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第1話 カラオケバイト

体験者 木戸修司(19)


都心からやや離れた駅のすぐ側、徒歩5分もしないところに僕の職場であるカラオケ屋さんはありました。

いわゆるビルイン型店舗で、1階に受付やキッチンと小さめの部屋が6部屋、2階にも同じようなサイズの部屋が10部屋。

駅前の店舗ということもあって、週末は常にほぼ満室。

そんなお店ですが、お客様を入れることが少ない部屋というのもありました。

それは、地下1階にある大部屋です。

団体客が来たときように空けておく必要がありますし、大き過ぎる部屋は嫌だというお客様も一定数いました。

階段を降りてからその部屋へと向かう廊下は、地上階に比べると薄暗く、気温も低かったことを覚えています。

とはいえ働き始めの頃の僕はまだ高校生で、勤務時間が短かったこともあり、その部屋へ立ち入る機会自体僅かなものでした。

強いて言えばフードメニューを何度か運ぶことがあった程度で、広い部屋ということ以外何の印象も抱いていなかったと思います。

ところが働き続けて1年が経ち、僕が大学生になった頃には、地下へ降りる機会も増えていきました。

というのも、大学生になった直後、店長からある提案を受けたのです。

「木戸くん、もう深夜働いても大丈夫な年齢だし、夜勤のシフトも入ってくれないかな?」

正直翌日に支障が出るのは嫌でしたが、深夜手当がつくこともあり、渋々了承しました。

どうやら夜勤の人はあまり長く居付かないらしく、人手が足りなかったようなのです。

それから何度かベテランの人と一緒に入って夜勤の仕事を覚えると、段々とら1人で勤務する、いわゆるワンオペを行うようになりました。

そうなると当然、僕が機械の電源を切りに地下へ降りるようになるわけですが、特別変わったことはなく、平穏無事に過ごしていました。

そんなある平日深夜の3時過ぎ、お客様も1組だけになり、ただその人達が帰るのを待っていると、突如店内電話が鳴ったのです。

夜中でもフードメニューが注文されることはありますが、あまり多くはありません。

こっそりフロント近くの部屋のソファで横になりウトウトしていたということもあって、僕は慌ててフロントに行き受話器を取りました。

「はい、こちらフロントです」

しばらく待ってみても、相手は何も言いません。

「お客様、いかがなさいましたか?」

そう尋ねると、相手はボソボソとした小さな声で何かを呟きました。

「…ください」

もう一度お願いします、そう言おうとした矢先、電話は切られてしまいました。

何の注文だったのか聞き直すため、折り返し電話をかけようとした僕は、奇妙なことに気が付きました。

僕の働いていた店舗では、電話がかかってきた場合、それぞれの部屋に対応した赤いランプが点灯します。

慌てていたこともあって、その時は何も違和感を覚えてはいませんでしたが、あの時に点灯していたランプは、地下の大部屋のランプだったのです。

その事実に気が付いた瞬間、背筋が凍りつき、折り返しかけようと手に持っていた受話器を勢いよく戻しました。

無かったことにしよう、そう思いましたが、何かのエラーが起きていただけで、今いるお客様からの注文だったのかもしれません。

受話器に触れる気も起きなかったため、仕方なく部屋へ行き、電話をかけたかどうか尋ねましたが、お客様はキョトンとした様子でした。

「失礼しました、別のお部屋からのお電話だったようです」

そう誤魔化してフロントに戻りましたが、正直その時はすぐにでも逃げ出したい気持ちでいっぱいでした。

不審者がいる可能性も考慮するのであれば、しっかりと確認に行くべきだったのでしょう。

ですがその時の僕にはとてもそんな勇気はなく、お客様が帰ると同時に急いで締め作業を終えると、慌てて家に逃げ帰りました。

翌日、やはりというかあれは不審者などの類ではなかったようで、何事もなかったかのように開店していました。

ですがその後僕はもう夜勤に入る気になれず、しばらくして店長に直接辞めさせてくださいと伝えに行きました。

僕の様子を見て何かを察したのか、それとも皆同じ理由で辞めていくからなのかは分かりませんが、退職理由を深く聞かれることはありませんでした。

もしあの時部屋に行ったらどうなっていたのか。

電話の主は一体何を求めていたのか。

今となっては知る由もありません。

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