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後半戦再開vs青山スワンズ①

真夏の太陽が照りつける神宮球場。

セ・リーグの覇権争いが激しさを増す中、後半戦の火ぶたが切って落とされた。


敵地に乗り込んだ関西ジャガーズ。対するは青山スワンズ。

かつて乃村克也監督が9年間指揮を執り、ID野球を徹底させ日本一に導いた古巣だ。

そのチームを今率いるのは、かつての教え子・古舘敦也。師弟として球界を席巻した両者が、今は敵として再会する。


「よう育てたもんや。……完全にワシを超えとるな」

試合前の囲み取材で、乃村はそう口にした。

その顔に笑みはあったが、目にはほんのわずかに複雑な色が宿っていた。


一方、スワンズのベンチでキャッチャーミットを締め直した古舘は、ベンチ裏を静かに見つめていた。


「教わったものは、越えるためにある。それが師弟ってもんでしょ」




1戦目の先発は、関西ジャガーズのエース・矢吹恵一と、スワンズの絶対的エース・石居一久。

シーズン後半の開幕カードにふさわしい、両エースによる緊迫の投手戦で始まった。


石居は初回から並外れたキレ味を見せた。

スライダーとフォークで揺さぶりをかけ、1番・紅星、2番・村瀬を凡退に仕留めると、3番・檜山には低めのフォークで空振り三振。完璧な立ち上がりだった。


だが、矢吹も負けてはいなかった。150km/hを超える直球をコーナーに投げ分け、スワンズの強打者たちに的を絞らせない。3回まで両軍無得点。

試合は静かに、しかし着実に熱を帯びていった。


4回、ジャガーズベンチの空気に、どこか奇妙な“ずれ”が漂い始めていた。

1番・紅星が初球の甘い球を見逃し、2番・村瀬はタイミングを外され打ち損じ。

続く檜山は狙っていた内角球が来ず、外角のフォークを泳がされて打ち上げた。


「なんやろな……うまく打てへんってだけとちゃう。狙い球が、全部ズレてる」


ベンチで今丘が呟く。

相手投手・石居の好投はもちろんだが、それ以上に“打者の読み”が尽く外れていた。

配球の裏をかかれるどころか、“読みそのものが成立していない”ような感覚だった。


7番打者・矢乃輝弘は、その異変の理由を、マスク越しに悟り始めていた。


――古舘だ。


試合開始から一貫して、相手捕手・古舘が石居に出すサイン。

テンポ、リズム、タイミング。全てが緻密に設計され、試合の“空気”そのものが操られている。


ピッチャーを動かすのではなく、相手打線全体を“ずらす”。

守りながら攻めてくる。そんな奇妙な感覚。


(……こいつ、試合を“打たせて勝つ”んやない、“流れごと壊しにきとる”)


それは、ただの配球術ではなかった。

紅星の出塁がないと見るや、即座に村瀬への攻めを変え、檜山には打たせて取る形を徹底。

打順の“流れ”を切断するために、相手の狙いや心理すら計算していた。


矢乃の打席。古舘はあえてど真ん中にストレートを見せたあと、静かにフォークを落とす。

読まれている――いや、導かれている。


打球は、ショート正面のゴロ。完全に計算されたアウトだった。


(捕手で、ここまで試合を支配できるのか……)


矢乃は、背番号27を背負ったその背中を見つめながら、自分との“決定的な差”を感じていた。


試合は終盤、スワンズの誇る必勝リレー――嵐良太、高槻臣吾へとつながれ、ジャガーズ打線は完全に封じられた。


9回表。代打・比呂澤克実が打席に立ったが、かつての豪打も影を潜め、空振り三振。

試合は0-2でスワンズが勝利。関西ジャガーズは後半戦の初戦を、重苦しい黒星で落とした。


ベンチに戻った矢乃は、誰にも聞こえない声で小さく呟いた。


「……勝ち方を、設計してる。あの人は」


それは、捕手としての“根本”を揺さぶられる敗戦だった。

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