vs青山スワンズ②
第1戦の敗戦から一夜。
打線の繋がりを断たれ、試合の空気そのものを支配された関西ジャガーズは、雪辱を期して第2戦に臨む。
先発を任されたのはベテラン・河尻哲郎。
右のサイドスローから繰り出すジャイロボールに、スライダー、カットボール、チェンジアップ――。
精緻な制球と多彩な球種を武器に、要所を締める投球を見せた。
だが、4回。
一死一塁、スワンズの3番・藤永のセカンドゴロを村瀬が焦って一瞬握り損ねる。併殺を取り損ね、1・2塁。
続く4番・大瀬が外角低めを流し打ち、レフト前へ先制のタイムリー。
「抑えていたはず」のリズムを、ほんの小さな綻びから崩される――そんな展開だった。
関西ジャガーズも反撃の機会を伺いながら、スワンズ中継ぎ陣の前に沈黙が続く。
古舘のリードにより、ジャガーズ打線はタイミングを外され、差し込まれ、凡退の山を築いた。
そして迎えた7回表――1点ビハインド。
1アウト走者なしの場面で打席に立つのは、2番・村瀬浩。
インコースへのストレートを思い切り引っ張った。
詰まりながらも、打球はライト前へポテンと落ちるヒット。ようやくつかんだ突破口だった。
1塁に立つ村瀬。続く3番・檜山が、スライダーをライト線へ強く弾き返す。
ライトがすぐさまカバーに入り、カットマン・セカンドへ。そこから捕手・古舘への送球――。
その一連の動きに、一切の無駄がなかった。
村瀬は全力でホームを狙った。だが、三塁ベースを蹴った瞬間には、すでに“待ち伏せ”されていたかのような完璧な中継プレー。
矢のような返球を受けた古舘が、ブロック体勢に入りつつ、冷静にタッチアウトを決める。
――あと一歩、届かなかった。
「今の……回しても無理やったんか?」
ベンチに戻る村瀬が、ヘルメットを外しながらそう呟く。
だが、矢乃は知っていた。あのプレーは偶然でも、ただの好守でもない。
「読み切られてたんや……あの人に」
打球のコース、カウント、村瀬の走力、ベンチの勢い――
全てを踏まえた上で、古舘はあの瞬間の「走らせる流れ」を設計していた。
スコアボードに並ぶ“0”と“1”。
たった一点の差。その背景にある“操作”の凄みを、矢乃は誰よりも痛感していた。
「……悔しいけど、あの人は“試合そのもの”を設計してくる」
そして9回表、最後の攻撃。
1アウト走者なしで、打席には7番・矢乃。
初球。
スワンズの守護神・高槻臣吾が投じたのは、外角への沈むシンカー。
矢乃は迷いなくフルスイング――だが、バットは空を切る。
(……振らされた)
内角を警戒しつつ「初球からいけ」と準備していたつもりだった。
だが、それすら見越されていたようなボールの軌道。
完全に“狙いを外された”ことが、体の感覚ではっきりと伝わってきた。
続く2球で追い込まれ、最後は外角高めのストレートで空振り三振。
ゲームセット。
またしても、スワンズの思い描いた“勝ち筋”に乗せられたような敗戦だった。
スコアは0-1。
内容は拮抗していても、決定的に“差”を感じさせる試合。
ベンチに戻った矢乃は、自身のグラブをじっと見つめた。
「……一手先じゃない。二手三手先を読まれてる」
捕手として、打者として。
今、自分がどの地点にいるのか――その現実を、否応なく突きつけられた敗戦だった。




