書き換えられた未来
12月。俺たちは“自主合宿”を企画した。
場所は、リュウスケの親戚が管理している山奥の研修施設。古びた体育館と、芝生の広場だけがある、小さな場所だった。
雪のちらつく寒空の下、俺たちは外野の芝にコーンを並べ、ランメニューをこなしていく。
未来で学んだ効率的なフォーム改造メニューと、負荷を最適化した筋力トレーニング――どれも、プロの現場で使われていた本物の内容だ。
「……これが、プロの練習なんやな」
ナオキが感嘆したように呟いた。
合宿の夜、ストーブの前で汗を拭きながら、俺はみんなに語りかけた。
「目標は、甲子園。でも――俺は、その先のプロも本気で目指してる。笑われても、ええ。俺は、絶対にあきらめへん」
静まり返る空気の中、リュウスケが声を上げた。
「笑うかアホ! 俺もや!プロ、目指してたんや、ずっと!」
「お、おれも!ドラフト1位になって、契約金で焼肉おごったる!」
カイトが笑いながら続くと、ソウタだけはしばらく黙っていた。
でも、やがてゆっくりと顔を上げ、目を輝かせて言った。
「みんなで行こうや。プロでも、甲子園でも――どこまでも。俺らなら、行けるって信じてる」
それは、ただの言葉じゃなかった。
俺たちの決意を固める“約束”だった。
──確かに、俺が知っていた未来とは違う。
けれど今ここにあるのは、間違いなく「新しい現在」だった。
年が明ける頃、俺たちは「高校野球部に自分たちの改革を持ち込む」準備を進めていた。
上方第一高校には、名門校のような伝統もなければ、ガチガチの指導体制もない。
だからこそ、俺たちのような“異端児”が入り込める隙間がある。
ある日、進学予定者向けの情報として、別ルートで入学する推薦組の名簿が一部公開された。
その中に――見慣れない名前があった。
《水科 誠司/東京都・武蔵野シニア》
(……誰や、この名前)
直感が告げた。これは“脅威”だと。
水科誠司。1回目の人生では、関東の強豪校でキャプテンを務めていた天才キャッチャー。
そんな彼が、まさか大阪の、俺たちの学校に進学してくるとは――完全に予定外だった。
「……また未来が、変わってる」
ゾクリと背筋が冷えた。
だが次の瞬間、俺の胸にはある想いが湧き上がっていた。
(……もしかして、俺たちの未来は、もっとスゴいもんになるんちゃうか?)
これはもう、1回目の“再現”じゃない。
完全に新しく書き換えられていく、俺たちだけの物語だ。
「よし……やったるで」
静かに拳を握った。
春の訪れとともに、俺たちは上方第一高校に進学した。
校門をくぐる瞬間、俺は心の中で強く誓った。
(ここからが本当の勝負や。甲子園も、プロも、自分の手でつかむ)
入学直前、グラウンドで野球部の練習を見に行ったとき――
そこで、初めて水科と顔を合わせた。
キリッとした眼差し、鋭く迷いのないスイング。見ただけで分かる。「本物」だった。
「君が……村瀬浩くん?」
「そうや。お前が、水科誠司か」
「うん。俺、プロ目指してる」
その一言に、思わず笑ってしまった。
「なら、ライバルやな」
水科はニッと笑いながら、右手を差し出した。
「いや、仲間でしょ。まずは――甲子園。一緒に行こう」
その手を、俺はしっかりと握り返した。
俺たちの“二度目の人生”は、もう誰かが敷いたレールの上じゃない。
自分たちで選び、築いていく、ただ一つの道だ。