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勝負飯はチャーハン

バザー当日のトムトム家の模様です。ほぼ…事実…です。

いつもはこんなリッチな朝ごはんではないです。

「当日になっちゃった。やるだけやりますか」

私は頬を軽くは炊いてから起き上がった。

5カ月かけて準備した小学校のバザー当日。

生徒数が多かった頃の規模で運営していたバザーを今年は思い切って縮小することに決めた。

いつか誰かがやらなくてはならない事をやることに関しては絶えずプレッシャーがのしかかっていた。

けれども、一部の役員さんたちの協力でどうにかこうにか前日準備まではこれといった問題はなく済んでいる。

私達バザー企画部には届いていないけれども、学校側にはクレームが届いているかもしれない…そんなことをぼんやりと考える。



PTAを冠としたイベントでもっとも大きいものはバザーしかない。

今の時点で来期への課題は見えている。

とりあえず、今の私達の力では現状が限界だ。

言える事は、子供たちの為のバザーときっちりと目的を掲げた。

地域交流というのなら、そこはまた別の問題が起こってくる。



焼き鳥を焼く地区は800本を朝8時から焼くと言う事で、バザー企画部としてはその前に学校内にいた方がいいだろうということになり、部長と副部長である私は8時前に学校にいることになっている。

私自身、子供たちが家を出たらほぼ同時に家を出る予定だ。

今の時間は朝の6時。今の所天気は良いらしい。バザー日和という事らしい。

後は大きなトラブルが起こらない事を祈るのみだ。



「朝ごはんはしっかりと食べないといけないね」

私はキッチンに立つ。今朝は5時から起きて家事を済ませている。

後は朝食と留守番になる父の昼食の用意のみだ。

まずは、昨日の夜にスーパーで買ったブリを照り焼きにする。

隣の鍋では鳥の手羽元を1時間かけて弱火で甘辛く煮付けている。

ぶりを皿に移してから、フライパンを一度洗う。

鶏肉も煮汁を残して皿に盛り付ける。

次に、裏庭から取ってきて水洗いをした大根の葉の部分を細かくみじん切りにしてからフライパンでしんなりするまで炒めてから煮びたしにしていく。

大根の先の部分はブリの照り焼き用の大根おろしに取っておいて、残りを皮をむいてからイチョウ切り。

鶏肉の煮汁に入れて弱火でじっくりと煮込んでいく。



「おかずはこんな所かな。さてと、ご飯を作りますか。父さん、後5分したら坊主たちを起こしてね」

私は卵を取り出して、炒め鍋に油を引く。

冷凍のミックスベジタブルを入れてから割りほぐした卵を簡単に火を通す。

半熟になった所にご飯を入れてかき混ぜる。

塩・胡椒をしてから、最後は醤油を回し入れてから、ご飯に味が馴染むように鍋をふる。

「朝ごはん終了」

手早く更に分け入れてから、私は子供たちを呼ぶことにした。

「あきら、トム、御飯だよ」

学校行事の当日の朝は、手を抜くために朝はチャーハンを作ることが我が家の定番になっている。

父の昼食は昨日の夕食の時に作り忘れたからおまけだったりする。

醤油の焦げた匂いにつられたのか、寝ボケ眼な状態でようやく二人が起きてきた。



「はい、おはよう。ちゃんとご飯食べなさいね。父さん、作ったのは今日のお昼も兼ねているから。足りないものがあればベイシアで買ってきてね」

「これだけあれば十分。悪いな」

「今夜も遅くなったら悪いからさ。留守番よろしくね」

「いっただきまぁす」

あついものが平気なとむはふうふうと言いながら食べるが、猫舌のあきらは必死になってご飯をかき混ぜる。

「かあちゃんは、今日はどこにいる予定なの?」

「決まってはいないんだけども…体育館と家庭科準備室の間を行ったり来たりしてる」

「成程ね。父ちゃんは来るわけ?」

「大丈夫よ。ちゃんと来るから。安心しなさい」



子供たちはバザー前の授業参観が気になるようだ。

バザー企画部副部長な私は今日はフル稼働なので、子供たちを見る事は断念して、代わりに離婚した元夫に参観をお願いしている。

当の元夫も楽しみにしているようなので、後はクラス担任に任せることにした。

ふと、時計を見ると時間は7時15分を示している。

私は手早く自分の支度を終わらせて、子供たちの着替えを用意する。

子供たちに着替えを出した事を伝えて、髪の毛をまとめる為に洗面所に向かった。

髪をまとめ終わった私は、ようやく食卓について少しだけおかずをつまむ。

いつもは朝食を取らないのだが、今日はそうはいかない。

PTA副会長だった去年は忙しいと言いながらも、昼食を食べる時間を確保できたが、今年はそんな余裕のある時間は確保できない。

模擬店の業者の搬入が終われば、当日扱いの食券売り場の設営もしなければならないし、後片付けの手順の指示出し確認もしないとならない。

この調子だと、バザーが始まる直前まで何かをやらないといけないだろう。

むしろ、細々とした作業が山の様に残っているような気がした。



とりあえず、子供たちは出かける5分前にようやく学校の支度が終わる。

再び食卓について、子供たちの残したチャーハンを食べようかと思っていた。

けれども、子供たちはランドセルをしょったままテレビを見ている。

「あれ?あんた達、時間はいいのかい?」

「あぁ、また集合時間が遅くなったんだよ」

あきらがのんびりと答えた。

息子よ…そういう大切なことはちゃんと報告して下さいな。

「そのことは聞いておりませんが?」

「言うの忘れてたよ。ところで、今日みたいな日はチャーハンって大変じゃないの?」

「そう?目玉焼きを焼くのとそんなに変わらないと思うよ。今夜は父ちゃんの所に泊るんでしょ?」

「うん。そのつもりだよ。着替えは?」

「ちゃんと、用意してあるよ。玄関に置いてあるから」

「ありがとう。父ちゃんにメールしておいて」

「了解。そろそろいってらっしゃ…とむ?何してるの?」

「母ちゃん…鶏肉うまい。大根もうまい」

さっき、歯を磨いたはずのとむは再び鶏肉にかぶりついていた。

「また、煮てあげるから、もうだめ。もう一度歯磨き」

私がとむを窘める。

納得はしていないみたいだが、もう一度歯を磨きに洗面所に戻って行った。

「あきらのチャーハンの残りは貰っていいか?」

朝から父さんもチャーハンが食べたいらしい。あきらの残りは冷め切っておいしくないはず。

「新しいの作るからいいよ。すぐにできるから」

私はキッチンに向かって再びチャーハンを作り始めた。

「あきらの残りはどうするんだ?」

「今日はお昼がどうなるか分からないから、食べて行くから」

「悪いな」

「いいえ。準備で父さんにも迷惑をかけたしね」

9月になってから、ほとんどを準備で学校にいっていたので、父にも迷惑をかけてしまっていた。

今日が終われば残りは引き継ぎの資料作成がメーンになるからそんなに学校にいる時間はないはずだ。



「良かったな。今日の天気が良くて」

「そうだね」

「役員、お疲れさん。今年は何時になりそうだ?」

「そうだね、とりあえず6時には帰るぞを合言葉にしているんだけど…ね」

「そっか。無理するなよ」

「はい、父さんの分ね。残り食べて私も行くから」

私は残っているチャーハンを食べ始める。子供の残りだからほんの数口分だ。

食べ終わってから、歯を磨いてエプロンを身につける。

ほんの少しだけ身が引き締まった気がする。



「行ってきます」

「ああ、気をつけてな」

今日が終われば、今までのゆったりとした日常が戻ってくる。

それだけが今の私を支えているのかもしれない。

「やるしかないか」

私は自転車のペダルを漕ぐ足に力を入れるのだった。

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