少なく気を失っているだけだった。
「よかった」
安心した俺はすぐに回復魔法をかける。
勇者パーティーにも回復魔法を施し、部下に近くの村に捨てて来るように命じた。
それから一ヶ月、勇者パーティーが来ては俺が撃退するの繰り返し。
挙げ句の果てには魔王様や幹部達が勇者パーティーが弱いだの何だのと言う始末。
勇者パーティーが弱いのではない、俺が規格外過ぎるのだ。
たぶん、俺がいなくなれば、勇者パーティーは魔王様や幹部達を倒せるだろう。
それだけの実力をあのパーティーは持っている。
俺のせいで世界は平和にならないんだなーと思う今日この頃。
俺は今自分の部屋で寝そべり、考えていた。
そろそろ勇者パーティーが来たら、ここ通してあげようかなと。
「しっかし彼女かわいいんだよなー。闘い中観察してみると、仲間に結構気配りもしているみたいだし。性格もよさ気な感じだなあ。……次で勝負してみるか」
俺はある決意をした。
数日後
「今日こそ、ここを通してもらうぞ、ヨウキ」
勇者パーティーがやって来た。
勇者くん、やっと名前覚えてくれたのね。
一ヶ月間ずっと名乗らないと名前呼ばなかったのに。
「ユウガ、こんな冴えない魔族とっとと倒しましょう」
ユウガとは勇者くんの名前か。
とっとと倒されているのはそっちだろ。
あと、冴えないは余計だ、ビッチ魔法使い。
「……」
剣士さんは無言で鞘から剣を抜きこちらに向ける。クールで寡黙キャラはいいからなんか言えよ。
「皆さん、最善を尽くして頑張りましょう」
……身嗜みを確認しないと。彼女にみっともない姿は見せられん。確認してからここ一ヶ月ずっと言ってる台詞を言い放つ
「フハハハハ!性懲りもなくまた来たな、勇者よ。魔王様の幹部の一人、ザエキル様が率いる暗黒騎士部隊五番隊副隊長であるヨウキがまた貴様らを地獄に送ってやろう」
……最近恥ずかしくて死にそうになってきた。
そんな俺の想いは勇者パーティーは知らないだろう。
勇者パーティーが勝負を挑んできた。
まあ、当たり前だがチートを持っている俺に勝てるわけがなく、徐々に劣勢になっていく勇者パーティー。
状況的に見てそろそろいいだろうと思い、勇者にある取引をもちかける。
「勇者よ。貴様は気づいているのではないか?私には勝てないと」
ここ一ヶ月ほど魔王城に来ては闘い、敗れるを繰り返しているのだ。
薄々感づいているだろう。
自分達ではこの魔族には勝てないと。
「…っ、だからどうした!僕は苦しんでいる人達のため、僕を信じてくれている仲間のために勝たなきゃいけないんだ」
わかっているけど、引き下がれない。
そういったところだろう。
もう、結構勇者パーティーはボロボロだ。
このまま闘いを続ければ、いつも通り全滅するだろうに。
「だから、取引をしようじゃないか。もし、取引に応じればこの先に行かせてやろう」
勇者パーティーの動きが止まり、俺を見てくる。
彼女も俺をじっと見てくれているので照れてしまうが顔には出さない。
「……なにが望みだ」
俺は答える。
「その少女を置いていけ。そうすれば他の三人は通してやろう」
俺は僧侶の彼女を指差して言う。
言い終えたあとの反応は様々だ。
勇者はふざけるなと怒り、剣士は目を見開き、魔法使いはライバルが減るとでも考えたのだろう、笑いをおさえられないようだ。
そして、肝心の彼女は何か諦めたような表情をしている。
「ふざけるな!そんなことできるわけないだろ。セシリアは大事な仲間なんだぞ」
「いいのか?なら取引はなしだな。また、近くの村から再出発するといい。その間に何人の人間が魔族に襲われて死のうが私は知らんがな」
これは本当に知らない。だって、俺、村を襲うとかの任務を一回も受けたことないし。
「ユウガ、取引に応じましょう」
さすが、ビッチ魔法使いだ。ライバルを蹴落としたくて仕方ないらしい。
「ミカナ!?何を言って……」
「あの魔族、冴えない顔してるけど、化け物じみた実力をもっているわ。悔しいけど私たちじゃあ何度闘っても勝てないぐらいのね。そんな相手がこんなにおいしい条件で通してくれるって言ってるのよ。セシリアだって強いのだしすぐにはやられないでしょう。その前に私たちが魔王たちを倒してここに戻ってくれば何も心配ないわ」
仲間を信頼しましょうと言ってビッチ魔法使いは勇者に取引を応じさせようとする。
立場が逆なら騒ぐのだろうに。
剣士さんは無言で事の成り行きをみている。
こんな時でもクールキャラはぶれないようだ。
数分の間、ビッチ魔法使いに諭された結果。
「…………わかった。セシリアを……置いてく」
どうやら取引に応じることにしたらしい。
苦渋の決断だったのであろう。
よほど悔しいのか固く握りしめている拳から血が出ている。
「フッ、では行くがいい」
俺が開けた扉に進んで行く三人になった勇者パーティー。勇者は何度も僧侶の方を見て、絶対に戻ってくるからと言い残していった。中に進んだのを確認した俺は扉を閉めた。
これで彼女と二人きりである。やばい緊張してきた。
「……たとえ勝ち目がないと分かっていても私は諦めません。私の力では貴方に傷の一つも付けられないでしょうが最期まであがいてみせます!」
彼女は武器である杖を掲げて光の中級魔法を放つ。
「……って、ちょっと待ってください。タンマ、タンマ!」
俺は別に彼女と闘いがしたいわけじゃない。
彼女の魔法を掻き消し、手をあげてアピールする。
「……なんですか。私を油断させる罠ですか?そんなことしなくても貴方は私を殺せるでしょう」
「いや、違うんですよ。本当に」
俺は――
「ならなんですか?ヒーラーである私に残れということは、この先に罠でも仕掛けていてジワジワとみんなを痛め付けて殺すつもりとかですか!」
そんなまどろっこしいことはしない。
「殺すつもりなら最初にそうしてる。俺は君に用があったんだ」
俺はただ――
「では私だけ殺すとか」
「一目惚れしました。俺と付き合ってください」
告白したかったんだ。
「は!?」
言い切った俺はスッキリしていた。
一方彼女は状況についてこられず呆然としていた。