シュペックカルトッフェル
タイトルはいわゆるジャーマンポテトのことです。
ちいと直也が同棲中のひとコマになります。
完全なパラレルワールド展開です。
「ちい、お前ドイツ料理って作れるか?」
「いきなり何ですか。直也さん」
「なに、10月と言えば現地ではビール祭りじゃないか。うちでもやるぞ」
いきなり帰ってきてから開口一番に宣言するのは、高校卒業から付き合い始めた直也さん。
元々小学校から同じだから面識は古い方だ。
高校時代は生徒会長の彼女がいたのに、いろいろあって別れたらしい。
高校の卒業式の時に告白されてから付き合い始めて早2年半。
今は二人で一緒に暮らしている。
「ドイツ料理と言えば、ハンバーグもそうですし、日本で言う所のジャーマンポテトもそうですよ。名前は違うんですけどね」
「そっか。お前語学はドイツ語か」
「えぇ。シュペックカルトッフェルって言うんですよ。それにザワークラフトと田舎パンって所ですね」
「メニューは任せた。明日の夜はそれでいいぞ」
「今夜は…おでんなんですけどね」
「ちくわぶは入っているか?」
「入ってますよ。当然です」
「…だよなぁ。智の奴ちくわぶ嫌いだから入れると怒るんだよな」
「いいじゃないですか、とりあえず冷酒でいいですか?」
「お前はちゃんと分かってるな。ゆっくり食べれるな」
「もちろんです。すぐに用意しますよ」
私はお鍋からおでんの具を皿に盛り付けた。
「それじゃあ、今夜の飯は頼むな」
「分かりました。用意しておきます」
彼の大学の方が遠いので彼の方が早く家を出る。
私の方はと言えば、学園祭が近い為、今週末まで授業がなく、自由登校になっている。
「さてと、ドイツ料理って事は…キャラウェイシードは必要だから…デパートの食材屋さんがいいかな」
私は家事を一通り終わって時計を見る。時間は午前9時。デパートは10時開店だ。
一通りネット等で調べ物をして、買い物メモを書いてから私は家を出るのだった。
「ちい?俺だ。今から帰るな?」
「分かりました。直也さん。今は学校ですか?」
「あぁ、そうだ。お前ら五月蠅いな。ちょっと黙れよ」
直也さんは学校からかけているみたいで、周囲が騒々しい。
どうやら、彼は私にしている帰るコールでからかわれているみたいだ。
「とにかく、ビールは買って帰るから。愛してるぞ」
ぶっきらぼうに言いきってから、プツリと電話が切れてしまった。
それが彼らしいのだが、人前でもそんなことを言える彼が羨ましい。
私もそんな彼に気後れしないで立てるような女性になりたい。
「帰ったぞ」
「お帰りなさい。すぐに食べれますよ。どうします?」
「そうだな。今夜は…いいだろう?」
「いきなりそこですか?」
「だって、お前は俺の何だ?」
「婚約者…です」
「だったら…夜のお勤め位はいいだろう?」
こうやって畳みかけて来る彼にはどうしても私は勝てない。
「ご飯食べてからです。いいですか?」
「そうだな。分かったよ。食べようか」
私達はダイニングに並べた料理を囲んで食べ始める。
「ドイツ料理は基本的には、シンプルなんだな」
「肉料理が多いんですけど、ブレーメンとかでは魚料理もありますよ。それに冬に食べる貯蔵食が発達してますから」
「ハムやソーセージだろ?」
「そうですね。後はマリネとかザワークラウトもその中に入りますね」
「今食べている肉料理は温かい料理と言われます。通常は貯蔵食を取る事が多いので、そう言った食事は冷たい食事といいます」
「冷たいからと言って生モノではないってことか」
「そうですね。食文化って面白いですね」
「そうだな。お前がいてくれるおかげで、ただの飯じゃなくって食事になるのだから」
「直也さん」
彼は大きな手で私の頭をくしゃくしゃと撫でてくれる。
昔から大好きな彼の仕種の一つだ。
「早く、お前を奥さんにしたいもんだな」
「そのうち…なります。けどそれは今ではないです」
「分かってるよ。こんな俺の為に料理を用意してくれるお前が愛おしいんだ」
「直也さんがにこやかに食べてくれるだけで私は十分幸せなんだから」
私は彼を見つめる。
「大丈夫。もっと俺が幸せにしてやるからな」
「はい、よろしくお願いします」
私達の夕飯は、彼の好きな時間。それは同時に私の好きな時間なのだ。
そうして時を重ねてい行けたらいいなぁとそんなことを考えていた。