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おっさんが雑魚キャラに転生するも、いっぱしを目指す。  作者: 愛自 好吾(旧月見ひろっさん)


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第10話 ザコキャラ転生 ⑨




 ここは裁判所だ、自分は今、裁判を受けている。


 あの後、気を失った自分は勇者に倒されるモノとばかり思っていた。


 のだが、その場に居た冒険者達がうまい事説明してくれた。


 何とか山賊として討伐されずに済んだのだが、勇者の鑑定スキルというのがあったようで。


 自分に犯罪歴がある事が判明。あえなく御用となった。


 気を失ったまま、山賊のアジトから程近い町へと護送され。


 駆け出し冒険者が集う町、クラッチへと担ぎ込まれた。


 そのまま衛兵に引き渡され、牢屋へと入れられ、裁判の日まで大人しく寝転がっていた。


 そして裁判の日、裁判所まで護送されながら移動し、裁判が開かれ現在に至る。


 町の中の裁判所という事もあって、傍聴人などは疎らだ。


 日本にある裁判所の事はよく知らないが、大き過ぎず小さ過ぎない建物のようだ。


 中も綺麗に掃除が行き届いている石造りの建物だ。


 裁判長が険しい表情でこちらを見据え、強い口調で言う。


 「被告人ジャズ、前へ。」


 「はい。」


 被告人席から、証言台みたいな部屋の中央にある囲いの所まで行く。


 両手はロープで縛られたままだ。


 裁判長がとても厳つい深刻そうな険しい顔で、罪状を読み上げる。


 自分は黙って聞く。


 「被告人、山賊団の一味として犯罪行為に加担し、また、無銭飲食や窃盗等の軽犯罪から傷害等の重罪まで、犯罪歴がある事を認めた。国内の平和に与えた不安や恐怖などは計り知れず、よってここに懲役五年。」


 (懲役五年か、長いなあ。まあ、しょうがない。今までのジャズとしての人生をとやかく言うつもりは無いが、今の俺はジャズに転生したんだ。ジャズとして生きていく為にも、これはやっておかないといけない事なんだろうな。)


 そう思っていたその時、不意に裁判長が「と、言いたい所だが」と話しを続けた。


 俯きかけていた自分は顔を上げ、裁判長を見た。


 険しかった表情が物腰柔らかなものへと変わり、優しくも厳しい表情へと変えていた。


 落ち着いた優しそうな、ゆっくりとした口調で、更に言葉を続けた。


 「………ジャズ君、君はまだ十九歳と若い。それに山賊を抜けて足を洗いたいと漏らしていたそうじゃないか。おまけに冒険者達の助けになるよう行動し、山賊の頭目に対して一矢報いたと報告書に書いてある。また、冒険者からの証言で人質救出に尽力したとある。」


 裁判長は微笑みながら、こちらに言い渡す。


 「よって、更正の余地ありとみなし、刑務作業有りの懲役四ヶ月を言い渡す。ジャズ君、しっかり反省し、きっちりと更正してきなさい。以上。」


 裁判長のこの裁定に、自然と涙が堪えきれず溢れてきた。


 泣き顔を見られたくないという恥ずかしさもあり、裁判長に深々と頭を下げ続けた。


 裁判所から外へ出て、刑務所へと護送される途中の事。


 どこかで見た事のある、武装した少女に呼び止められた。


 「ちょっと待って。」


 声のした方を見ると、ポエム砦で出会って、回復薬を飲ませてくれた冒険者だった。


 こちらへと近づいてきたので、取り敢えず挨拶をする。


 「ああ、その節はどうも。」


 「ガーネットよ。」


 「はい?」


 「私の名前。」


 「ああ、ガーネットさんですね、俺はジャズです。それで、俺に何か?」


 「ジャズね、ちょっとだけ時間あるかしら?」


 衛兵の方へ顔を向けた。


 衛兵はこくり、と頷いて「少しくらいなら」という表情でこちらに笑顔を見せた。


 「どうも。」


 衛兵に一礼し、少女冒険者の方を向く。


 「あのう、俺に何か?」


 ガーネットは一つ咳払いをし、ゆっくりと話し始めた。


 「あなたに伝言よ、ちゃんと報酬を貰っているから正式な伝言依頼ね。あの山賊に捕まっていた奴隷の娘からよ、いい? よく聞いてね。「助けてくれてありがとう、勇者様。」だ、そうよ。」


 「俺が勇者? はは、何かの間違いでしょう。俺はそんなんじゃないですよ、只の雑魚ですので。」


 なんだかこそばゆい。それにしても、そうか、あの娘も無事だったか。


 よかったよかった。こんな自分でも誰かの為になった行動をしたのは、なんだか心地いい。


 こっちが照れていると、少女冒険者はにんまりとした表情で、こちらの肩をポンと叩いた。


 「あなた、やっぱり山賊には向いてなかったわね。依頼も達成した事だし、それじゃあ私、もう行くわね。じゃあね。」


 そう言いながら、少女冒険者はハニカみ、町の中へと向かい、雑踏の中へと消えていった。


 それを見届けた自分は、また会えるかな? と思いつつ、衛兵に向かい「行きましょうか」と言った。


 衛兵も「もういいのか?」と訪ねてきたが、自分はこくり、と無言で頷いた。


 町の中をゆっくりとした足取りで、新たな一歩を踏み出す為、前に進んだ。


 今までのジャズとは別れ、これからのジャズとしての自分に、けじめを付ける為。


 さてと、それじゃあ行こうか。罪を償いに。なあ、ジャズ。………いや、俺。



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