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あなたとラザニア

次はりおとリョウの二人。この二人は夫婦設定になっております。


「りお。今夜のご飯は何が食べたい?」

「おいしいラザニアが食べたいなぁ…リョウ」

私が即答すると、彼は少しだけ溜め息をついた。

「そんなにイタリアンファンタジーの乙女げーは楽しいのかい?」

「うん!!でも、一番愛しているのは、リョウだもの。で、今夜は?」

「はいはい、ラザニアだね。いいよ。折角だからリストランテっぽくしようか。俺も今はそんなに忙しくないから」

「本当?私の方が〆切りに追われているって事?」

「りおの場合は…絵本の方が大詰めだろ。今夜は僕が作るから。肉でいいだろ?」

「そこはリョウに任せるわ。買い物に行く時は教えて。私、画材を取りに行きたいから」

「分かったよ。じゃあ行けるようになったら呼べよ」

私達の朝食での会話は専ら夕食のメニューの話。

私達は料理は嫌いじゃないから、一緒に作る事もあるけれども、どちらかが忙しい時は別。

今は私の方が忙しいから、今夜は彼がイタリアンで作ってくれるそうだ。

まぁ、先週は彼の方が忙しくって、私が専ら用意していたんだけども。



高校で彼と知り合って、自分達の夢を確立して夢に共に進もうと決めた。

高校在学中からティーンズ小説作家として活動している彼の夢は喫茶店の経営。

一方の私は、絵本作家になることだった。

彼の小説の挿絵を書くようになったのは、私が大学進学が決まった頃からだ。

それまでは文芸部で彼が書いているファンタジー小説の挿絵は書いていた。

それを出版社に見られてそれ以降、ずっと挿絵を書いている。

たまに、他の作家さんの仕事を受け入れることはあるけれどもメーンは彼だ。

大学入学から私達は同居を始めた。

一緒に仕事をするから一緒に暮らした方がいいだろうという彼の提案の受け入れた形だ。

もちろん、家族ではないので、最初のうちは喧嘩もした。

けれども、結局はそのことで絆が深まって、計画していた入籍のペースが若干早まった。



彼の妻になって2年。

彼の方は、じぶんの夢を叶える為の準備を始める為に仕事を少しだけセーブし始めた。

彼は、大学に通いながら調理師の免許を取っているので、場所が揃えば店は持てる。

ようやく自宅からほど近い所に店を持ちたいのだが、私達の住む土地ではそんなに空き地はない。

なので、のんびりと彼は構えているようだ。

私はスケッチブックを片手に、近くの公園でスケッチをしに行くことにした。

書斎にいる彼に声をかけてから、私は自転車に乗って公園に向かう。

折角だから、もう少し足を延ばして久しぶりに実家に戻ってみようと思う。

高校の頃は、緩やかな上り坂を上って学校まで自転車通学をしていた。

雨の日は彼の家の前からバスが乗れたのでバス通学にしていたのだ。

きっかけは私の勘違いから始まった私達の関係は今でも仲間たちの笑い話になっている。



昔も今も彼はマイペースに過ごしている。

今の方が更に拍車がかかってしまったかもしれない。

そんな彼といる時間は私にとっては居心地が良くって現在に至るわけだ。

彼と付き合いだして8年。ドンドン素敵になる彼に私はまだドキドキしている。

そんな事を夫は多分知らない。私だけの秘密だから。

最初はどんどん先に進んでいく彼に着いていくだけで必死だった。

けれども、ちゃんと彼は待ってくれる。今はようやく彼の横を歩いているのだろうか?



私は公園の芝生広場に向かって、デッサン画をかき始める。

今回の絵本の方は原稿が終わっている。後は編集さんに渡すだけだ。

今私が手掛けているのは、次の作品だ。

幼児向けの、のびのびと育ってほしいと思えるような絵本を書きたくて公園に来た。

梅雨時前の5月の空は少しだけ陽射しは強いけど、風に揺れる緑の音が心地よい。

何か…イメージが浮かんだ気がする。

私はメモ帳を取り出して、思い浮かんだイメージを書きとめた。

暫くデッサン画を書いた後、私は実家に電話をかける。

残念なことに実家は留守番電話になっていた。

私は実家に寄るのを断念して自宅に戻る為にペダルをこぎ始めた。



「ただいま、リョウ?いる?」

「りお。書斎にいるよ。おいで」

私は自宅に戻るとまずは夫に呼び掛ける。

彼がいる書斎に私は向かう。

「デッサンは書けたかい?」

「うん、次のイメージができたんだ」

「どんな話になるんだい」

「風が主人公にしてみたいなぁって。難しいかな」

「思った通りに書いてごらん。りおなら出来るから」

「リョウは本当に私が不安な時に引き上げてくれるね。夕ご飯、私も作るよ」

「それじゃあ、そろそろ出かけますか?」

「うん、カルパッチョは鯛がいいなぁ」

「それとミネストローネ。肉は何にしようか?」

「ミラノ風カツレツでいいんじゃない?こないだ生パン粉冷凍したよね」

「そうだった。だったら、自然解凍させておくか」

「ラザニアの他は何がいい?」

「ご飯が少し残っていないっけ?リゾットにしない?」

「なんか、残り物も使おうと思ってないか?」

私は一瞬ぎくりとする。実際はその通りだから。

「いいじゃない。明日は買い物に行かないから、明日食べたいものも考えてね」

「明日かぁ…久しぶりにとんかつ食べたいなぁ」

「分かった。ついでに豚肉買って帰ろう」

私達は支度をして、買い物に出かけることにした。



「ちょっと早いけれども、ご飯の支度をしようか」

「いいね。のんびりとご飯を食べるのは久しぶりね」

「そうだな。先週までは俺が〆切りに追われてたからな」

「暫くはゆったりとできるんでしょう?」

「まぁな。さあ、まずはミートソース作りますか?」

「それと同時にミネストローネの野菜を切るね」

彼は、ひき肉を取り出して、トマトソースの缶詰を開ける。

一方の私はニンジンと玉ねぎをみじん切りにしていく。

私が冷え症なのを気にして、彼はサラダをあまり取ろうとしない。

たまには野菜サラダも食べたいんだけどなぁ。

カルパッチョに生野菜を多めに入れるしかないんだろうな。

私はみじん切りにした野菜を彼の側に置いておく。彼はフライパンでひき肉を炒めている。

「ありがとう。次はミネストローネの具材を頼むな」

私は棚から大豆の水煮缶とひよこ豆の水煮を取り出す。

冷蔵庫から、セロリと人参と玉ねぎとジャガイモとベーコンを取り出した。

一口大に切った野菜をボールに、ベーコンは小皿に移した。



その調子で、徐々に下拵えをしていく。

カルパッチョの方は皿に盛り付けてラップをして冷蔵庫に入れた。

今は、カツレツの下拵えだ。今夜はカツレツなのに、明日はとんかつでいいのだろうか?

「リョウ?今日はカツレツで明日はとんかつでいいの?」

「うん。明日はかつ丼が食べたいんだ」

「それなら…被らないわね。その代わりに野菜が足りないわ。どうしよう?」

「冷蔵庫に残っている野菜を炒めたらどうだ?」

「そうだね。それなら問題ないね。それじゃあ、リョウ。後は私がキッチンに立つけど…いい?」

「ありがとな。ラザニアの方は後はオーブンに入れるだけだから。そっちは俺がやっておくよ」

「それじゃあ、よろしくね」

私も料理は好きなのだが、両親が多忙で中学生のころから夕飯を作っている彼には敵わない。

けれども…和食はどうも苦手なようだ。

私は祖母から仕込まれたのが和食だから丁度いいのかもしれない。



「流石にドルチェはいらないよな」

「そうね。これだけの量を食べた後は無理よ」

「さあ、出来上がったから、並べて食べようか?」

「今日は天気もいいし、風も気持ちいいから…外のテラスでどうかしら?」

私は時計を見て彼に提案する。時間は午後5時半。

徐々に暗くなるけれども、ランタンがあれば十分だ。

「分かったよ。それじゃあ、俺は外の方を準備するからよろしくな」



「いただきます」

外のテラスは風が少し涼しいけれども、たまに食べるには丁度いい。

「召し上がれ。今日は珍しく気合いを入れてしまったな」

「いいんじゃない?そんな日があったって」

「先週は久しぶりにカップラーメンにしたから…ちょっと気になってな」

「嫌だ。私カップラーメンもたまにはいいと思うわよ」

「私達の仕事は、完全に引きこもり方だから。外に出て刺激を受けないといけないわ」

「俺の店が出来れば、引きこもる事はなくなるさ」

「あんまり変わらないと思うわよ。…で、土地の方はどう?」

「何か…歩美先輩の家の方まで出れば物件があるらしいんだ」

「そうなんだ。少し遠いけど、集客は見込めるわね」

「明日、その物件を見に行くんだけども、りおも来るかい?」

「いいの?」

「当然。共同出資者だろ?」

「そうでした。ようやく管理栄養士の知識が使えるのかしら?」

「とりあえず、店の予算をオーバーしたら、また仕事を増やせばいい」

「私聞いていないんだけども…店の予算にいくら使う気なの?」

「一応…石窯入れたいからそれなりにかかると思うだろうけど、今までの収入を運用していたから平気さ」

我が家の収入は彼と私の印税を元に投資会社で運用して貰っている。

運用しているのは、彼の父で印税よりも運用益の方が上回る事が多い。



「楽しみだね。もうすぐ夢が叶いそうだね」

「そうだな。店の話が軌道に乗ったら、俺は忙しくなるからサポートをよろしくな」

「出来る限り支えますよ。それにしてもリョウのミートソースはいつもおいしいよね」

「少しだけナツメグを入れてあるんだ。これは母さんに教えて貰ったんだけどね」

彼の母も彼と同業者で今は夫婦で都内のマンションで暮らしている。

私達が住む家は元は彼の両親が立てたものだ。

「りお…ありがとうな。俺の我がままに付き合ってくれて」

「リョウはそんなに我がままなんて言わないでしょう?」

「いや、これからが俺の我がままだろう?」

「いいのよ。今まで言っていないんだもの。もっと言っていいのよ」

私は彼に微笑む。

「だったら…少しだけ甘やかせて貰おうかな」

彼ははにかんで微笑み返す。その笑顔は何年たっても変わらず私はときめいてしまう。



「りお?もしかして…」

「リョウのその笑顔は反則!!ずるい!!」

「いいだろ?お前は俺の奥さんだろ?お前だって同じ時があるんだからさ。ところで、今夜は…いいだろ?」

「いやって言うのは?」

「もちろん、認めません」

彼は私を引き寄せて、顔を近づける。私は目を閉じて彼を受け入れることにした。


ラッザーニア♪…これが言いたかっただけさ。いいのさ、おいらアホな子だもの。

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