第3話 徘徊僧
体験者 由良耕作 (30)
かなり昔のことなので曖昧なのですが、私が高校生の頃なので、15年程前でしょうか。
私は家庭の都合で、中学校卒業と同時に祖父の家へ引っ越すことになりました。
おじいちゃんの家というと、古民家のようなものを想像しますが、そこはなんてことはないありふれたマンションの一室で、よく遊びに行っていたため慣れた場所でした。
バブルの頃に建てられたマンションで、老朽化こそしていましたが、部屋が一階ということもあり、比較的住みやすい物件です。
初めこそやや慣れない感じはしましたが、1週間もすればすっかり住み慣れた我が家のように感じるようになっていました。
その頃からです、私の意思とは裏腹に、身体は環境に適応出来ていなかったのか、なかなか眠れない日が続くようになりました。
時には金縛りのようになることもありましたが、単に意識だけが目覚めてしまっているといった感じで、幽霊が現れるとか、何かに触れられるなんてこともなく、仮に金縛りになっても時間が経てば収まるだろうと考えやり過ごしていたのを覚えています。
そしてそんな日々が続き、5月に突入しました。
高校生活にも新しい家にもようやく慣れた頃、その日が金曜日だったこともあり私は夜ふかしをしていました。
0時を回り、そろそろ寝たほうがいいかな、などと思いつつ、買ってもらったばかりのスマホをいじっていると、聞き慣れない音が耳に入ってきました。
遠くの方で錫杖をつくような、シャンシャンという音が鳴っていたのです。
何だろうと意識を集中すると、その音は段々と大きくなり、私の方に近付いてきていることに気が付きました。
とはいえ私は明るい部屋の中、それほど恐怖を感じることはなかったものの、なんとなく身動きを取る気にはなれず、じっと耳を澄ませていました。
シャンシャン、シャンシャン。
音はついに我が家の目の前の道を通り過ぎようとしていました。
私の部屋は一階ということもあり、窓を開ければその正体を確かめることが出来ました。
ですが、なぜかどうしても身体が動かなかったのです。
恐怖心だったのか、本能的にカーテンを開けてはいけないと感じたのか、今となってはよく分かりませんが、私はただそれが通り過ぎていくのを待つことしかできなかったのです。
私はこの出来事をずっと忘れることができず、かといって誰かに話す気にもなれず、10年以上が過ぎました。
ある日私がSNSにこのことを書き込むと、全く同じものに遭遇したという人が何人も現れたのです。
ですが、遭遇した時期や場所はどれもバラバラで、同じものなのか違うのかさえ、曖昧なままとなっています。
深夜に錫杖をつきながら僧が徘徊するとも思えません。
やはりこの世には何か人ならざるものがたしかに存在する、私にはそう思えてならないのです。




