第5話 孵化!?
陸斗が竜帝プロクスと出会ってから、更に2、3年程が経った。
それ以降は、特に何かと出会う事も無く、ただひたすら毎日『炎纏い』を使い続けるだけの日々だった。
『変化が無くて面白くないですねぇ……』
『いや、人の人生に面白さを求めないで下さい?』
『人生じゃなくて竜生じゃないんですか?』
『揚げ足取りはいいですから……』
ついでに、神とこんな雑談をする日々だった。
そんな、何の変哲も無いある日の事だった。
ピシ。
(ん……? 何の音だ……?)
これまでの生活では、一度も聞いた事が無い音が響いた。
ピシ。
再び、同じ音が鳴る。
『え……これ、一体何の音ですか?』
『その内分かりますよ』
『えぇ……?』
神は既に何が起こっているのか理解しているのか、完全に達観してしまっている。
ピシ。
またもや音が鳴る。
ピシ。
ピシ。
(あ……!)
ここまできて、陸斗も理解した。
これは、この音は――。
『おめでとうございます。孵化、ですね』
神の言葉と同時に、卵の殻が綺麗に真っ二つに割れた。
嬉しい、嬉しいのはあるのだが……陸斗には、ツッコミたい箇所があった。
『いや……この孵化の仕方、おかしくないですかね……? 地球の鶏とかだって、嘴打ちって言って自分で殻を割るんじゃ……?』
『地球の生物とこちらの生物を一緒にしていては、これから先ずっと疑問に悩む事になりますよ』
『…………』
(仕方が無い、魔法的なものだと思おう)
陸斗は理解を諦めた。
ともかくとして……これまでずっと暗所に居たので、まだ目を開けていない。
決心をした陸斗は、ゆっくりと目を開けた。
太陽の光。森の緑。木の茶色。
感覚的には数年振りに見る、自然の景色だった。
『……綺麗だ』
思わず呟いてしまう程には、陸斗は景色に感動していた。
『綺麗ですねぇ』
神も陸斗と同様の気持ちなのか、陸斗の言葉に同意してくれた。
しばらくの間、言葉も出ない程景色を堪能した後、陸斗は自分の体を確認した。
(ドラゴンである以上分かってはいたけど……腕じゃなくて翼なんだなぁ)
人の体と違うと何かしら違和感を感じると思っていたが、不思議と何も考えず自然に翼を動かす事が出来た。
腕ではないとはいえ、爪などはあるので、物を持ち上げたりする事は出来る。
まだ全長1メートル程の小さな体だが、問題無く移動出来るだけでも、充分ありがたい。
そして、好きに移動出来るとなると……陸斗には、一つやってみたかった事があった。
(空を……飛ぶ!)
空を飛ぶ事は人の夢である、と言っても過言では無いだろう。
ライト兄弟だって飛行機を作って空の夢を見たし、現代では移動手段として飛行機が広まっている。戦争においても、ヘリコプターや航空機といったものは、大変多くの場面で利用されている。
だがしかし……生身で空を飛ぶ事は、人には出来ない。
グライダーなどを使えば滑空は出来るが、鳥のように自由自在に飛翔する、とまではいかない。
それが、ドラゴンなら……。
陸斗は、翼をはためかせた。
飛び方なぞ知らないが、ドラゴンとしての本能が、勝手に体を動かした。
バサリ。
(お、おお……!)
体が浮いた。
数十センチ程だが、確かに地上から浮いている。
しかし……本能で分かる。
あまり高くは飛べない。
『これ以上飛ぶには、どうすればいいんですか?』
多分、今の陸斗が飛べるのは、1メートル半かそこらだ。それ以上は飛べないと、本能が訴えかけている。
分からない事は、神に訊けばいい。ここ数年で陸斗に染みついた習慣だった。
『成長を待つしかありませんね。もう十年か二十年もすれば、自由に飛べるぐらいまで成長する筈ですよ』
『また成長ですか……』
孵化の次は、成長を待たねばならない。
少し飛翔出来て自由に移動出来るだけでも、環境は大きく違うと考えるべきか……。
『ちなみに、成竜になるまではどれくらいかかるんですか?』
『まあ……短くて五十年、長くて百年程ですかね? 個体差や種族差などもありますので……一概に竜と言っても、色々違うんですよ』
『なるほど……』
最大百年とは、かなり大きい数字だ。
人の一生に近い年月。陸斗には考えられない、膨大な時間。
(まあ……なるようになるか)
最初は十年と聞いて驚いた孵化までの時間も、短縮法を考えたりしている内に、気付けばあっという間に過ぎ去っていた。
せっかく強い種族であるドラゴンに転生出来たのだし、人生……いや、竜生を楽しもう。
陸斗はそう決めると、森の中を低空飛行し始めた。
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