ゼロからの再起動
翌週の週末。俺は野球部のメンバーを集めて、グラウンドの隅に呼び出した。
「俺らは幸いなことに内部進学で、全員が高校入試がない。その分、高校入学までの間、特別練習をやりたいと思ってる」
リュウスケが真っ先に手を挙げた。
「特別練習って、何するん?」
「筋トレ、スイング解析、走塁理論の導入……あと、チームの戦術共有も」
「なんやそれ、大学みたいやな……」
ソウタが半笑いで言ったが、その目は本気だった。
俺は小さなホワイトボードを取り出し、未来の記憶を元にした打撃理論を図解した。
「下半身主導のスイング」「骨盤の回旋角」「インサイドアウト軌道」……そんな言葉は、当然ながら中学生には馴染みがなかった。
だけど、皆の反応は予想以上だった。
「なんか……カッコええな!」
「プロみたいやん!」
カイトが目を輝かせて言った。
「俺たち……本当に、強くなれるんか?」
リュウスケの問いに、俺は即答した。
「できる。断言する。お前らの未来は、俺が知ってる。信じてくれるなら、絶対、プロも夢じゃない」
それは、ある意味で嘘だった。
彼らがプロになった未来など存在しない。1回目の人生では、誰一人としてそこまで到達できなかった。
でも、それが「過去」であっても、「今」は違う。
俺たちは、もう一度ゼロからチームを作り直す。
窪田がいないなら、自分たちが新しい“勝利の形”を作ればいい。
その日から始まった特別練習は、仲間の本気に火をつけた。
秋のある日、上方第一高校の見学会に参加した。
校舎は1回目の人生と同じだったが、野球部の雰囲気は、少し違っていた。
「お前ら、今年は中学からの内部進学組以外に、推薦が2名来るらしいぞ」
顧問のコーチが、先輩たちにそう話していた。
「推薦? 窪田やろ?」
「いや、窪田は塔蔭行くって。推薦は関東から来るピッチャーとキャッチャーやて」
俺はその場で確信した。
1回目の人生では自分が在籍していたはずの未来が、確実に失われている。
だが――逆に考えれば、“推薦枠”が空いている。
そこに、自分や仲間が割って入ればいい。
(勝てばええねん。未来なんか、全部ひっくり返したる。このチームなら、いける。窪田がいなくても――いや、いないからこそ、俺たちで作るんや)