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繋がる打線、動き出す鼓動

オープン戦も中盤に差し掛かり、乃村監督が描く戦略が徐々に形になってきていた。


「走って、出て、つないで、返す」


これまで“打って勝つ”を信条としてきたジャガーズにとって、それは革命的とも言える方針転換だった。


打線のカギを握るのは、1番・紅星憲弘、2番・村瀬浩、そして8番・壷井智哉――誰を取っても、他球団ならリードオフマンを任されるだけの実力者たちだ。


「8番に壷井か……普通ならありえへんやろ」


そう漏らしたのは、打撃コーチだった。

昨年まで不動の1番打者として活躍していた壷井を、あえて8番に配置する。その意図は明快だった。


「8番で出塁して、9番の投手が送る。そこで1番紅星に回れば、もう一度チャンスが作れる」


打線を“循環”させる。

打順をひとつのサイクルとして設計し、毎回のように得点機を創出する。

大量得点を狙うのではなく、着実に1点を積み重ねていく――繊細で緻密な、まさに機動力野球の真骨頂だった。


紅星はその象徴とも言える存在だった。俊足を武器に、すでにオープン戦で5つの盗塁を記録していた。


「ぼくが塁に出れば、村瀬くんが送ってくれる。こういうチームプレー、気持ちいいですよ」


紅星の目は、自信に満ちていた。一方、2番を担う村瀬はというと――


「いや、送ってばっかりちゃいますよ? オレが出たら自分で走りますし、チャンスなら打ちにもいきますよ」


走塁意識の高い二人の存在が、ジャガーズ打線に新たな風を吹き込んでいた。


その後ろには、3番・檜山進次郎、4番・新城剛志という勝負強い打者が控える。


檜山はホームランを狙える打者ではあるが、このチームでは一発長打に頼らず、つなぐ意識を強めていた。特に流し打ちで逆方向へのタイムリーが増えており、器用な中距離打者として進化しつつある。


そして新城は、得点圏打率の高さだけでなく、ここぞという場面で試合を決める一撃を放つ力があった。プレッシャーのかかる局面で、球場全体の空気を変えてしまうような存在感がある。


「紅星、村瀬が出たら、必ず還す。それがオレの仕事や」


そう語る新城に、檜山も静かに頷いた。


5番から7番には酉谷、今丘、矢乃という堅実な打者が並ぶ。

派手さはないが、バントや進塁打、右打ちなど“つなぎの意識”が高く、次の打者に託す姿勢を徹底できるメンバーだ。


「打率より、つなぎ。野球ってのは、地味なとこで勝負が決まりますから」


そう語る酉谷の一言が、まさにこの打順の“芯”を物語っていた。


そして注目すべきは、8番・壷井の役割である。


「最初は“8番?”って思ったけどね。でも打席に立てるなら、どこでもいい。自分の仕事をするだけさ」


かつてのリードオフマンは、下位打線からの出塁という役割を受け入れ、その経験と出塁力をチームに還元していた。

彼が塁に出れば、9番投手が送り、1番の紅星に回る――この“逆流”のサイクルがリズムよく回りはじめていた。


さらに、ベンチには頼れる男がいる。比呂澤克実――かつて青山スワンズで4番として日本一に貢献し、打点王にも輝いたベテランスラッガーだ。


その後FAで武蔵タイタンズに移籍したものの、球界の盟主という環境の重圧に苦しみ、本来のバッティングを発揮できぬまま戦力外となっていた。


そんな彼に手を差し伸べたのが、乃村監督だった。


「お前は、まだ終わってへん」


その一言で、比呂澤はジャガーズのユニフォームに袖を通すことを決めた。

長打がほしい場面、勝負所での代打要員としての期待はもちろん、ベンチでの言動や存在感もまた、若手選手たちにとって刺激となっていた。


こうして、オープン戦の打順は固まりつつある。


スラッガー頼みではなく、走塁と出塁、そして意識の共有で点を取る――

乃村ジャガーズの新機軸は、静かに、しかし確かに動き始めていた。

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