背中の言葉─「まだまだだな」
オールスター前の練習日。関西ジャガーズのクラブハウスでは、各選手がそれぞれ調整に励んでいた。
酉谷は、バッティングゲージの前でティーを黙々と打っていた。
今年ブレイクを果たし、レギュラーをつかみ、そこそこの成績も残している。
だが──周囲を見渡せば、檜山や新城といったベテランの成績とはまだまだ差がある。
(俺、ほんまに一軍の「主力」って言えるんか?)
そんな思いが頭をよぎった瞬間、背中から声が飛んだ。
「まだまだだな。お前、もっと打てるやろ」
低くて、重たい声。振り返ると、新城剛志が腕組みをして立っていた。
「……でも、それなりにやれてるとは思ってて」
「“それなり”で満足するやつが、勝負強い打者になれると思うか?」
言葉は厳しい。でも、目は笑っていた。
「酉谷、お前が一番伸びる可能性があるんや。オールスターに呼ばれへんかった? 当たり前や。お前の本気は、まだ誰も見てへん」
「……本気、か」
その日の練習後、村瀬と紅星も口を揃えて言っていた。
「やっぱ、新城さん、見てるよな」
「“まだまだや”って一言が、なんか腹立つけど、納得してまうんよな……」
3人とも、それぞれのポジションで今季の実績を積み上げつつあった。
だが、オールスターには誰も選ばれなかった。
「実力不足やってことや」
それぞれが自分の言葉でそうつぶやく。
けれど、その悔しさは、確かに彼らを一歩、前に進めていた。
──「まだまだだな」
その言葉が、背中を押す。
後半戦、ジャガーズの飛躍を支えるのは、間違いなくこの“悔しさを忘れなかった若手たち”なのかもしれない。




