第4話 竜帝!?
(『炎纏い』)
またもや数か月――いや、数年かもしれない……――が経った。
その間、陸斗はひたすら『炎纏い』のスキルを使い続けているだけだ。
一日中『炎纏い』を使い、神との会話の時間には、気になった事を訊いたり雑談をしたりする。それの繰り返しをしている内に、いつの間にかかなりの月日が経っていた。
(転生してからどれくらい経ったか分からないけど……意外と、時間の流れって早いものだなぁ)
そんな感慨を抱きつつ、『炎纏い』の制御をしていた時だった。
バサリ。
明らかに、平常時では聞こえない音が聞こえた。翼のはためく様な、そんな音。
バサリ、バサリ、という音が断続的に響いた後、最後にドシン、という重い音が鳴った。何かが着地した音だろう。
(……なんなんだろう。大型の魔物か何か? いやでも、神様は魔物は寄って来ないって言ってたし……)
神の話では、魔物や動物は卵からでもドラゴンの圧を感じるので、基本的には近寄ってこないという事だった。
ならば、先程の翼の音や着地音は一体……?
取り敢えず、陸斗は『炎纏い』を解除した。
それなりの時間使い続けているので、このままだと肝心な時に使えなくなるかもしれないからだ。備えあれば憂いなし、である。
それが、いけなかったのかもしれない。
(――うわぁっ!)
突然、浮遊感を感じた。
何かに卵が持ち上げられている。
そう感じた途端、陸斗は再び『炎纏い』を発動した。
何かの生物であれば、熱量から火傷なりなんなりを負う筈だが――陸斗が『炎纏い』を発動した結果起きたのは、そんな事では無かった。
『……もしや貴様、自我があるのか?』
神と話す時の様な感覚。
陸斗の脳内に、声が響いた。
しかし、その声は神の声では無い。神の様な女性的な声では無く、どちらかと言うと男性的な低音だった。
取り敢えず、いつも神と話す時の様にして、言葉を返してみる。
『えっと……聞こえますか?』
『おお、念話まで使えるのか……なるほどな、道理でスキルを扱えている訳だ』
この会話方式は、念話と呼ぶらしい。陸斗は初めてそれを知った。
……今はそんな事よりも、目の前の相手に訊かなければいけない事がある。
陸斗は、自分を持ち上げている存在が一体何なのかを訊いた。
『あの……貴方は、一体誰なんですか?』
『ああそうか、卵の状態では外が認識出来んか……。我は貴様と同じドラゴン、その中でも竜帝と呼ばれる存在だ』
『竜帝?』
神との会話の中でも、聞いた事の無い単語だ。
ただなんとなく、陸斗は強そうなイメージを抱いた。
『そうだ。世界に五体しか存在しない竜帝の一体、それが我だ』
『ほ、ほう……それは凄いですね』
具体的にドラゴンが世界中に何体居るのか、陸斗には分からない事だが、それでもその中で五体というのは凄い事なのだろう、という事は分かった。
『我は、ここでドラゴンの卵が見つかったという噂話を聞いたとの情報があり、ここまで飛んできたのだが……それは貴様で間違い無いか?』
『えと……恐らく、そうだと思います。少し前に、一度人間と遭遇したので』
『ほう、まだ卵なのによく撃退出来たな』
『ああ、それは、『炎纏い』があったので……』
『ふむ……なるほど、それが貴様のスキルか。まあ、我には効かん様だが……』
『……そうですね』
竜帝とやらがこちらに敵意を抱いていない事は分かったし、どちらにせよ陸斗の『炎纏い』は通用しないので、陸斗は『炎纏い』を解除した。
『危険な状態の様なら保護する事も考えていたが……その様子であれば、問題無さそうだな』
『ま、まあそうですね……最悪、何かあっても『炎纏い』で対処出来るとは思います』
『ふむ、近寄ってくる生物も人間だけだろうしな……強硬手段に出られない限りは、問題無いか』
強硬手段……卵の破壊、などだろう。
卵の入手が目的であれば、『炎纏い』で充分撃退出来るが、最初から破壊目的であればそれは難しい……という事を言っているのだろう。
『問題無ければよい……我は行くとしよう』
『え……あの、もう行かれるんですか? もう少し、話とか……』
『悪いが、我は忙しくてな……目的は達した以上、ここに長居する訳にはいかん。人間に見つかっても、面倒だしな』
神と同じく、ドラゴンも忙しいらしい。
竜帝は陸斗の卵を地べたに置くと、翼をはためかせながら言った。
『もしも何か困った事があれば、この大陸の北東部にある竜山を訪れるがよい。竜帝プロクスが貴様の悩みを解決してやろう』
『は、はあ……分かりました』
『うむ。それでは、さらばだ』
プロクスという名らしき竜帝は、短く別れの言葉を告げると、遥か彼方に飛び去っていった。
『まだ卵の段階で、竜帝との接触ですか……』
プロクスが飛び去っていった直後、いつもの様に神が突然陸斗に話し掛けてきた。
いつもの事なので、陸斗もツッコまない。
『竜帝って、そんなに凄い存在なんですか?』
それよりも、気になった事を訊く事にした。
『そうですよ。ドラゴンの中でも敬われる存在が竜王、その竜王を統べる存在が竜帝です。竜王はそれなりの数が居ますが、竜帝は大陸一つにつき一体しか居ません』
『という事はつまり、この世界には大陸が五つある?』
『その通りです』
地球は六大陸三海洋だったし、まあそんなものか……と陸斗も納得した。
(大陸一つにつき一体しか居ない、という事は……大陸の長みたいなものか。それは確かに、凄い存在だな)
恐らく、ドラゴンの頂点に立つ存在と言っても過言ではないのだろう。
陸斗は、それだけ凄い存在と知己を得られた事を喜んだ。
竜帝プロクスは、大陸北東部へと飛翔しながら、心の中で呟いた。
(卵の状態で自我があるドラゴンとは……竜神以来か)
竜神。
かつて存在した、全てのドラゴンの上位に立つ、ドラゴンの神。竜帝とは、その竜神の配下でしかない。
しかしその竜神亡き今、半ば竜帝がドラゴンの頂点となりつつある……。
(これは変化の予兆か? 面白くなってきた……久々に、他の竜帝へ使者を遣わすか)
竜神の死後、プロクスは他の竜帝とあまり連絡を交わしていなかったが……先程出会った存在は、久々に使者を送る程には、無視出来ないものだった。
(いやはや、実に面白い。楽しみだ……これから、世界がどう変わるのか)
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