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春、動き出す力

三月初旬、関西ジャガーズはオープン戦初戦を迎えた。

春の陽射しが柔らかく球場を照らす中、新たなシーズンへの胎動が、確かに始まっていた。


注目を集めたのは、やはりルーキー・紅星憲弘だった。

一番・レフトでスタメンに名を連ねた紅星は、初回の打席でいきなり内野安打で出塁。さらに続く打者の初球で迷わずスタートを切る。

一塁から二塁へ、一瞬の加速で滑り込んだ。

相手バッテリーは対応しきれず、スタンドからはどよめきと拍手が沸いた。


「走り出すタイミングが完璧やな……」

ベンチでその様子を見ていた村瀬浩が、ぽつりとつぶやく。


紅星の足は単なる速さだけではなかった。

塁間の走塁コース、スライディングの角度、ベース手前での減速と再加速のバランス。どれも実戦慣れしたベテランのように研ぎ澄まされていた。

その日、紅星は四打数三安打。盗塁二つに加え、犠牲フライでもしっかりと三塁からタッチアップを決めた。


機動力――。

ジャガーズが掲げる今季のキーワードが、ひとつの形になって現れた試合だった。


その後も紅星はオープン戦で結果を出し続けた。バント安打、叩きつけたゴロでの内野安打、選球眼を活かした四球出塁。いずれも足を活かし、相手バッテリーにプレッシャーをかけ続ける。

その影響で、打線全体にも“走る意識”が伝播していった。壷井や檜山といったベテラン勢も積極的に次の塁を狙うようになり、試合ごとに盗塁数と得点が伸びていく。


「これが“総力”ってことか」

乃村監督が呟いた言葉には、確かな手応えがにじんでいた。


一方、投手陣にも好材料が揃い始めていた。


エース・矢吹恵一は、相変わらず無駄のない投球でオープン戦から安定感を見せていた。

威力あるストレートと緩急を使い分けるスライダー。加えて、この春にはフォークの精度もさらに増していた。


そしてもう一人の柱――飯川慶。

昨シーズンは自身初の2桁勝利をマークした左腕は、今季さらなる飛躍を感じさせる内容だった。

最速151キロのストレートに加え、同じ腕の振りから投じるチェンジアップが、昨年以上にキレを増していた。

球場のスピードガン以上に、打者の反応がそれを証明していた。


さらに、今年入団したばかりの濃見篤史も、評価を大きく高めていた。


「ほんまにルーキーか?」

ある試合での登板後、飯川がぽつりと漏らしたほどだ。


左のスリークォーターという特徴に加え、ストレートの球威とコントロール、そして多彩な変化球。特に左打者への攻めが絶妙で、スライダーとチェンジアップの使い分けで凡打の山を築いた。

濃見と飯川は同い年。実績こそ飯川に軍配が上がるが、内容では決して劣っていない。

ベンチの中では自然と、二人を並べて「若手二本柱」と評する声が聞こえるようになっていた。


オープン戦数試合を終えた時点で、矢吹、飯川、そして濃見――。

この三人で先発の三本柱を形成するというビジョンが、チーム内でも現実味を帯び始めていた。


攻撃では紅星を起点とした機動力。

守備では、新城を中心とした外野陣と内野の結束。

投手陣では三本柱に加え、リリーフでもジャンセン、小久保、富士川らが順調な仕上がりを見せている。


開幕へ向け、ジャガーズは確かに“動き出して”いた。


ベンチからグラウンドを見つめる村瀬の目には、静かな闘志が灯っていた。


「誰かが作った流れに乗るだけやなくて、今度は、自分が流れを作る番や」


そんな想いを胸に、村瀬はバットを手に立ち上がった。


春の熱は、少しずつ、だが確実に、チーム全体を包み込もうとしていた。

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