表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

85/117

vs中部ハリケーンズ

夏場のロードを戦い抜く中で、関西ジャガーズは確かな復調の兆しを見せ始めていた。

機動力と鉄壁の守備で、順調に勝利を積み重ね、選手たちの表情に自信が戻っていた。


次なる相手は、敵地ナゴヤドームで対する中部ハリケーンズ。シーズンも終盤に差しかかるこの大事な時期、首位とのゲーム差を詰めるには、もう一敗もできない。



初戦。

先発は飯川慶。最速151 km/hのストレートと、曲がりながら落ちるチェンジアップ、切れ味の鋭いスライダーを武器とする、ジャガーズの若手エース。


対するハリケーンズの先発は、若き右腕・河上憲伸。140キロ台中盤の直球と多彩な変化球を武器に、ここまで防御率リーグ2位と快投を続けている好投手だ。


序盤から緊迫した投手戦。両軍スコアボードに「0」が並ぶ中、動いたのは6回表だった。


一死一塁。打席には4番・新城剛志。

河上の2球目、内角低めのカットボールを完璧に捉えた。


「打った! センター、抜けるか──!」


打球は中堅右を深々と破り、俊足の村瀬が一気にホームイン。ジャガーズが1点を先制する。


その1点を守り切るべく、試合は後半へ。


7回、マウンドに上がったのは、勝利の方程式“JFK”──ジェンセン。

スリークォーターから繰り出す155km/hのストレートと、鋭く曲がるスライダーで打者をねじ伏せ、三者凡退に切って取る。


8回──小久保友之。

右足を高々と掲げるトルネードモーションから、157km/hの速球と高速スライダーを織り交ぜ、こちらも三者凡退。


そして、1-0のまま迎えた9回裏。

マウンドには守護神──富士川球児。


立ち上がりは順調だった。二死ランナーなし。


だが、そこから流れが一変する。


3番・服留がフルカウントから四球。

続く4番・山咲が粘ってライト前ヒット。一、三塁。


打席には、「ミスターハリケーンズ」こと立波和義。


球場が沸く。ベンチが立ち上がる。

富士川が深く息を吸い込み、帽子のつばをぎゅっと握りしめた。



一球目、153km/hのストレート。立波、空振り。

二球目、フォーク。外れてボール。

三球目、再びストレート。ファウル。


カウント1-2。追い込んだ。


──ここで勝負をかけた。


渾身のストレート。

富士川の右腕が唸りを上げる。


「投げたッ──ストレート、インローいっぱい──空振り三振ッ!!」


ナゴヤドームが一瞬、静寂に包まれる。

そして、ジャガーズベンチが跳ね上がった。

三塁側スタンドのファンがタオルを振る。富士川、右拳を高く突き上げた。


JFKの継投で逃げ切った初戦。

ハリケーンズの主砲を封じた富士川は、背中越しに村瀬とハイタッチを交わし、静かにベンチへと戻った。






第二戦

宿敵・山元昌が立ちはだかる。

村瀬浩にとって、彼は特別な存在だった。

プロ一年目、手も足も出なかった相手。その記憶は今も脳裏に焼き付いている。



試合前、打撃ケージ裏で声をかけてきたのは、新城剛志だった。


「浩、お前また考えすぎて固まっとるやろ」


「…いや、そんなことは……」


「ええから一回、頭空っぽにして打席立ってみ。来た球、ぶっ叩くだけ。それでええねん」


そう言って、にやりと笑って去っていった。



一回表、村瀬の第一打席。


ワンアウトランナーなし。

打席で意識しすぎた村瀬は、高めのスクリューに手を出し、フラフラと舞い上がった打球は、無情にも捕手のミットへと収まった。


キャッチャーフライ。


ベンチに戻った村瀬の肩を軽く叩いた新城が、耳元でささやいた。


「ほらな、相手のことを考えるんは、打席立つ前までや。立ったらもう何も考えるな」


その言葉通りだった。


二回表、四番・新城。山元の初球を豪快にフルスイング。快音を残して、打球は一直線にバックスクリーンへ。ジャガーズ、1-0。


ホームに戻ってきた新城が、村瀬の前でニヤリと笑う。


「な?こうやって打つんやで」




五回表、村瀬の第二打席。


「ただ振る。それだけや」


初球、インコース寄りのストレート。

反射的にフルスイングした打球は、レフトフェンスを直撃。悠々と二塁へ到達する。


これまで積み重ねてきた打撃理論が、意識せずとも体の奥から引き出された。理屈ではない。手応えだけが全てを証明していた。



その裏、河尻が立波にインローのシュートを捉えられ、逆転のツーラン。


1-2。




迎えた七回表、ツーアウト走者なし。

村瀬、三打席目。


追い込まれながら、体は迷っていなかった。山元が投じた外角低めのカーブに対し、ためらいなくフルスイング。

高く上がった打球が伸び、レフトスタンドへ飛び込んだ。


同点、2-2。



静かだったジャガーズベンチが、一気に総立ちとなる。


“苦手”を打ち砕く一撃。




そして試合は、2-2で最終回へ。


9回表、二死無走者。

またしても、村瀬に打席が回ってきた。


初球、ボール。

二球目、スライダー。ファウル。


三球目――スクリュー。


外角低め、ストライクゾーンから沈む球。


「来た……!」


バットが一閃、白球はセンター後方へ。

バックスクリーンへと吸い込まれるように飛び込んだ。


逆転のソロホームラン。ジャガーズ、3-2。



ベンチへ戻った村瀬を迎えた新城が、ぽんと背中を叩く。


「これでお前も、本物やな」



村瀬はこの日、4打数3安打2本塁打。


苦手としていた山元昌をついに攻略し、自身の成長を強く実感した夜となった。


試合後、ベンチ裏の通路で、村瀬は一人バットを見つめていた。


「俺は、もっと上へ行ける――」



連勝。打ち崩せなかった壁を越え、繋がらなかった攻撃がつながり始めた。


ジャガーズが、もう一度上昇気流に乗ろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ