vs瀬戸内シャークス
夏の陽が容赦なく照りつける広島市民球場。遠征続きの“地獄のロード”がはじまり、関西ジャガーズの投手陣には徐々に疲労の色が浮かびはじめていた。
そんななかで迎えた、瀬戸内シャークスとの三連戦。リーグ首位をひた走る武蔵タイタンズに喰らいつくためにも、落とせないカードだった。
先発は飯川慶。
立ち上がりから低めのチェンジアップとインコースのストレートで相手打線を翻弄し、8回まで無安打投球を続ける。打線も中盤にかけて小刻みに加点し、9回裏を迎えた時点でスコアは4-0。
スタンドではノーヒットノーランへの期待が高まり、ベンチでは“完封”という二文字がちらつきはじめていた。
だが9回裏。先頭の9番、代打に背番号1──眞栄田智徳が告げられる。
「ミスター赤バット」山元監督がこの男に託したのは、勝利ではなく、空気を変える“一発”だったのかもしれない。
2ボール2ストライクから、飯川の甘く入ったストレートが真ん中に浮いた。
甘く入ったストレートを完璧に捉え、打球はバックスクリーンへ突き刺さる。
「入ったぁ! バックスクリーン、一直線!」
球場が揺れた。これで空気が一変する。
飯川のリズムも一気に崩れる。
続く1番・紀村には死球、そして即座に盗塁を決められ、無死二塁。
焦りが顔に滲む飯川。
2番・比嘉氏出、3番・尾形の連打でノーアウト満塁。
ベンチが動けぬうちに、瀬戸内の主砲──4番・兼元知憲が打席に立つ。
瀬戸内の主砲は初球、インローに入ったチェンジアップを振り抜いた。
鋭い放物線。打球はライトスタンド中段へ突き刺さった。
まさかのサヨナラ満塁ホームラン。あまりにも劇的な幕切れだった。
8回までの完璧な投球は幻となり、4点差のセーフティリードが、4-5の逆転負けへと変わった。
続く2戦目、試合は投手戦。ジャガーズは苦しい展開のなかで粘り強くリードを守っていた。
先発・河尻が6回1失点と粘り、打線は7回に1点を勝ち越し、スコアは2-1。
9回裏。マウンドには守護神・富士川球児。
真っ直ぐ一本で勝負できる右腕。だが、オールスター明けからの登板過多により、直球のキレにやや陰りが見えはじめていた。
先頭の8番・捕手の虹山に四球。嫌な空気が漂いはじめる。
ベンチが警戒するなか、バッターボックスには、またしても眞栄田智徳。
「2日連続はさすがにないやろ──」
そんな思いが、誰の脳裏にも浮かんだ瞬間だった。
「打ったぁ!! ライトへ!!」
高めに浮いたストレートを完璧に捉え、打球は一直線にライトスタンドへ突き刺さった。
広島市民球場に、二夜連続のサヨナラ弾が響き、再び大歓声に包まれる。
ジャガーズベンチは静まり返った。マウンド上の富士川は、呆然と立ち尽くしていた。
二日連続の逆転サヨナラ負け。連敗を止めるためにも、三戦目は絶対に落とせない試合だった。
試合は序盤から一進一退の展開。ジャガーズは6回に酉谷と檜山のタイムリーで4-2とリード。先発・濃見の粘投と中継ぎ陣の好投で、試合は9回裏へ。
再び、マウンドには富士川。
スタンドのファンは三夜連続の奇跡を信じて声援を送る。
先頭・紀村をセカンドゴロ。だが続く比嘉氏出、尾形に対し、ストレートが浮きはじめ、まさかの連続四球。
ワンアウト一二塁。ここで乃村監督は、ベンチからジェンセンを告げる。
「行ってこい。もう、全部託すわ」
ジェンセンも疲労により、登板間隔が空いていたが、ここが勝負と踏んだ采配だった。
ジャンセンが立ち向かうのは、またしても4番・兼元。場内は異様な熱気に包まれる。
カウント1-1から投じた得意のスライダー、兼元のバットがわずかに泳ぐ。
打球はショート正面、酉谷が軽快に処理し、村瀬へ、そして檜山のミットへ──
「ダブルプレー! 試合終了!」
三塁ベンチの選手たちが安堵の拍手を送る。ようやく、最後の3アウトを取り切った。ジェンセンの気迫が、チームにわずかな光をもたらした。
…このカードは、眞栄田智徳という“天才”が魅せた三連戦となった。
だがその裏で、村瀬浩は静かに変化を始めている。
誰にも気づかれず、だが確かに。
必要なのは、確率ではない。勝負を決める“一撃”だ。
眞栄田のような天才ではない。富士川のような鉄腕でもない。
それでも、積み重ねた先にしか見えない景色がある。
今、村瀬の打席に、その兆しが確かに灯り始めていた──。




