― 約束の続きを ―【プロ2年目編・完結】
契約更改を終えた帰り道、村瀬浩は新城剛志に連れられて、焼き鳥屋の暖簾をくぐった。
炭火の香りと懐かしい音楽が、季節外れのぬくもりを連れてくる。
「おつかれさん」
カウンターに腰を下ろし、焼酎を注文した新城が、どこか穏やかに笑う。
店内の壁に掛かったテレビには、速報テロップが踊っていた。
「相模スターズ・笹木主浩、メジャー挑戦へ」
一瞬、箸を止めた村瀬の視線が画面に吸い寄せられる。
あの9回裏、死力を尽くして向き合った“怪物”が、海を渡る――。
「……強い投手やったな、笹木さんは」
新城が、ポツリとつぶやいた。
村瀬は静かにうなずく。
「でもな」
新城はグラスを置き、まっすぐ前を見据えた。
「俺は、まだ日本でやり残したことがあるんや」
「……やり残したこと?」
「せや。育ててもろたこのジャガーズを、日本一強いチームにするってことや」
その言葉に、村瀬の胸が強く脈打つ。
一年前、ハワイの浜辺で聞いた、あの曖昧な“かもな”という返事。
日本を離れるかもしれない、と言ったあの日の背中。
でも――この人は、残ってくれた。
ともに、戦う道を選んでくれた。
(まだ続いてる。あのときの約束は、終わってへん)
「来年は、もっと勝ちましょう」
村瀬はまっすぐに言った。
「優勝狙えるチームになったと思いますし。もっと、上を」
新城が微笑む。
「お前、ええ顔になったな。……ほんま、あの頃とは比べもんにならんわ」
照れ臭そうに、村瀬は笑った。
だがその胸の奥で、確かな“灯”がともっていた。
あの日、海辺で願った未来。
この人と――関西ジャガーズと、日本一の景色を見たい。
その夢は、今も変わらず続いている。
まだ見ぬ頂へ。
戦いは、ここからだ。




