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通過点の先へ

試合終了の瞬間、グラウンドは歓喜の渦に包まれていた。


スタンドには涙を流すファン。

グラウンドには、歓喜に咆哮する選手たち。

ベンチから飛び出した仲間が、次々と乃村監督に抱きつき、

そして――


「乃村監督!胴上げっすよ!」


気づけば輪になった選手たちの中心で、乃村監督が宙を舞っていた。

何度も、何度も――。

東京ドームの天井に届かんばかりの大きな弧を描きながら。


「ありがとなあ……お前ら……!」


グラウンドに降り注ぐ無数の紙吹雪。

スポットライトの下で、チームはひとつになった。


数時間後。都内のホテルに設けられた特設会場。


そこでは、ビールかけという名の“祝祭”が繰り広げられていた。


選手もスタッフも、誰も彼もがずぶ濡れだ。

雄叫びが飛び交い、瓶のラベルも剥がれ落ちるほど。


だがその喧騒の外で、酉谷だけが、ポツンと座っていた。

缶のスポーツドリンクを片手に、じっと仲間を見つめながら、

目には熱いものが浮かんでいる。


「くそ……嬉しいのに……俺だけ、ビールかけできねぇ……」


年齢制限。ルール。それでも彼は、仲間の中心にいたかった。

それでも――目の前の光景を、胸に刻んだ。





深夜2時。宴はようやく静かになり、選手たちは三々五々、部屋へと戻っていった。


その中にあって、ひとり廊下に佇む新城の姿があった。


部屋のドアを開けて出てきた村瀬が、それに気づく。


「……寝ないんすか、新城さん?」


「おう、浩か。

……ちょっと、風に当たりたくてな」


エレベーター脇の非常階段へと、新城は歩き出す。

村瀬も黙ってついていった。


外気がひんやりと肌に触れる場所。

東京の夜景が遥か遠くまで広がっている。


その景色を背にして、新城が口を開いた。


「……ここまで、ようやくこれたわ」


低く、しかし熱を帯びた声だった。


「ほんま、長かった。……ようやく、や。」


振り返り、村瀬の目を真っ直ぐに見据える。


「けどな、これで終わりちゃう。

次は日本シリーズ。これが本当の勝負や」


「セ・リーグで勝っただけで満足しとったら、すぐ忘れられる。来年には別のチームが笑っとる」


「俺らが、ほんまに“記憶”に残るんは――」


拳をぎゅっと握る。


「日本一になったときや。

そのとき初めて、“あの年のジャガーズはすごかった”って、何十年も語り継がれるんや」


「そうならん限り、俺らはただの通過点や。

ここでこけたら、何も残らん。優勝も記録も、全部霞む」


「せやから――」


一歩、村瀬に近づく。


「絶対勝つぞ。俺らで、皆んなの記憶に、焼き付けるんや!」


村瀬は胸が熱くなるのを感じた。

少年の頃から追いかけた夢。その先にある頂点が、ついに見えてきた。


「はいっ!」


強く、力強く、頷いた。


星の瞬く東京の夜空に、ふたりの誓いが響いていた――。

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