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83/117

vs瀬戸内シャークス

夏の陽が容赦なく照りつける広島市民球場。遠征続きの“地獄のロード”がはじまり、関西ジャガーズの投手陣には徐々に疲労の色が浮かびはじめていた。

そんななかで迎えた、瀬戸内シャークスとの三連戦。リーグ首位をひた走る武蔵タイタンズに喰らいつくためにも、落とせないカードだった。


先発は飯川慶。

立ち上がりから低めのチェンジアップとインコースのストレートで相手打線を翻弄し、8回まで無安打投球を続ける。打線も中盤にかけて小刻みに加点し、9回裏を迎えた時点でスコアは4-0。

スタンドではノーヒットノーランへの期待が高まり、ベンチでは“完封”という二文字がちらつきはじめていた。


だが9回裏。先頭の9番、代打に背番号1──眞栄田智徳が告げられる。


「ミスター赤バット」山元監督がこの男に託したのは、勝利ではなく、空気を変える“一発”だったのかもしれない。


2ボール2ストライクから、飯川の甘く入ったストレートが真ん中に浮いた。


甘く入ったストレートを完璧に捉え、打球はバックスクリーンへ突き刺さる。


「入ったぁ! バックスクリーン、一直線!」


球場が揺れた。これで空気が一変する。

飯川のリズムも一気に崩れる。


続く1番・紀村には死球、そして即座に盗塁を決められ、無死二塁。

焦りが顔に滲む飯川。

2番・比嘉氏出、3番・尾形の連打でノーアウト満塁。


ベンチが動けぬうちに、瀬戸内の主砲──4番・兼元知憲が打席に立つ。


瀬戸内の主砲は初球、インローに入ったチェンジアップを振り抜いた。

鋭い放物線。打球はライトスタンド中段へ突き刺さった。


まさかのサヨナラ満塁ホームラン。あまりにも劇的な幕切れだった。


8回までの完璧な投球は幻となり、4点差のセーフティリードが、4-5の逆転負けへと変わった。





続く2戦目、試合は投手戦。ジャガーズは苦しい展開のなかで粘り強くリードを守っていた。

先発・河尻が6回1失点と粘り、打線は7回に1点を勝ち越し、スコアは2-1。


9回裏。マウンドには守護神・富士川球児。


真っ直ぐ一本で勝負できる右腕。だが、オールスター明けからの登板過多により、直球のキレにやや陰りが見えはじめていた。


先頭の8番・捕手の虹山に四球。嫌な空気が漂いはじめる。


ベンチが警戒するなか、バッターボックスには、またしても眞栄田智徳。


「2日連続はさすがにないやろ──」


そんな思いが、誰の脳裏にも浮かんだ瞬間だった。



「打ったぁ!! ライトへ!!」


高めに浮いたストレートを完璧に捉え、打球は一直線にライトスタンドへ突き刺さった。


広島市民球場に、二夜連続のサヨナラ弾が響き、再び大歓声に包まれる。


ジャガーズベンチは静まり返った。マウンド上の富士川は、呆然と立ち尽くしていた。




二日連続の逆転サヨナラ負け。連敗を止めるためにも、三戦目は絶対に落とせない試合だった。


試合は序盤から一進一退の展開。ジャガーズは6回に酉谷と檜山のタイムリーで4-2とリード。先発・濃見の粘投と中継ぎ陣の好投で、試合は9回裏へ。


再び、マウンドには富士川。


スタンドのファンは三夜連続の奇跡を信じて声援を送る。


先頭・紀村をセカンドゴロ。だが続く比嘉氏出、尾形に対し、ストレートが浮きはじめ、まさかの連続四球。


ワンアウト一二塁。ここで乃村監督は、ベンチからジェンセンを告げる。


「行ってこい。もう、全部託すわ」


ジェンセンも疲労により、登板間隔が空いていたが、ここが勝負と踏んだ采配だった。


ジャンセンが立ち向かうのは、またしても4番・兼元。場内は異様な熱気に包まれる。


カウント1-1から投じた得意のスライダー、兼元のバットがわずかに泳ぐ。


打球はショート正面、酉谷が軽快に処理し、村瀬へ、そして檜山のミットへ──


「ダブルプレー! 試合終了!」


三塁ベンチの選手たちが安堵の拍手を送る。ようやく、最後の3アウトを取り切った。ジェンセンの気迫が、チームにわずかな光をもたらした。




…このカードは、眞栄田智徳という“天才”が魅せた三連戦となった。


だがその裏で、村瀬浩は静かに変化を始めている。

誰にも気づかれず、だが確かに。

必要なのは、確率ではない。勝負を決める“一撃”だ。


眞栄田のような天才ではない。富士川のような鉄腕でもない。

それでも、積み重ねた先にしか見えない景色がある。


今、村瀬の打席に、その兆しが確かに灯り始めていた──。

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