第1話 孵化まで10年!?
黒、黒、黒。
目が覚めた陸斗の視界は、黒一色だった。
(……なにこれ、どういう状況?)
取り敢えず、体を動かそうとしてみるが、思う様に手足が動かない。
暗すぎてよく見えないが、どうやら長さが足りないらしい。
しばらく何か出来ないか模索した後、諦めた陸斗は、神と話すのを待つ事にした。
このままここでジタバタしていても仕方が無い、話す機会があるのならその時に訊こう……そういう考えの元、陸斗は行動を諦めた。
神との会話の機会が訪れたのは、陸斗が目覚めてから数時間後だった。
『あー、あー……これ、聞こえてますか?』
『はい、聞こえます』
まるでラジオのテストの様な声と共に、突然脳内に声が響いた。
若干驚きながらも、陸斗は問題無く返事を返した。
思考との区別が面倒だが、その内慣れていくだろう……。
『問題無く転生出来た様ですね』
『ええ、それはいいんですけど……これ、なんで真っ暗なんですか?』
『ああ、それは貴方が卵の状態だからですね』
『……卵?』
卵。
よく食べるあの卵?
陸斗は困惑しながら問い返した。
『はい、卵です。ドラゴンが卵から孵化するまでには……そうですね、10年程掛かる筈です』
『じゅ、10年!?』
まるで数分、とばかりにあっさりと言ってのけた神に、陸斗は驚愕した。
この真っ暗な状態で10年間……誰が言われても、驚愕するのは必至である。
『はい、10年です』
『いやいや……10年って、相当長くないですかね?』
『そうですか? 意外とあっさり経つものですよ』
『時間感覚が違い過ぎる……』
陸斗には神の寿命など計り知れないが、神の基準で言えば、10年は短いのかもしれない……。
しかし、陸斗は違う。
『人間からすれば、10年なんて一生の10分の1ですよ? 少し長すぎませんか?』
『でも陸斗さん、今ドラゴンですよね?』
『…………ちなみに、ドラゴンの寿命って、どれくらいあるんでしたっけ?』
『基本的には神やハイエルフと同じく無限ですね。殺されたりしない限りは、ですけど』
『…………』
なるほど、数万、数十万年をも生きる事が出来るのなら、確かに10年なんてあっという間……なのかもしれない。
しかし、陸斗の感覚はまだ人間である。
『あの、何か時短する方法とかって……』
『無いですね。……ああ、人に拾われれば、あるいは……』
『ほ、本当ですか!? 具体的には……』
『あ、すみません。説明したい所なのですが、時間が来てしまいましたので、また明日という事で』
『え、あの、それってどういう……』
その言葉を最後に、神はいくら呼び掛けても返事を寄越さなくなった。
あまりにも、時間が短い……陸斗の体感では、約5分程しか無かった。
一日真っ暗な空間で過ごして、ようやく得られる会話時間が5分……馬鹿げている。
しかし陸斗には、抵抗手段など無い。なんせ、卵なのだから。
諦めた陸斗は、狭い卵の中で眠る事にした。
狭い卵の中で寝て起きてを繰り返し、陸斗が脳内で一人遊びを始めた頃。
ようやく、二度目の神との会話時間が訪れた。
『昨日振りですね、陸斗さん』
『そうですね。……あの、あれ以上の時間は話せないんですか?』
『そうしたい気持ちは山々ですが、生憎とこちらにも仕事がありまして……』
(神でも、仕事に追われるのか……)
神の言葉のニュアンスが、あまりにも哀愁漂っていたので、陸斗は諦めた。
諦めて、昨日の話の続きをする事に。
『それで、昨日の話の続きなんですけど……』
『ああ、えっと、人との契約についてでしたよね』
『はい』
『そうですね、契約を行えば、拾われた相手次第では、数年単位の時短をしてくれる可能性はあります。ですが……』
たっぷり数秒程溜めた後、神は爆弾発言をした。
『卵の内は一方的な契約を結ぶ事しか出来ないので、不平等な契約を結んでしまう可能性が大きいです。例えば、一生服従、とか』
『え……そんなの、絶対契約出来ないじゃないですか!!』
『そんな事はありませんよ? しっかり信頼出来る相手であれば、問題無い筈です』
『会話も出来ないのに、どうやって信頼関係を築くんですか……今の俺に出来る事といえば、ぴぃぴぃ鳴く事ぐらいですよ。しかも、卵の殻のせいで、外に音は届かないし』
陸斗の身を覆う卵の殻によって、陸斗の小さい鳴き声は外に届かない。
また逆に、外からの音もあまり届いてこない。
たまに、狼の遠吠えの様な大きな音は聞こえてくるが、それ以外の音は陸斗に届かない。
『……ま、まあ、10年を過ごせば孵化するので……』
『ちょ、ちょっと、どうにかならないんですか!? 結構死活問題なんですけど!?』
『……あ、すみません。仕事があるので、今日はこれで失礼します。また明日』
『あ、ちょっと!』
後ろめたくなったのか、神はまだ五分が経過していないにも関わらず、一方的に会話を切った。
(え、嘘……このまま、10年……?)
碌に環境音も拾えず、弱々しく鳴く事しか出来ない状態で、10年?
陸斗は、絶望した。
神もどこか他人事の様な感じで、まるで相手をしてもらえない……。
(変化がある異世界なら少しは楽しいかもしれないと思ったけど……地球以上に酷いかも)
一日の楽しみが、神との五分間の会話のみ。
嘘だ……。
「ぴぃ……」
陸斗がどれだけ自身の境遇に絶望しても、口から漏れ出るのは小さな鳴き声だけだった。
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